変化する現状
小島から流出する竜を討伐するギルドクエストの為。
ギルド職員のチトセとラドルさんは、【世界樹の葉】の皆さんと行動を共にしていました。
目の前には緑に覆われた小島と海が広がり、磯の香りが十分過ぎるほどの海らしさを演出している。
少しだけ、チトセは心の弾んだ気持ちになった。
「ダーク、先にボムボートへ乗って、チトセと、ニンフを支えてくれ」
「わかった。任せてね」
「よろしくお願いします」
まず、アレッスク様と、マーストン様が船を降りると、2人は腰の上まである海面の中で、ダークエルフ様が下したゴームボートを支えている。
海の上のボートは、波に揺られながらとても不安定に揺れていた。
そこへ、競技用の水着にライフガードを羽織っているダークエルフ様が降り、そして白の上着に、白のビキニのチトセが続く。
――水着だから海へ入ることもできるけど、やっぱり伯爵家は違う。皆さん紳士……。
チトセは思わず胸元で、こぶしを握りしめる。
次はニンフちゃんの番、彼女はひらひらとしたスカートのついたピンクの水着の上に、緑のライフジャケット姿でビーチボールを握りしめていた。
彼女は唇を引き締める。
――あれ? 怖いのかな?
そう、チトセが思った時、ドボォーン!
ニンフちゃんは海水の中へ飛び込んだ!
白い波がたち、チトセの体へとかかる。
海流の関係とマーストン様のくれた、呪術効果の紙のおかげで、やはり海水は思ったほど冷たくなかった。
これなら、海の中へ入り遊ぶことも大丈だろうと、胸をなでおろす。
「わぁ!? なにやってんのニンフ」
「マーストン、荷物は後で取りに来よう。先にニンフを連れて行ってくれ」
「みんな、ごめん!」
マーストン様は彼女のボールを持って、陸へ向かって歩いて行く。
彼女はバタ足をしながら彼へ付いて行く。
そして彼らに続いてアレックス様が、ゴムボートの紐を引っ張り島へと私たちを乗せて連れて行ってくれるようだ。
チトセは、同じ年頃のアレック様の無駄な脂肪のない背中を見て――。
――カッコいい……。なんて、思いつつ、竜が待つ島へとゆっくりと引かれていく。
◇◇◇
島の海岸線へ近づくと、島の森を見つめ、ラドルさんが立っていた。
海岸線近くにまで進んだ、ニンフちゃんがマーストン様とラドルさんの横を通り抜けようとする前に、ラドルさんは右手を斜め下へとだし彼女を遮った。
そして彼女を掴まえようとしていた、マーストン様と何やら話し始めたようだ。
チトセもボートで移動できる限界ほどまで辿り着つき、青にも黄緑にも見える少し冷たい海水へ足をつけた。
ボートを降りて、ラドルさんたちの視線の先を見ると数匹の立ち上がっている竜が木の影に一瞬見えた。
そしてしばらく見続けていると、地上から10メートルほど上がった崖の上で数匹が歩きまわっている。
その姿に彼女の目は釘付けとなる。
「サンキュ」
その声に、横を向くとダークエルフ様が、アレック様に剣を渡していました。
彼は、剣をスカバードから剣を引き抜くと、彼らは抜き身の剣と、ベルトについたそれごと持って、砂浜へ上がり置かれていた流木へ引っ掛ける。
「ラドルさん攻撃に参加されますか?」
「いえ、こちらの非戦闘員の守りを優先させてください」
「わかりました。ニンフの事よろしくお願いっします」
そうマーストン様は言うと、一歩前へ進みでる。
「いらしてください! 地下の堅実な王へルモンド!」
――召喚の技を見る事ができる……。
チトセの目は、手を高く掲げた若い召喚師へとくぎ付けとなった。
彼の目の前には牛より巨大なノームが姿を現すと、大きな背中のそれは、微動だにせずにいた。
だが、突然――。
崖がそこに居たはずの竜ごと隆起して、ゴゴォォ! っと音とをたてながら、断末魔と言うにはあまりに短いソレをも飲み込む。
そして気付いた時には、全てを喰らった岩の塊が出来ていた。
しかし、それより前にいち早く難を逃れた、竜たちが体をひねるように、砂浜へとドンドンドン!と音をたてながら飛び降りていた。
その時、シャシャャ、竜は剣と剣とすり合わせたような鳴き声をたて、爬虫類のその目はチトセを見た。
「あっ……」
彼女の喉から出た声は、それが精一杯、体はどうすれば……いうに及ばず。
思考も一時、そこで途絶える。
その後彼女が見たのは、ダークエルフ様がライフガードをひるがえし、裸足と水着姿で竜の前に剣をもって躍り出たところまで。
「この後、飯だがらグロいもん見るんじゃない」
ラドルさんの声が聞こえ、目の前に手ひらが現れて、彼女の視界を閉ざしてしまった。
「あぁ……、こっちのお嬢さんはまぁ、精霊だし大丈夫なのか?」
――ニンフちゃん?
「あっ……」
チトセは目の前の、ラドルの手を両手で降ろした。
「ニンフちゃんが危険なら、担当者である私が確認しませんと」
そう言うとラドルさんは少しだけ、へぇーって感心した顔をした。
――なんですか!?
