お化け屋敷
僕は鞄の山の隣に座りながら『ブラックファイアー』と、僕らのパーティーメンバーを見ている……。
鞄を枕に、苦悶の表情で眠るイックさん、彼の左右に、ただ口をもごもご動かしながら見守る、剣士のラスクさんと、ヒーラーのノロシのふたり。
眉間に皺を寄せて、イックさんの頬に薬草を当てているニンフと、その隣に立ち腕組みして様子を見守るアレックス。
そんなみんなをその輪の外から見守るダークエルフさん。
ダークエルフさんの逆の位置で、鞄の山に半分うもれながら見ている僕。
――なんかっそんな宗教画のような風景は、迷宮の2階で、イックさんの目が覚めるのを待って、自然は発生した。
「ニンフ、薬草を一枚口の中に入れているから、それ以上は入らないぞ」
「まずい」
「あ……まずいな」
アレックスに続き、寡黙のふたりも、薬草のまずさに思わず口を開いたようだ。
「お前ら……良薬は口に苦しと言うだろう」
そう目を開けたイックさんが、起きた途端に吐きだしたものが、その薬草だったんだけどな……。
「「イック!! 無暗に最大奥義を使うのは、よくない!」」
「ムカついたんだ……」
そう言って、首を垂れたれた彼を、どうたしなめればいいのか?
「……だと思った」
「今度、気をつけろよ」
「あぁ……ゴフッ」
見守っていた、ニンフがふたたびイックさんの頬に薬草を押し当てた。
僕らは先ほどあったばかりだ、まずいなと、腰をあげる。
「これは……お嬢さん、これを食べて欲しいのか? もしかして……これはお前らの言っていた薬草なのか?」
ノックさん、彼は、無言のニンフの気持ちを、凄い速さで理解し始める。
そして薬草を受け取り、食べ始めた。
無口な2名のチームメンバーに囲まれた、ノックさんの理解力は半端なかったらしい。
僕はそんな彼に口直しの、蜂蜜入りウォーターを差し出した。
彼はそれを受け取り、両手で持ちちびちびと飲みだす。
「さっき、ノックが吐きだしたのも、その薬草だったんだぜ」
「……あぁ、悪い。で、先ほどのデュラハンは倒れたのか?」
「倒れましたよ。この先、敵の強さが増して、危険が増えることを考慮して、貴方が目を覚ますのを待っていました」
アレックスに続き、僕も彼に状況を伝える。
「あぁ……良かった」
そう彼は、迷宮にはない太陽に、顔を向けるように上を向く。
「最大奥義を迷宮内で無暗に使ったことを、以前、すげぇー怒られたことがあるんだ。だから今回もと、思っていたが、お前らがそうでない事が今、とてもありがたい……」
そう彼はこの場所では見る事の出来ない、太陽のよう眩しい笑顔で笑った。
唖然とする僕と、「いや、それとこれは別だろう。もう少し最大奥義は、場所を考えて使った方がいい」
「ありがとう……」
彼は目をつぶり、感慨深げにそう返事をする。
「以前、さっきと同じ事を言って、いきなり殴られた事があったんだ……」
「あの時は、差し引きして、正解って事に落ち着いたんだが、冒険者は瞬時に手が出ることが正解だからな……」
そうノロシさんとイックさんは静かに語った。
「うーん、そういうパーティー判断は、パーティーのカラーによるものが大きいし、正解である行動は生き残ったパーティーと言えますし……、正解は、僕にはわかりません……」
そう僕は曖昧な返事をした。
その事で大きく息を吸い込み、そして吐く……。
冒険者であれば、正解は運しだい。そう確信する時が来る。
それとは別にパーティーの方針は、大きく生存率を上げる事も理解出来る。
そして結局は、個人の強さが一番、生存率を上げる。
イックさんの今回の判断は、生存出来たって事で、正解で。
彼を殴った冒険者は、パーティーの方針からズレた異端者を排除するって意味で正しい。
そして僕がこの状況の中で、こうやって生き残るすべの正解について考える事。
それが僕の生存確率を上げる、判断につながるのではないか?
そう考え、行動する事しか、思いつかない。
日々、生存し、日常へと帰還できた成功者は、日々生きる事に忙しく、僕らにそのノウハウが降りて来る事が難しい。
……だから、僕は考えなければならない。
…………。
……あぁ……、無駄に考え込んでしまった。
経験上、僕が深く考え込んだ事を、使うチャンスはあまりない。
……だから、僕は何も考える事が出来ない状態で、死ぬかもしれないし、老衰で死ぬかもしれない? なんて、ついつい考えてしまう。
「じゃー、そろそろ次へ行こうか。アレックスと、ダークエルフさんは回復薬使ってないようだけど、行ける?」
「俺は大丈夫」
「私もです」
赤い髪の優し気な剣士と、黒い髪を三つ編みに結んだスレンダーな彼女はニコリと笑い、そう答えた。
ふたりから個人と言うより、その血による高貴さを感じる。
その横でニンフは、挿絵の中の少女のように、手を後ろで組み、首を少し曲げている。
「前回を踏まえると、次で僕らのチャレンジは多分終わりになる。では、行こう。」
そう言って、それぞれの荷物を持ち、溶岩の間際ギリギリの出来た魔法陣の前に立ち、ふたたびアレックスから飛び込んで行く。
今度は敵の強さが上がる事も考え、あまり時間を開けず彼らの後に、飛び込んだ。
◇◇◇◇
……どこだ?
