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日常と推し活

 住宅が密集している南と、ギルドや自警団などの大手の組織が集まる中央通り。


 その合間に、数々の商業店や、個人が営む加工店が、曖昧な線引きをされ建ち並び、経営されている。


 港町アオハジの海で、うっかり生死の一線を越えそうになった僕らは、一度家に帰った後、買い物をするために、その商業施設を今、歩いていた。 


 まずはダークエルフさんの装備を買いに、女性向け装備ショップに入ったのだが……。


 見える範囲すべて、女性向け装備で埋め尽くされ、天井には誕生日の輪っかの飾りつけのように飾り付けられていた。


「いらっしゃいませ~、本日はどのようなお求めで」


 店員の彼女は、目の隠れたボブの黒髪で、スカートの裾は不安定に切り添えられた、スリットの入った黒魔術師の格好で現れた。


「あの……彼女の下着や、装備を購入したいのですが、予算はこれくらいで」

「はい」


「熟練度はギルドランクDで、見習いで、方向性はまだ決まってません。ですが、能力が高いので……剣も魔法も十分あります」


「はい、わかりました。では」


 そう言った時、彼女の眼光は、少しだけ怪しく光った様に見えた。


「彼氏さん、可愛い系、エッチ系、清楚系どちらがお好みですか?」


「なっ、何でそんな事を!? 彼氏ではないです」


「パーティーカラーはないが、エッチ系でないもので頼む。目のやり場に困る。後は本人の気に入ったものでいいか?」


 彼女の言葉の攻撃に、僕はみっともなくうろたえた。それを見かねたアレックスが、彼女に返事をしてくれた。


「はい、それでお願いします」


「わかりました。では参りましょう!」


「すまーん、俺たちは別の場所へ行って来る。頼れるお姉さんを置いておくので、よろしく頼む」


 彼は、僕の肩甲骨あたりに触れ「行こう」と促した。


 ショップの扉から出て、ショーウインドーの前の僕は、少し慌てた顔をしている。


「いいのですか?」


「あ……、いいんだ。パーティーってだけで、女性と一緒に装備を選ぶ。そうするとのちのち、彼女の親しくなった男性と彼女が一緒の場所に居合わせると、俺はなぜか居たたまれなくなる。目利きってだけで、連れて行かれるのはわかるが、そこはプロにまかした方が互いのためじゃないか? と、思うようになってきた。」


 アレックスには珍しく、強い口調と手振りを交える彼から、苦労が少しだけ感じ取れた。


「ええ、装備だと、いつも着るからそうなりますね。魔法書とかと、やっぱ違うでしょうね……」

「違うな」


 きっぱりアレックスがそう言い切った時、聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「シュナウザー! 迷宮が開いたというのに、お前は何をやっているのだ!!」


 憩いの広場のようなその場所に、声の人垣が出来ていて、声はそこから聞こえているようだ。


 それから少し遅れて、おおぉっ、くぐもった歓声があがる。


「お父様!! シュナウザー様は私を御止めしてしまったのです……。わたくしも、わたしくしの民のために、神から受け取ったこの力を使いたい! 連れて行って欲しいのす」


 女性の凛とした声があらわれた。どうやら『勇者シュナウザーと姫の恋』の話をしているようだ。



「この場面なら、まだまだ劇は続くな……、行こう」


 広場のみんなが、舞台に集中している中、僕らは広場からはずれ目的地を目指す



 そして僕らは日用品を、店の軒先で花を売っている店へ入り、選び始めた。


 持ち運べる大きさのフライパンや、紙や、インク、衣服用洗剤も、この際だから家庭用洗剤を買い、地図もこの先の地上のものは買い足す。


 食糧品なども買い、手にいっぱいの荷物をもって、一度、装備ショップの店へ戻る事にした。


 そしてふたたび、憩いの広場の前を通過する。


 人垣の層はさらに厚くなり、すすり泣いている人もいる。


 ――だが。


「王妃よ……、姫が戻らなければ、私は自分の選択を後悔するだろう……どうして行かせたのかと……」


 ホワイト、彼の声は地を這う様に重く切ない。そんな彼に寄り添う様な、声で女性は彼に言うのだった。


「貴方……貴方の判断はいつも正しくありました。それが私の愛する貴方なのです……だから、悲しまず、わたくしと共にこの国の平和を維持していきましょう……」



「……アレックスこれ何の話?」

 僕は、隣で荷物を多く入れた紙袋を、手に持つアレックスに聞いてみた。


「俺の読んだ本も、王は姫の出発をいつまでも見送った。そんな程度だったからな……」


 そんな疑問は残ったが、そのままその前を通り抜ける。


 そしてダークエルフさんとニンフのいるショップへと戻った。



 中へ入るなり「いらっしゃいませ~」と、さっきの女性が来てくれた。


「あのー彼女は?」


「お連れ様は、黒魔術師の装備をご希望のようです。けれど最近では黒一色だけでなく、他の色あいのものもお求めになる方が、多くいらっしゃいます。お連れ様は紺と紫のものを最終的にお選びになり、ただいま試着中でいらっしゃいます。こちらの物なのですが」