目の前に、竜は幸い光のなかへ消えていくところだった。
そしてその中心の部分からぽとりと、魔石が落ちる。
アレックス様とダークエルフ様の動きも問題ない様に動いている。
そしてマーストン様の動きも問題ない、しかし召喚した精霊の威力の大きさからみれば、迷宮で使える範囲は限られるかもしれない。
けれども、ギルドのカードの確認できる範囲では、魔法と回復もある程度も使えるようだ。
「推薦します」
私がそういうと、ラドルさんは黒のライフガード姿で振り返った。
そして「ああ」とだけ言ったのだった。
ゴォーン!
という音が響く。音のした頭上を見ると土の塊だったものが、先ほど、えぐられた崖の地表に置かれてすぐさまただの土へと崩壊していっているようだ。
少量だがパラパラと土が、砂浜へと降り注いる。
そして再びドーン!という音と共に、崖の上の土は圧縮されてしまった。
――私はその一部始終を、目を皿のようにしてみていた。
決して数多くない召喚師であるが、その存在が弱いのではなく、その存在が稀であるからとギルドマスターの言っていた意味をこの目で理解する。
今日はその事を理解できたけど、私にとって実りのあった日。
いきなりラドルさんが、まだ1,2匹の竜が残っているのにもかかわらず、鞄から釣り竿を取り出したことに、動揺している場合ではないかもしれない。
◇◇◇◇
夕方に少しだけ早いこの時間、風の当たりにくい木々の近くで、人数分のバドルッカスの塩焼きが、たき火にの前に並んでいた。
香ばしい魚の焼けた匂いだけを残し、それもあと少しでなくなりそうだ。
たき火の上には網がのり、大きな貝やウインナーがのって、食欲をさそう匂いがあたりを広がっている。
その前にマーストン様が、小さな声で呪文を繰り返し詠唱し、いい焼き加減に調整してくれていた。
「マーストン、そろそろもう食べていいんじゃないか? お前の皿が山になっているぞ」
「うーん、そうかもしれませんね。じゃ、焦げない内に召しあがってください」
そう言って彼は立ち上がり、もう食べ終わったダークエルフ様と、そのひざで眠るニンフちゃんの横へと座った。
「ダークエルフさん、ニンフがすみません」
「ううん、大丈夫ですよ。気にしないでね」
「ありがとう」
そう言うと彼は、目の前に置かれた魚、その上に貝、ウインナーなどいっぱいのった皿を手に取り、食べ始めるようだ。
「あら汁にしたから、良かったらどうぞ」
そうわけのわからないほどのスキルを持つ、ラドルさんがギルドの鍋を持って少し離れた調理する場所から帰って来た。
「残った分は、ギルドに持って帰るんで大丈夫ですよ」
まだ食べられそうな、アレックス様はともかく、マーストンは口を開けて、緑の目を真ん丸にして鍋を見ているように見える。
なのでチトセは慌てて付け加える。
焼いた大きな貝も、バドルッカスの塩味焼きも、どれも美味しい。
そして美味しく頂いた後は……。
「【世界樹の葉】の皆さんにお知らせなのですが、今回見せていただいた戦闘。そして十分なチームワーク、どこをとっても大変な成長スピードだと思います。なので皆さんのチームランクを引きが上げ、Bランクにしたいと思います」
「えっ……?」
「おぉ――!!」
ラドルさんの言葉を聞き、マーストン様の皿が斜めになるのを、少し遠くに座っていたチトセが見越していて、さっと支えた。
「あっ、ありがとうございます……」
「いえいえ、おめでとうございます」
「なんか、夢みたいだ……」
マーストン様が小さく呟いた。
彼女はそれを聞いて少しニコリと笑った。
しかしそこにすこしの影が落ちる。
「その後の話は私から、単刀直入と……」
チトセは切羽詰まった顔をしている。
「ホワイト様がごねました。そして貴方がた指定で、ギルドクエストが発令されました」
マーストン様を始め、ダークエルフ様、アレックス様が顔を上げて私を見つめている。
「迷宮にて、正体不明の執事のエルフが貴方たちを探しているようです。そしてまだ、数は少ないのですが迷宮攻略の続行不能の事態が起こり、事情のしらない冒険者の怒りは同じエルフのホワイト様へ、そしてギルドマスターとけん……協議した結果、こちらのパーティーがBランクになりましたので、臨時のヒーラーと組んでいただき迷宮へとダイブして貰います! これは……権力者の権力を笠に着たホワイト様の意向なのでお断りできません。そして権力を笠に着た発言もここだけの秘密にしてください!!」
そうチトセは、特に秘密という部分に力を込めて伝えた。
3人は顔を見合わせたが、ランドさんがあら汁をマーティン様と、アレックス様に配り始めたので話は曖昧になってしまったように見えた。
「はい、どうぞ」
「えっ!? ラドルさん私まで食べるんですか!?」
――これではせっかくのダイエットが台無し。
私はじっとお茶碗を見つめたが、無理やり、ラドルさんに手渡されてしまった。
続く
見ていただきありがとうございます。
またどこかで!




