迷宮へ
ギルドクエストで、郊外に住む人々のための魔物対策を請け負った俺たち。
マーストンが、ギルド職員のチトセと共に、花火を配っている。
その間、俺たちは肉体労働の柵作りだった。
郊外にある、この家もやはり高台に作られていて、その分、柵を作る場所は少なくて済んでいた。
「ありがとうねー、皆さんこれ飲んでくださいね」
そう言ってこの家の奥さんが、お茶を出してくれる。
紅茶とビスケットが、トレーに並んでいる。
この仕事を請け負って数時間立ったが、家人から労いの気持ちでお茶を出して貰うと、
「ありがとうね。この辺りには何もなくって」から始まって、15分の雑談が、また、始まってしまうのだろうか?
「ニンフ、大丈夫ですか?」
ダークエルフの声のする、後ろへ顔を向けた。
そこではニンフが地面に両手を付けて、四つん這いになっていた。
「お嬢ちゃんどうしたの?」
「ニンフ、どうしだんだ?」
俺と、奥さんも慌てて駆け寄ると、ニンフはこちらに気づかないって感じで、顔を上げる。
そのひたいには、珍しく汗が流れ、顔色も悪い。
そしてゆっくりとその場で立ち上がると、家の外へ歩き出した。
「ニンフ、待て勝手に行くな!」
「待って、ニンフちゃん」
彼女は坂を降りて、下へ行ってしまう。
向かった先の空には、小さな破裂音と、赤い煙が風に揺れながら上がって行く。
「あぁ……まずい」
手で顔を覆う。さっき見たばかりの花火だ。
「アレックス、行きましょう」
いつもは、ほわほわとしているダークエルフが俺に、そう話しかける。
彼女もあの煙から嫌な予感を感じ取ったのだろう。
マーストンが居ない方向であってほしいが、俺自身もあの煙を見た時から、嫌な汗が背中を伝い下へと落ちていく。
「奥さん、急用が出来た。すまん、これまかしていいか?」
「いいから、いいから、早くあの子を追いかけてあげな」
俺も奥さんも緊急事態で、やけに大きな声で話していた。それだけで、急に喉が、ざらつき渇いてくる。
そして返事をすべて聞かずに、煙の下へと走り出していた。
先に行ったはずのニンフは、あの見かけと違い、走っても追い付かない。
「えぇ!?」
向こうからやって来たチトセが、そう声をあげてニンフを目で追い振り向いた。
「チトセ、マーストンは!?」
「私を庇って、ハァ、現れた魔法陣の中に!」
そう彼女を追い抜く俺たちに向かって言った。
「魔法陣って、迷宮の?」
「ハァ、その可能性が高いです! フゥ」
「わかった。少し休んでから来てくれ!」
「あぁ……、ごめんなさい!」
チトセは、息も絶え絶えの状態で、ひざに転んだあともみられた。
それでも彼女を気遣う時間はなく、走り続けた。
そして5分? 正確な時間はわからない。
やっと緑の煙の下に辿り着くと、馬とギルド職員がすでに来ていた。
背の高いふたりで、身のこなしに隙がないので、冒険者あがりってところだろう。
「さっきのお嬢さんは知り合いか?」
金髪を肩で結んだ、長い髪の男がそう言った。
「中に入ったのは、中にいる奴の精霊なんです。だから、魔物に攻撃されない可能性もあるけれど、わかりません」
「じゃーまあいいか、精霊ならそこらへん心得ているだろう」
「では、俺たちも行っていいですか? 同じパーティーメンバーなんです」
「今、ギルドでは合同クエストを、立ち上げているところです。しばしお待ちください」
そう言ったラドルさん、今回はベルの係ではないようで、一般人が入り込まないよう、テープで囲っている途中だった。
「それから今回のパーティーランクは、Bからだ」
「ですが、同じパーティーなら、その場合……言いたくないが、融通が利くはずだ」
「あ……看取りの融通か……あれは、あくまでも安全地帯からの確認であって、今回の場合は当てはまらないだろう? なぁ?」
そう金髪の男が言った時、ラドルさんは一旦、躊躇した。
「私が許可します」
そう言ったのは、チトセだった。
「その場の感情だけで、動くのはやめろ、このガキどもを殺す事になるぞ」
「いえ、違います。詳細については後で、説明しますが……」
