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海岸線での出来事

 空の青と、透明な海が、遥か向こうの水平線で1つに結ばれている。


 海辺では、道と砂浜との高度差を埋めるため、白い階段のような段差が付けられている。

 そこにみんなで並び、サンドイッチボックスの中の、色とりどりのサンドイッチを食べている。


 風は、僕らの髪をなびかせ、生命をすくいあげるような波の音を届けていた。


「ニンフ……ダークエルフさんの、苺サンド狙ってはいけません。お姉さんでしょう」


「お姉さんか……、なあマーストン、絵画で見るニンフはもっと、成熟した女性だったが、ニンフは一緒にいる間、成長して来たか?」


 それを聞いたニンフは、アレックスの方に体を向け、何かを訴えかけているようだ。


「うん……」

「ニンフが何かしましたか? アレックス?」

「顔を膨らませているニンフは、愛嬌があって、アマガエル的な可愛さだなって思って……ってなんだ!? 叩くなよ。可愛いって言ってるんだから」


 アレックスとニンフはまるで、兄妹喧嘩をしているようだ。

 それを見て、ダークエルフさんがくすくすと笑っている。


「なんだか平和ですね……」


 目の前に広がる素晴らしい海と、パーティーメンバーの様子は、ついこの前までは想像できないものだった。

 だからつい、呟いてしまう。


 これまで通りだったら、ギルドの掲示板とにらめっこしているか、現地へ旅立つ用意をしている頃だ。

 そんな生活が悪いってわけでもなく、僕にはこのゆるく、のんびりとした空気の方があうってだけだろう。


「だが、問題山積みだ」

 少し眼光が鋭くなった彼が、僕らの顔を一人一人見つめる。


「新生活を始めるにあたり、何もかも足りない」


「そう言えば、お皿は、ブルーノさんの家にもあるそうで貸してくれるそうです。寝具は捨てるわけにいかないので、しばらく旅の寝袋を使う予定ですが、レンタルも探しましょうか。後は、日用品と買い足すなら、ダークエルフさんの物です。今ならお金ありますし」


「私、これで大丈夫。新しくて嬉しい」


 彼女はサンドイッチボックスをひざに置き、両手を振って大丈夫って言っている。

 遠慮している可能性もあるが、収納部屋暮らしだったわけだし、そこのところはわからない。


「でも、最悪死ぬんです」

 僕の腹の奥底から出るような低い声に、「えっ……」消えそうな声を彼女はもらす。


 そしてしばらくの間、固まってしまった。


「ダークエルフさん、貴方の市民権獲得の早道は、魔物を狩るクエストだと思います」

「うんうん」


 そう一生懸命頷いてくれる。けど、サンドイッチは減ってない。

 大丈夫だろうか? 凄くニンフも、その様子を気にしているようだけど。


「戦闘用装備は魔物狩りに不可欠です。生地の丈夫さ、魔法効果のおかげで、防御によし、戦闘によしです。お金は、村々への配達のクエスト分で入っているはずです。それで買えるものを、まず買ってみましょうか」


 彼女は、少しだけ眉間にしわをよせて、しばらく考える。

 そしてみんなを見回すと、控えめに顔がほころび。


「ありがと……、買ってみます」


「でも、装備の種類が決まってないぜ? 剣か、魔法か、それともやはり弓なのか?」


「ダークエルフさん、ギルドの身分証明のカードを見せて貰えませんか?」

「はい」


 彼女はウエストポーチから、身分証を渡してくれる。

 裏のステータスは、今の所全体的に高い数値だった


 あの生活で、これだけの予想数値が出せるのは、凄いけど、まさか昨日の練習だけでここまでの数値に改善された?