 彼女が持ち出したものは、黒魔術師の装備だった。


 金の刺繍が、雰囲気がしまる程度に刺されていて、品位も兼ね備えるものだ。


「こちらのスカートなのですが、ロングスカートの様に見えて、巻きスカート、その中がズボンになっていまして、剣を振るう際は取り外しできます。装備への効果も、基本の魔術はもちろん付与されていて、その他もいろいろと……」


 彼女はニコニコと笑っているが、こちらは背中に冷や汗が出て来る。


 金の刺繡が刺され、雰囲気全体が貴族の着る衣装のよう。

 そんな装備が、提示した金額で買えるわけない。


「アレックス、僕は金額の提示の際、指文字を間違えた?」


「いや、正しいはずだ。指文字関しては敵国でも通じるらしいからな」


 冷や汗をだし、脈はまだ少しだけ早いだろうが安心できた。手袋着用の義務とか、高級品になるほど、マナーがあるから。


「提示した額を超えた、装備に思えますが……」


「大丈夫です、お客様。お嬢様の御試着中にオーナーがやって来て、いくつかの装備を提示された値段で売るように、と。そして聞かれた時のみでいいので、うちで買ったと言ってくれさえすれば、それでいいそうです」


「えっ、そんなことしていただく理由がありません」


「いや、くれるなら貰っておくべきだ」

「なぜ」


「ダークエルフさんの事故の確率が減るし、ギルドの地図にも優良店とされていて、ここまでの店だ。オーナーとお近づきになっておいた方が、彼女のために何かと便利だ」


「口を挟んですみませんが、オーダーは気まぐれな方で、今回のことが、今後に影響する確率は薄いです。今後については残念ですが、装備の値段の今後も、気にせずにお買い上げくだい」


 そう話していると、ニンフが僕の背広を引いていた。


「ニンフ?」


 そしてその横にはダークエルフさんが立っていて、剣士にしては可憐で、魔法使いにしては純粋で、貴族のような衣裳を着こなす彼女に驚き見ていた。


「さすがにダークエルフ、骨格のつくりから違うのか? よく似合う。 なぁ、マーストン?」

「ありがとう」


「……そうですね。凄く似合っていて貴族の方のようで驚きました。」

「ありがとう」


 そういって彼女は、僕の背広を引っ張った。


 この光景は……どこかで見たことがあると、思っていると、ニンフは僕の手を掴み、髪飾りたちを指さし案内する。


 そこには、赤い花がいくつもついた花の髪飾りが……。


「ニンフ、これが欲しいのですよね……。大切に出来ますか?」

 僕の返事を聞き、目をキラキラさせて、うん、うんと、彼女は頭が上下させた。


「今回は薬草のおかげで助かったので、そのお礼に」

 そこまで言ったところで、横から手がのびてくる。そしてその花の髪飾りをもってアレックはニヤリと笑う。


「では、これは俺が買おう。保護者がいる場合はこうやって恩を売るのも悪くない」


 そう言って、会計の場所まで歩いていってしまった。

 そんな彼の後ろを歩くが、鎧に掴む場所はない。


 腕を組み考えながら歩くニンフに、先程のダークエルフさんがかぶって見えた。


 ◇◇◇◇  


 そしてふたたび憩いの広場へ来て、今度は少し高台のところを歩いていると。


 人垣の上に、にょきっと手が出てくる。その手は王様の衣裳の袖だった。


「迷宮を封印せし、勇者シュナウザーと我が娘を陰ながら、導いて見せよう!!」

「「王……」」

「お父様!」

 「「王様、バンザイ!!」」


「キャー! ホワイト様」

 そして紙吹雪と拍手の中、カーテンコールを迎えていた。


「主役は勇者ではなく、王様なのか?」

 そう戸惑いを含んだ声が、アレックから漏れる。


 劇のストーリーは僕の知っている、勇者シュナウザーの勇者譚とは違った。

 僕は下を向き靴の先を見て、少し考え、溜め息をついた。


 そしてふたたび僕は、白いエルフがいるだろう、人だかりの中心を見つめたのだった。


 続く




 ◇◇◇◇  


見ていただきありがとうございます。


また、どこかで。

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