「いや、今、言え」
「でも、個人情報ですし……」
チトセは、指先をもじもじさせる。
「では、担当の許可が出たので行きます!」
「ありがとう」
そう言って、俺とダークエルフさんは、魔法陣の中へと飛びこんだのだ。
◇◇◇◇
迷宮の大きさは、ギルドの間取りと同じくらいか……。
その四角の部屋にオオカミが4匹ほどいた。
慌てて土の魔法を唱え、2匹潰したところまでいい。
動きの早い、オオカミにそれ以上求めていなかった。
そして高い位置に、足場を作り、他の土の魔法を解除したまでもいい。
動きが早いため、水攻めにしたら……犬かきで結構生き残るんだよな……。
死ぬまでに、新たなオオカミが現れるし……。
一応、僕が出現した場所の近くまで移動してみたが、押しても、叩いても、開かない。
「どうしょうかな?」
その時、見覚えのある足が目の前に現れ、胡坐をかき座っている僕の前に降り立った。
「ニンフどうしたんだい? 危ないじゃないか?」
そう言うと、僕の首へ、彼女の細い手がかかり、やけに細い彼女の金色の髪がこちょこちょとこそぐったかった。
同じく歳を重ねて来たはずなのに、細くて小さな彼女の背中を擦る。
だが、すぐに怒ったらしい彼女は、僕の髪をくちゃくちゃにかき混ぜてしまったけどね。
「まぁ、まぁ、そう怒らないでニンフさん、アレックスとダークエルフさんは知っている?」
彼女は首を振って答える。
「じゃーチトセは? 入って来た魔法陣の近くに居なかった?」
パチン!
彼女は手を叩き、「うんうん」手を左右、一生懸命動かし、前を指さす。
そしてふたたび左右、一生懸命動かす。
「走ってたら通り過ぎたって事か……」
そう言うと結構無表情で、ニンフさんは拍手をした。
「じゃーアレックスや、ダークエルフさんにも伝わっている可能性は高い。じゃー待ってようか」
ニンフさんは僕に薬草をくれた後、僕のひざの上に座った。
「やっぱり、薬草だねー。はぁ……でも、うちの家の前の畑、薬草だらけにしてほかって置くのやめないかニンフ? 時々、何かが食べたのか枯れてるから、片付けるのがちょっと大変になって来たんだ」
そういうと彼女は顎をあげ、彼女の後頭部が胸に当たって、少しだけうげってなる。
「本当だめなんだって、昨日の夜、ブルーノさんが見かねて片付けてくれてて、今日は時間がなくて、お礼言えなかったんだってば」
そう言うと、彼女は髪をブンブン振ってくる。
「だぁー、そう言うのやめなさい!」
そう言った時、ニンフが止まり、新たなもの音がした。
「大丈夫か? マーストン?」
「遊んでたの?」
彼らのエメラルドとアクアマリンの瞳から、心配と戸惑いの色がとても見えた。
「ええぁ……、来てくれて助かりました」
「みたいだな」
「はい!」
二人の顔を見て、胸が温かくなるような気持ちになった。
けど……ちょっとだけ、顔が赤くなり、心が騒めいた。
◇◇◇◇◇◇
アレックス様とブラックエルフ様が迷宮へと飛び込んだ。
「私も、監督として行って来ます!」
そう言い飛び込もうとしたところで、
「待て、待て!? お前はただの事務員だろう!」
「はい! ですが!」
「じゃー私が行って来ます。」
「わかった死ぬなよ」
「ラドルさんがいいなら、私もいいはずです。おかしいですよ!」
そう言ってギルドマスターの顔の近くへ歩み寄った。
「あいつは冒険者あがりだぞ。給料いいんで事務員の資格どんどん取っているが」
「そんな、私はまだ資格取ってないのに!?」
「あいつ、寝てない噂があるから、真似するな」
「ギルドマスターは行かないのですか?、後発には私が知らせまが……」
「いいのか? 魔物が出て来るかもしれないだろう?」
「皆さんは無事に帰って来ると信じているので、大丈夫です」
「では、行って来るが、危なそうなら逃げろ」
「わかりました。世界樹の葉の皆さんの事、よろしくお願いします」
そう言うと、ギルドマスターは飛び込んでいった。
続く
見ていただきありがとうございます。
またどこかで。




