表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/63

マーストンとレイソン

 椅子に座ったホワイトが、口を開いたのは、それからしばらくしての事だった。


「マーストン、君たちパーティーと、一度破れた彼のパーティー、2戦も行っていては劇場の客席も冷める。もう、彼らはいいんじゃないかな? 彼らは一度、負けてるし」


 クリスティーヌとニンフが、アゾトで家族の会話を楽しんでいる。

 そこから離れた場所で、終わった話を蒸し返すホワイトは、やはりマーストンとは違うようだ。


 彼はエルフで、こちら側で(人間の世界で)、彼の長く生きてきた時間を推し量る事はできない。


 ……もしかして、執事やアゾトにとっても、彼は不可解な老人なのかもしれない。

 現に、アゾトはホワイトの事をくそじじって言っていた。


 だが、この一応、まるく収まりそうな時にいう事ではないと思う。


「けれどホワイト、レイソンたち戦う気でしたよ?」


「しかし彼は、通常なら死んでいた。今回の目的は執事に力の差を見せつけ、ダークエルフに対する未練を、刈り取る事が最善となるはずだ。それにぶちゃけもう飽きた。帰りたい」


 マーストンは一歩、下がる。


 さっきの、説明の段階で言ってください……。

 そして……彼のお目付け役と言っていい、ラドルさんの口角は確かに上がった。


 今回、迷宮へ潜るために、ギルドから派遣された2人の舵は、もうきられてしまった。


 ……そう考えた方がいいだろう。そこを踏まえて考えるんだ。


「傷が浅い内に、レイソン達に伝えましょう!」

「うん、頼んだよ」

 ホワイトは、マーストンに優しく微笑む。


「ハハハ」

 マーストンは思った。何故、エルフが聖域へ、引き込まる事態になったのわかった気がした。

 それはもしかして、エルフへの風評被害であったかもしれない。


 しかし……、仕方ない。人類がエルフと言えば、ホワイト、彼なのだから……。


 ◇◇


 アレックスはマーストンと、ホワイトの会話を見ていた。

 田舎からやって来た素朴な青年と、長年生きている王宮の老獪なエルフ。


 アレックスが貴族でなくても、この状況で【世界樹の葉】の実質的なリーダーがマーストンとしても、助け舟を出さねばいけない事態という事がわかる。


「うちはこれ以上、【正義の鉄鎚】ともめると、地上に戻る際の障りになりますよ」


「人間はとても愚かだね……。彼らは負けたんだ。負けたから、救助に、我々が駆り出されたんだよ。彼らにはとうにとやかく言う権利なんてない」


「そうですが……」


 ホワイトは、明らかに煮え切らない態度の、マーストンにも苛立ちを感じているようだった。


「そうだ。マーストン、ここで無駄にレイソンへ譲れば、彼の仲間達にも危険が及ぶ事になる。俺たちが迷宮へ訪れた時、彼女たちの姿を思い出した方がいい……」


 そう言ったアレックスを、マーストンは静かに見つめる。

 やっと理解できる発想に安堵さえ覚えた。


 ……確かに、アレックスの言う通りだった。


 森に隠れる様に立っていたクリシアに、敵の目の前で死にゆくリーダーを少しでも癒そうと懸命に力を尽くしていたケイト。

 傷つき、意識をなくしていたレイソンは、その様子を知らない……。


 そう……、彼は初手で無様に、死ぬほどのダメージを腹に負い死にかかっていただけだった。


「はぁ……、僕はもう正義の鉄鎚、彼らとは違うパーティーで、彼らの命を委ねられるのは、ごめんだと思っていたのですが……、また僕がNOと言わなければいけないのですね」

「変わるか?」


 そう言ったアレックスは、僕が断る事がわかっているかのように笑顔だ。


「いえ、大丈夫です。今回は忠告ではなく、決められた事です。難しければホワイトや、ラドルさんを頼ればいい分、今回は気が楽ですし」


「えっ、いやだ!」

 そうホワイトは声をあげた。


「その場にいるエルフのホワイトは、その場で『えっ、いやだ!』と、素っ頓狂な声をあげた」

「事務員の君!」

「ラドルです」


 その会話までラドルさんの不思議なペンはすらすらと、ノートへと記入していく。

 ラドルさん自身はそれを眺めつつ、優雅に紅茶を見ながら30分おきぐらいに時計を眺めているだけだ。


「物語は楽しく、勇敢で、美しくなければいけない。だら、事実をもとにしても、そう――美しく手心を加えられないと駄目なんだ! わかるかい!?」


 そう珍しくホワイトが詰め寄る。


「すみません、生憎、私はギルドのいち事務員なので、ギルドマスターがそうと決めたのならば従う事も可能なのですが、尊い血筋のホワイト様に、いくらそう言われましても……」

 そう困惑している雰囲気で、ラドルさんは答える。


「そうか、わかった。ギルドマスターはシスタリアだね! もう、ギルド職員は頭が固いのからな――」


「ホワイト様、現在のギルドマスターはスザークです。それは2つ前のギルドマスターの名前です。あの頃は、ギルドマスターと仲がよろしかったんですか?……、あの頃の記録が、サルベージの際に最悪なのはそのせいなのですか?!」