「全体的に数値が高いです。食べたら魔法も練習しましょうか。水も多くありますから」


 その時、アレックの隣のニンフさんも、手を斜め45度にまっすぐ手をあげる。


「ニンフも覚えたいのか?」


 アレックスの問いを聞きながら、僕はボックスの中に残る、サンドたちの断面を見つめた。


「ニンフさん出来ないのではなく、能力が封じられているので残念ながら無理です……」

「なぜだ?」


「2度目の誘拐があるかもしれないと祖父が恐れ、契約した結果ですね。孫思いの祖父だったので」

「あ、あぁ……それじゃーだめだな」


 その時、ニンフがサンドイッチボックスを大事に抱え、立ち上がりこっちにやって来た。


「あれ? どうしたニンフ?」


 金色の髪が海の風にながされ、生き物のようにはためく、子どもの姿で子どもではない彼女は、僕の膝の上にサンドイッチボックスを置くと、僕の前で騎士の様に跪いた。


「……ニンフ、僕は祖父の契約を解除できません。能力不足です。何度やっても出来なかったでしょう?」

 彼女は目を少し見開き、こっちを見た。決意を秘めたブラウンの瞳。


「………って、それはニンフのサンドイッチボックスじゃないでしょう?! 君は、苺サンドは、もう………!? はぁ……」


 僕の苺サンドはこの世から、今、ちょっとだけ消えた。ぱくっと。


 そしてお嬢様な顔をして、サンドイッチ泥棒はダークエルフさんの横に座った。


「ニンフ! 契約したあかつきは、梅干しに挑戦してもらいますよ。美味しいですから、楽しみしていてください!」


 とびっきりの怖い声を出しても、彼女はサンドイッチを両手で掴み、澄まし顔で食べている。


「大丈夫か?」

「人間界に住むにあたっては、良くない経験だと思います」


「まぁ……妖精は気まぐれって言うけど、ニンフは甘えてるだけかもな?」

「そうだといいんですけど……」


「そうだよな?」

 アレックに対しては、笑顔でうんうんとうなずくようだ。


「もう、絶対の、絶対に、人の苺サンドはとらないのよな?」

 そう彼が再度確認すると、彼女は背中を丸めて小さくなって、こちら側に顔を向けて来る。


「これは怪しいなぁ……」

 アレックもニンフのその姿をみて、ぼそっと一言呟いた。


 そんな間にニンフは、最後の一口を食べ、機嫌を直したのか、足をぶらぶら。


 そして最後の「ごちそうさま」の声で、僕らは海へ向かい歩きだす。

 初めての海は、思いのほか砂に足を取られる。


「アレックのうちでは、魔法ってどんな風に覚えました?」

「うちの先生はオーソドックスに、水を小瓶に入れてやったな。噴水の近くの時もあったけど」


 それを聞き彼を見た。


 ――先生に、噴水……。お金持ちのキーワードだ。


 僕の視線に彼は『はっ』気づき、ばつが悪そうに首の後ろを掻いている。


 そんな話の経過が過ぎるととに、靴に砂が混ざり、靴下までがザラザラ、つぶつぶとした感触になりうんざり。


 そしてようやく波が打ち寄せ、海岸線へ来た。波が砂をさらい、濡れた靴底の砂が、僕の靴を囲っていく。もうすぐ水没するだろう。

 そんなどうしょうもない、革靴の行方を気にしていく中……。


 アレックとニンフが太ももまで水につけて、海水をかけあいだしていた。

 冷たい海水が、こちらまで飛んでくる。


 空の青と、透明な海が、遥か向こうの水平線で1つに結ばれている。


「…………」

「マーティン、大丈夫?」


「……僕は大丈夫ですが……アレックの鎧、鉄製ですが大丈夫でしようか?」

「わかんないです。でも、楽しそう」


 現実逃避している場合ではない。


 彼女は海風に乱れる艶のある黒髪の耳にかけ、彼らの様子を嬉しそうに見つめている。


「瞳の色が、海の色みたいだ……」

「えっ……?」


 彼女はこちらを見る。彼女を見る僕は、海風のせいで、すこしだけ顔が火照る。


「いえ、水の魔法の練習をしましょうか?」

「はい!」


「まず、海を触ってみてくだい」


「冷たいです」

「海は魔法の源です。そういう自然界の魔法のエネルギーを、マナと言って、こうすれば自然に帰ります。こつは、マナっていうか、神秘的な力があると思い、それをどうしたいかって考えるだけです。簡単でしょう?」


「はい、やってみます!」

 彼女はそう言って、ふたたび水に手をつける。


 ……しばらくすると、砂浜にザァーザァーと押し寄せ、波は次々としゃぼん玉の泡のように、高い空へと帰っていく。


 アレックスは水をかけるのをやめ、こちらを見る。そしてそんな彼をニンフは見つめ、視線の先に居る僕らを、ガラス玉のような瞳で見た。


「凄く、お上手です。大きな水の塊を作って」

「はい!」


 彼女のひたいにわずかに、汗が浮かぶ。

 その汗さえも空へと浮かび、まるで……インクを付けすぎたペンで描くように下を起点として、まるが描かれ、その中心へと水が集まりだし球をつくった。


「そのまま、そのまま、この水に意識を集中して、この水の塊から雨の様に水が滴り落ちています」

「…………」


 この段階までは、素人はまずこれない。子どもの頃からの修行がここまで、水を球体へと導く。

 だから彼女は特別で、それはどこまでなのか?


「では、この水を滴る水を止めてください。方法は個人差があるのでお教えできません。」


 そう言った瞬間から球体の外側は波紋を描き揺れていた。

 滴り落ちる水は、量を減らしていく。


 ――だが、


 突然、パシュッ!! と音をたてて水の塊は弾け飛んだ。


「アレックス!!」

「わかっている!」


 僕はダークエルクを抱え込んで、防御壁を展開する。

 だが、目の前のガラスのようなそれは、ダッダダダ! 飛び込む鋭利な透明の刃物を、加え込む形でなんとかその攻撃を防いだ。


「アレックス、大丈夫ですか?」

「なんとかギリギリだ」


「さすが戦士、防御も僕より、腕前は上なんですね」


 そう言ったところで、パキッ、と音がして……振り向く。

 それを待っていたかのように、亀裂はダラス一面にまで広がり、あっさり崩れ去り、海水の中に崩れ落ちた。


「あ――、もしかしたら、死ぬところでしたー」

「やばいな」


 それだけ言うと僕は、魔力の使い過ぎか、力が抜けてしまった彼女を抱きかかえ、先ほどの段差まで運んでいくのだった。


 続く



見ていただきありがとうございます。


またどこかで!

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