お船に乗って
港町アオハジの早朝、木枯らし吹き荒れる中、コートを着込んだ私とラドルさんは桟橋にいた。
「チトセ、知っているか? 今日、俺は休日だったんだが」
「知ってますよ。ギルドマスタースザークに振りかえで明後日休みを貰っていたじゃないですか?」
コートの両腕を擦りながら立つ、二人の後ろには、白いボートがとまってプカプカと浮いている。
「料理のストックが切れそうなんだぞ、それに肉を付け込ませ。それを夜を焼いて、いいワインと合わせて楽しもうと思ってたんだ。はぁー……」
「美味しそうですね。今度御馳走してくださいよ」
「お前は、上手い料理を食べながら、Bランクの誰々さんたち頑張ってますよねー。とか、仕事の話しそうでいやだ」
それを聞いてチトセは、隣りに立つラドルさんの顔を思い切り見た。
彼は涼しい顔をして前を向いており、……だが、彼は前方を指さし、「マーストン様たちが来ましたね」と、優しい笑顔で言った。
――こわ、ラドルさん公私の切り替え早すぎでしょう。
「「おはようございます」」
「おはようございますーその恰好、魔法なんですか?」
やって来た『世界樹の葉』の皆さんは、皆、水着にラッシュガードという格好だった。
いかにも、海遊びに向かう若者たちだ。
「そうなんです。呪術の応用なんですが、これくらいの布に魔法陣と呪文を書き込むんですよ。いい機会だから、ダークエルフさんの勉強にどうかと思って」
彼は親指と人差し指で、1㎝ほどの長さを示した。
ラドルさんを見ると驚いた顔の後、少し、普通ならわからない程度の苛立ちの色をだす。
マーストン様がやったのは、空間に魔法陣と呪文を描き、それを彼の示した1㎝四方の紙でそれをすくいとるやり方だと思う。
ギルドの事務員の資格でも、結構上を目指す人向けのテストでしか、その詳細は出て来ない。
結構な集中力とセンスが必要で、今日やって明日出来るというものではなかった。
「あの……一応、3枚分くらい作って来たので、良かったら使ってください」
「わぁーありがとうございます」
「マーストン様ありがとうごうざいます」
そしてラドルさんは上機嫌となった。
水着の内側に付けるのだろうけど、私は胸元部分に付けたが、生地の面積量の少ない男性用水着着用のラドルさん、それを胸ポケットに収めさっさと船に乗り込んでしまった。
それでもあまり表情が変わらないが、なんとなく気持ちがわかるようになった。
ひと癖もふた癖もある冒険者と話しをする内に、変なスキルが身についてしまったかもしれない。
「ニンフ、ビーチボールは落とさないようにしまっておこか?」
そう言って、鞄を2つ持ったマーストン様は、ボールを受け取り空気を抜いている。
彼は18にして、話の内容的には、もうお父さんの風格があった。
しかもちょっとうるさい系の……。
けれども、今日の恰好は、黒のライフガードと、ひざ丈とのゆとりのあるズボンで柄は、生地と同系色の絵柄プリントであるようだけど、あまり見ていると、ラドルさんの視線が痛い、ような気が……、普段着ている服と違い、今時の若者ぽい気がする。
うん、私の今時の若者だけれど……。
「置いてくぞ」
「はい、はい!」
皆さんのメンタルチェックを兼ねて、様子を桟橋で見てたらラドルさんに平坦な口調でいわれてしまった。
船は危なげなく桟橋を出発し、よくわからないけれど、安定した走りだし、って感じだと思う。
本当に、この人は何でもできるな……。
「チトセ」
「はい、地図の案内でもしましょうか?」
「一応、地図は確認してきたが、やはり頼む。だが、その前に『世界樹の葉』の皆さんに今回の流れを、再度の連絡をしておいてくれ。プリントが黒の手提げのなかにある。」
いつもは髪を撫でつけているラドルさんは、海風を受けワイルドラドルさんになっている。
そう言う私も、いや、止めておこう受付嬢はギルドクエストを進行してこそ。
……エーン、海だからセットに時間をかけたのにー。
私は心を殺し、皆さんの前に立つ。
「…………『世界樹の葉』の皆さん、改めておはようございます。本日のクエストの進行自体は、簡単なものになっております。海辺にドラゴンが出たら倒す! 出たら倒すです! 島の全体に広がる森自体は、島所有者様の希望で侵入禁止だそうです」
「ドラゴン自体そんなに、海へ出て来るものではないだろう。出て来なかった場合、時間制なら達成と考えていいのか?」
「アレックスさんそれなんですが、最近ボスの世代交代が行われ、それが上手く行われていない? もしくはこんなものなのかもしれませんが、どうやら負けた以前のボス及び、はじき出されたドラゴンが海を渡り、我が国に入って来ているようなんです。だから今回の作戦は、確実に発見できる島の海辺でクエストを行います。ここだけの話、前ボスとの戦闘で、今のボスによる意思統一は十分されてしまっている状態、そして無人島という地理は、不利であると考えたほうがいいでしょう。先の見通せなさは運が関わるようそを強めます。だから出来るだけ死者をださない事を優先で、最悪丸坊主でも仕方ないって事らしいです。」
「ボスがいる状態で安定している森を、召喚で一網打尽ってことをしても、新たな災いを生むだけか……」
伯爵家リーダーがサラッと怖い事を言った。
「そうですね。ドラゴンが住処を追われたり、ヘイトをためる事態は避けたいです。そんなわけで、時間制で時給的に旨味が少ないという問題があるのですが、お弁当のほかに、海の幸も常識の範囲でなら獲っていいそうです。漁業免許もこちらでなんとかしてきました。イェーイ パチパチパチパチ」
チトセが拍手をしている。
「わぁーぁ」と言っているダークエルフさんと、「おっ! 何がいるかな?」と言っているアレックスさんと比べ、絶対に、海に潜る事のないような、マーストン様とニンフちゃんは無表情だった。
しかしマーストン様と目が合うと「楽しみですね」って言って貰えた。
うーん、想像すると、ニンフちゃんへの情操教育のために、魚を獲っているマーストン様の映像しか浮かびません。
もしかして、メンタルケア失敗の兆し? でしょうか?
「着いたぞ」
「わぁっ!?」
仕事の意義について、考えたら普段モードのラドルさんが横にいた。
『世界樹の葉』の皆さんは、船が止まったことに気づいてたのでしょう。
皆さんは楽し気に、森を指さし話していました。
「これ」
「えっ?……あぁ……」
ラドルさんの用意した、防水加工の袋からいろいろのアイテムが出て来る。
その1つがゴムボートだった。そして空気入れ。
「じぁーよろしく。俺は先へ行って安全確認して来る」
彼は防水の鞄とボートにつながっている紐を持って海へ入っていった。
ライフガードはやっぱり黒で同じものだった。
さすがの手際の良さ。
桟橋は朽ち果ててしまい、鞄や、ニンフちゃんやダークエルフさんの移動に、ゴムボートは必要だけど、なんていうか意思疎通して欲しいです。
そう思いながらも、プシュッープシュッーと、ゴムボートに空気を入れていきます。
「大丈夫ですか? やりますよ」
「チトセ、後は、鞄、持って行っていいやつあるか?」
――マーストン様!? アレックス様まで!
「凄いですねー」
そういって、ダークエルフさんとニンフちゃんが、ゴムボートが膨らむのを横で座りながら見ている。
なんと、いつのまにかニンフちゃんはライフジャケットを付けていた。
ハッとして、見たマーティン様は、やっぱり品の良い背の高いお兄さんで、パパって感じではなかった。
続く
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またどこかで!