景色は、暗い闇の中、建物の中の様で、埃とそのざらざらした匂いと味が、僕の感覚の中へ入って来る。
耳を澄ませば、カキーン、カキーン! と剣と何かがぶつかり合う音が、聞こえる。
「下? なのか?」
しかし、景色の迷彩が少し変わった!?
慌てて、後ろへ飛びのく!
そこへ透明な何かが現れ、僕の居た床を、穴を開け、引き裂いた。
――温度が低下、白さが多く混じり、半透明さ! そして! ――――近づく人影だと確かにわかる!
――ゴースト!? この屋敷に複数のゴーストがいるのか?
そして目の前のそれは掻き消え、それに合わせて僕はゴーストの居た、後ろに見える扉から廊下へ飛び出す。
出た先は左右に分かれ、右手側にある窓から、月が見え光が廊下へと長くこぼれる。
その明かりによって、まわりに続く道は無く、そこが一方通行であるとわかった。
だから左手側の廊下を進む。
背後から伸びる僅かな月明かりを頼りに、早足で進むと僕の前に、落下防止の柵がすぐに見えた。
「うーん、二階にある禍々しさは僅かだ」
光を取り入れるための、高い場所に取り付けられた窓からも、今は月明りがのぞき、一階の様子を照らし出している。
玄関のホールでは、赤い炎を剣に纏わせ、戦うアレックスとダークエルフさん。
「大丈夫ですか」
危なげないふたりに、2階から声をかける。
「マーストン、来たか……。『ブラックファイアー』の連中と、一緒にやって来るニンフが、来る前に全てを終わらせよう」
「はい、2階にはそれほど禍々しさは感じませんでした。あッ、揺らめく炎、内側からその対象者を焼きつくせ! ファイアーハートボム」
僕を追って来た、ゴーストが部屋からいきなり現れ、倒す。
それ以外まだ出て来る様子がない。やはりこの迷宮の階層も魔物が無限に出るってわけではないようだ。
「もう、終わり? ううん、居る」
ダークエルフさんは、足元に目をやった。
「よくある囚われた死者の魂を、操る何者かが、今回のターゲットかもな?」
アレックスはそう言ってのける。
「僕から見て、入口ホールの左手に、途切れた廊下があります。そこへ行ってみましょう」
そう言って階段を降りていくと、
その途中で何者かに足を、力の限り掴まれる。
ぐぎって、嫌な音と共に、脂汗が止めどなく流れ、獣の唸り声が僕の口から出た。
トトト、という軽快な足音と共に、僕の足首を掴む手は離れ、アレックスに引っ張り落とされるように、その場から離れた。
「ぐぁぁ……」
げんきんなもので、急に足首に、息も出来ないような痛みが襲う。
それをこらえながらヒップバックから、携帯用の回復薬を手に取るが、痛みのために試験管の様な容器を転がり落としてしまう。
「ほら、しっかりしろ」
アレックスに支えられて状態をおこされ、僕の足をこんな風にしたゴーストを倒したばかりのダークエルフさんが、剣をしまい容器を手に持つ。
そして蓋を開け、ゆっくりと薬を僕の口の中へ流し込んで貰う。
「ヴァァァッァ――……、本当ひどいめにあった」
「大丈夫か? しばらく動かない方がいい何せ――」
「いや、大丈夫です。大丈夫! 詳しい報告はいりません。ふぁ……」
僕は荒く息を吸い込むと、眉間に皺を寄せただろう顔をして、薬が馴染むのを待った。
そんな僕の前にラスクさんが現れ、ニンフが現れるのも時間の問題だ。
全体の敵の数と、ランダムで出現場所の変わるこの地形。
「行きましょう。単独で戦う力が弱い。ヒーラーのノロシさんや、力が未知数のニンフが来る前に、ボスを倒す必要があります」
「そうだな。一応、洋館の姿には似せているが、外へ出るように作られてはいないようだ。この館を内側から燃やされたらアウトだ」
そういうアレックスに、みんなの「あぁ……」と言う声が漏れた。
たぶん、みな同じ人物の顔が浮かんだのだろう。
先を急がなければ……。
続く
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