表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/63

彼女の正体の手掛かり

 子どもの頃の夏、じりじりと焼け付くような砂場で村の子どもが集まっていた。


 買い物帰りの僕とニンフは、見かけは同じ年頃だったが、彼らとは遊ぶことなく、その横の道を通り過ぎた。


 だから、僕らは見ていただけだった。


 彼らが蟻の巣へ、バケツに水を入れて流し込むのを。

 そんな彼らに興味を示し、彼らのもとへ行こうとした。ニンフの手を強く引いて僕は家路を急いだ。


 ◇◇◇◇


「おい! そこのお前、えっとー名前が出て来ない、取りあえず動け!?」

 イックが、僕に向かって、大声を張り上げていた。


「あぁ……、今、ちょっと昔の事を思い出して……」

「何も無い内から、走馬灯を見るな!?」


 ガァ――ン!!


 音のする方へ目を向けると、僕らの前では、迷宮の迷路の壁!、壁!、壁! その中で、ミノタウロスが斧で振りまわし壁を砕いている。

 そこには壁に突き刺さる斧と、飛び散ってくる瓦礫!


 壁へ斧がくい込み、身動きができなくなったその刹那に、懐へ飛び込むラスクたち前衛を、驚く速さでそいつは斧で凪払う。


 そんな碌な抵抗も出来ず、蹂躙されてしまいそうな未来が、過去の思いを浮かび上がらせたのだろう。

 魔法も何回か、斧で威力を反らされ、不発に終わっていた。


 皆、怪我を負っているが、ヒーラーのノロシは動かない。

 各人、怪我を瞬時に癒すだろう、薬を使う者も居ない。


 ミノタウロスを倒すための光明は見えず、僕らは長期戦を覚悟していた。

 考えろ! 考えろ! 考えろ!


 コイツの破壊力と速さで、魔法の岩で囲むのは難しい。

 僅かな時間も止めておけず、回避される気配が濃厚。


 風の魔法は、心地良さを与える程度だ。


 黒魔術師のイックの奥義では、壁が張り巡らされているめているここでは、確実に僕らを巻き込むだろう。

 それと同じ理由で、ウンデイーネもだめ。


「足を止める、お前らいさぎよく逝ってこい!!」

 イックが魔法陣を描き吠えた。


「イックー! 僕は生き返らす事は出来ないよー」


 そう小声で言う。ノロシに……。

「そんなの知らん! 『誰そかれ、影から生まれた者は、だいたい友だち』【影打ち!!】」



 ――迷路に明かりを灯す松明がいっせいに燃え上がる。



 ミノタウロスの影を深く浮かびあがらせ、影を伸ばした。


 ドス!ドス!ドス!ドス!

 その時、音とともに、影から、先の鋭利な杭の先が飛び出てくる。

 またたまに、ミノタウロス影の中から串刺しに、その中の一本が、影を突き抜け天井を砕きながら深く刺さった!


「回転切り!」

 前衛の攻撃が一斉に開始された。

 ラスクが体を回転させ大剣を振り回し、ミノの横っ腹を激しく切りつける。

 そのラスクさんの肩を踏み台し、ダークエルフさんが真上から炎の剣技で攻撃し、素早く退避する。


 そして気が付けば、ミノタウロスは腹を大きな風の力で攻撃され、そこを押さえくの字になってそのまま倒れ込んだ。


穿(うが)て、……」


 魔法の詠唱の途中で、聞きなれない音を聞く。慌て詠唱を中断し、辺りを見回した。


 パチパチパチパチ、その音は……拍手のようで、迷宮で拍手と困惑だけが広がる。


「おぉ……やっとお嬢様の気配を感じ取れたと思えばこんなところで、素晴らしいお嬢様を守る騎士は皆様、御強いですね」


 正体不明のある程度年齢を重ねた男性の声。

 その声だけが、この迷宮に響いている。


 それ以外はなぜか、とても静かだ。



 そして気付くと死にゆくミノタウロスの上に、エルフがいた……。

 しかしその様子は一瞬で消える。


 エルフの重みに耐えかねた様に、ミノタウロスの体が飛散してしまったからだ。


 あのミノタウロスが?


 黒いスーツを着た白いエルフ、彼は執事のような身なりで、背筋が伸びていた。


 そして僕の視線は、ミノタウロスが居た場所の向かって右を陣取っている、ダークエルフさんへ自然と向かう。


 僕の視線を追うように、その白いエルフがダークエルフさんの前へ来て対峙した。

 彼女の前に立った彼は騎士が、主人へするように彼女の前でうやうやしく跪いた。


 だが、次の瞬間――。


 彼女はそこにおらず、


 ニンフ、彼女がダークエルフさんの手を引いて、僕のところへやって来た。


 『頼んだわよ』彼女は僕の顔を見てそう言いたかったんだろうと思う。

 すぐに僕の後ろへ隠れた。


「貴方は誰ですか?」

 白いエルフは「おや?」って言ったのち、こちらを見たので、僕はそう尋ねた。

 1対1は部が悪い。しかし皆、動けないのか動く気配はない。


「答えられません」

 ――そんなのありかー!?