「うーん、どうだったかな?」


 そう言うと、ホワイトは机の方をみて座り直し、紅茶を飲み出した。

 それを見て、ラドルさんはこちらを見て頷いた。


 どうやら、話はまとまったらしい。 

 ……まとまらないまでも、最悪の事態に備え、丸投げするための足掛かりは掴んだようだ。


 アレックスもうなずく。彼もついて来てくれるようだ。

 ありがたい。


「少し、正義の鉄鎚と話て来る」

 そうニンフとクリスティーヌに告げると、クリスティーヌは一緒に来ようか迷っているようだったが――。


「まーちゃん、いってらっしゃい」

 そうニンフが言うと、クリスティーヌもニンフも同じように「いってらしゃい」と、心配そうではあるが言ってくれた。


 何故か……、その横で、アザトも笑顔で「いってらしゃい」と、言って手を振っていて、それを執事が渋柿を食べてしまったような顔で見ていた。

 そして気付けば、僕の横でセラティーもそんな彼らに手を振っていた。


「レイソンと話すんでしょう? マーストンが苦手な交渉なんかはボクに任しておいてよ」

 セラティーは金色の三つ編みをなびかせて、胸をはって答える。


「ありがとう、セラティー、そしてアレックス」


 ◇◇◇


 僕らが、この大空洞で初めての居場所、玉座の間からだ出ると、揉めている声が聞こえた。


「おにいちゃんは、意識を失ってたからそんな事が言えるのー、マーストンが来てくれなかったら……」


 クリシアがレイソンにくってかかり、ケイトはその隣りでうずくまって泣いているようだ。


 そしてクリシアは、背後から現れた僕らの存在に気づかない様だが、レイソンは明らかに不機嫌な顔をして舌打ちする。


 それで僕らに気付いたのだろう、クリシアが僕らの元へ飛んで来る。


「私たち棄権するわ。もうこれ以上やってお父さん、お母さんに会えなくなるんて嫌なの!?」


 そう思いのたけを、僕らに伝えててくる。


 僕の横に立っていたセラティーが、「待っていて、ケイトと一緒に元の部屋へ戻ろうか」と、言うと……クリシアもこらえていた気持ちが決壊したのだろう。

 瞳から、大粒の涙が零れだす。 


 クリシアには決して、勇気がない。という事はない。

 彼女はしっかりと自分たちと、執事との力を見極め、ここで退く事を選んだのなら……勇気ある撤退だと言えるだろう……。


 もちろん、レイソンもそんな事はちゃんと考えていると思う。

 少なくとも、僕が彼のパーティーに居た頃は、彼はそんな人間だった。


 しかし、レイソンがこの場でその判断ができないのは、少なからず僕の存在が関係あるのだろうか?


「こういう事だ」

 レイソンは感情の乗っていない声で、ボソッと呟いた。


「わかった。ギルド側でも、【世界樹の葉】が戦うよう求めてきている。しかし僕と彼らの関係は複雑だ。戦わないに越した事はない」


 それはもともと、レイソンを落ち着けるための、アゾトの出した答えだ。レイソンにとっては結果は戦っても、戦わなくでも同じだったかもしれない。


 ――だが、冒険者なら……。


「俺は負けてない、パーティーの状況がこの結果を招いた」


 彼は廊下に握りこぶしを当てて、そう話す。

 マーストンも、アレックスもそれを聞いている。


「俺のパーティーにセルティーが居てくれたなら、俺とお前の立場が入れ替わっていたなら……そう、思うと悔しくてたまらなくなる」


 そう、彼が言い、廊下の壁を叩くと、彼のこぶしから血が流れはじめる……。


「不愉快です。レイソン、何故いつも仲間を見ないんですか?」


 そうマーストンが言うと、レイソンは悪意の籠った笑顔でマーストンを見る。

 しかし……彼は、マーストンが自分を見ずに、まるで敗者のように立っている姿を見て、ふたたび苛立つ。


「レイソンはまだ負けてない。死んでいなければ、負けていないんですよ! 僕は貴方のパーティーでいつも苛立っていた、レイソン、君も! 僕も! 仲間を見ていなかった。セルティーのように、アレックスのように、仲間を怒らせずに済む方法があったのに、僕にはそんな事に考えも及びませんでした。僕は君を見ると自分がみじめになる……。まるで、自分を見ている気分です。はぁ……すみません、失礼します……」


 マーストンはそれだけ言うと、言っている間も、レイソンの事を見る事はできなかった。

 頭を抱え、自分の中の彼に目を背ける。


 レイソンの居ない方向へと、マーストンは今は、何も考えられず歩いた。


 そして……通路の終わりで、立ち止まる。



 アレックスが静かに、マーストンの背中を軽く叩き、マーストンを労う。

 そこでも彼は、言葉を発しなかった。


 彼に何か言われれば、余計自分がみじめになる。

 マーストンは自分が蓋をしていたものの重みに、今はただ、1人でこらえるしかなかった。


 続く


見ていただき、ありがとうございました。


またどこかで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