「じゃー彼女が誰かだけでも!」

 彼は値踏みする様に、僕を見る。


「クリスティーヌ様は、自分の名前をご存じないので?」

「はい」


 そこで彼は初めて少しだけ、顔を歪ませて「お小さかったですし、仕方ありませんが……許しがたいことです」


 ――これは彼女がどこに居たか話したら、憤慨して僕らは八つ当たりで殺されはしないだろうか?

 人種の差は、今のところを易々と倫理を飛び越えてしまう。


「怖い、僕はどうすばいいんだ」

「どうも、しなくてもいいのです。ここへ連れて来てくれて来た事に敬意を払いましょう」


「彼女を連れて行くのですか?」

「もちろんです」

 話はここまで、ようかもしれない。僕はポケットの中を探る。


「えっと……彼女は、『妖精の迷い森』の迷い居たんです」

 彼の眼光は、僕を警戒して厳しい。


「そこで妖精の夫婦に、物置小屋の中に囚われていました」


 彼の顔色が変わる! 不幸な日々を想像したのだろう。

 だからそれ見越して投げた大豆は見事彼に当たる。大豆だしね、警戒してもなかっただろう。


「こんなものを?」

「今だ、ニンフ! 成長させて!」


 ニンフが地面に触れると、地面に接触していた豆から発芽していく。


 それと共にまわりから、ドサッ、と、重いものが落ちる音がした。


「大丈夫か!? マーストン」

「全然、大丈夫ではありません! 前方に魔方陣が出ています! すぐ、この階を脱出しましょう」

「荷物は!?」


「命が欲しければ、置いていって下さい」

「くそっ!」


 質問したノックさんの罵声が飛び、アレックスが進むように促している。


「ダークエルフさんは誰より早く、脱出してください!」

「でも……」

「……彼の話を聞きますか? 僕も一緒に残ってもいいですが、庇ってくださいね」


 僕は出来るだけ、彼女の負担にならないように努めて、明るく言う。

「いいえ、剣を握るものは、一番、最後にでなきゃ」


 ――あぁー。そう言うこと?


「今回は、他人に譲ってください。行ってください!」




 ニンフの力は大豆を成長させて、花開かせて、再び大豆を作り出している。

 単純だが、詠唱する隙を与えなければ、目の前の紳士はなんとかなるようだ。





 最後アレックスだけ、残ってくれるようだが、退避はほぼすんだ。

「ニンフ行くよ!」


 小脇にかかえ走る。しかし彼女からの力を得ることが出来なくなれば、やはり大豆は脆いようだ。

 後ろからぶちぶちと、蔓の切れる音が響き渡り。幾分も時間は稼げないようだ。


「待ちなさい! 私の言う事に何故、もっと耳を傾けないのですか?」

「俺たちを行動不能にして、何言っているんだ?」

「うるさい人間の分際が!」


「そんなエルフ至上主義も、何とかしてください」

 そう僕が叫び終わったところで、地上だった。


 アレックスがすぐに出てきた。

 はぁ……とため息とは違う、安堵の気持ちが漏れ出て来た。


 そしてニンフも安心したのか、僕の鞄を指さして、ちょんちょんと触っている。


「お疲れ様でした。ニンフ」

 甘いハチミツ水を彼女に差し出すと、それを2つ受け取り、ダークエルフさんに手渡して、一緒に飲み休憩している。

 そしてアレックスに手渡しながら――。


「ところで、ダークエルフさん、さっきのエルフの執事は誰か知っている?」


 ニンフの隣でしがみなから、彼女の頬っぺたをちょん、ちょんしていたダークエルフさんは、「わからないです」と小さな声で答えた。

「では、クリスティーヌについては?」


 そう言うと、彼女は胸を押さえ立つ。顔を上に向けていた彼女は、下を向き「わからないです……。でも、胸が……、いえ、やっぱりわからないです」


「うかつな事を言えないけれど、胸が響く、温かくなったとかした時は、自分の気持ちを大事にした方がいい。きっと君の心の何かを捉える何かがあるはずだから」

「では、少し考えてみます」


 彼女はそう、心にしまい込むように答えた。


 しかし……そんな会話をしていた『ブラックファイア』は、大惨事のようだ。


「すまん……分配前の、前回のクエスト代あっちの鞄に入れっぱなしだった……」


「あぁ、それは良くない。良くないよ!」

「大切なものはヒップバックに入れておくのが、常識だろう」


 そうノックさんに、無口な2人が雄弁に語りかけていたのだった。


 続く



見ていただきありがとうございます。


またどこかで!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