合同クエスト
港町アオハジのギルドは、スイジースの町のギルドより、ガラスが多く使われ、より料理店ぽい造りになっていた。マーストンたちはその様子を、外から観察をしてから、扉のドアノブを押し中へと入る。
内装は、以前のギルドとさほど変わらないつくりだった。
違いは、ガラスの窓が大きく、多いので光が多く入り、ブラインドが閉まっていない今は、少しだけ眩しいくらい。同じ造りである事は、ある程度は気が楽になる。
もうすぐ昼時のためか、レストラン兼酒場だろう店側は満員間近で、話し込む客や、書類とにらめっこいしている客、フルコース料理に机まで様々だった。
バターの香りが、食欲をそそる小エビなどの素材が多く入ったバターライスが、ウェーターに運ばれ、マーストンたちの前を通り過ぎる。
そして彼らには『空腹だ』って思いだけが置き去りにされる。
そんな彼らは、困っている家族とともに、ついたての向こう側のギルドへと辿り着く。
「おっ、新米か!?」
…………そしてギルドの受付側に入るとすぐに、絡まれた。
「俺はこの街を仕切っている。ゼルスって言う者だ。俺の言う様にすれば、悪いようにしねー」
目の前のゼルスと言う彼は、装備も付けておらず、なんだか……。
一般的な、街の子悪党って感じの中年男性だった。
「はぁ、よろしくお願いします。この街へ来たばかりです」
「なんだ、新米ではないのか。とりあえず困ったことは俺に聞けよ」
ゼルスはニヤリと笑い、隣の席を勧めるように、くすんだ緑色のベンチを叩く。
「ゼルスさん、なぜ貴方が冒険者さんを誘導しているのですか!? うちの受付けががら空きなんだから、そこは察してくれないと出来禁にしますよ!」
「チトセちゃん、それはかんべんしてくれ」
そうゼルス言い、「また来る」と言って、ギルドから出て言った。
マーストンたちを救った彼女は、ウェーブの掛かったブンランの髪で、マーストンたちと歳は変わらないように見える。
しかし彼女も有能受付嬢らしく、「団体様ですね。3番窓口へお願いします」と、良く通る聞きやすい声で、マーストンのパーティーと、ブルーノさん一家を見て言ったのだった。
◇◇◇
ギルドの受付では、マーストンたちの手続きまではすぐに終わった。
その後、チトセによる、この街の大まかな説明の話を聞く事となる。
簡単な地図など貰うが、ほぼ美味しい店のリストだったり、宿屋の場所だったりが、書かれているものだった。
裏返せば、アオハジ商工会と書かれていたので、いろいろと納得する。
「以前の皆様の拠点であった、スイジースの町のギルドや、他の街のギルドとの違いは、この街では自動的に、自警団に加入することになっている。って事です」
「えっ……」
マーストンはそう言い、詳しそうなアレックスの顔を見ようとした。
「この街には、領主もいるが、防犯については自警団にお金をだして、大きな事件が起こまでは、防犯面についてそれで解決を待つって事にしているんじゃないか?」
その時、ギルドの待合室と、事務所側を隔てる出入口を押し開けて、受付の制服を着た男性が出て来る。
カラーン、カラーン、カラーンと、柄の付いた大きなベルを鳴らしながら、「合同クエスト募集が始まりました。街の東口の門の外で受付を始めます」
そう大きな声で、繰り返す。
そして受付と対面する掲示板へ、赤字で縁取られたクエストの書かれた紙を張り付け、声を張り上げながら移動していく。
彼を目で追っていたマーストンに、チトセは声をかける。
「自警団に入ると自動的に保険に加入していただくんです。そうすると他の街ではパーティーで加入していた、保険の加入が500ダニマとなり格段にお安く加入できるのです。それにプラスして……合同クエストの際の初期収入1500ダニマになって、毎回の保険分かからない分、他のギルドよりお高くなっております」
「へぇ……」
「そしていつもの魔石の数で、報酬がプラスされる仕組みです! 合同クエストはだいたいの場合、冒険者なら気楽に参加できますし、後続を育てるためにも必要な仕組みなので、是非、今回もご参加を」
チトセはにっこりと口角をあげて、営業スマイルをした。
「うちも、ダークエルフさんの訓練のために、参加するべきなんでしょうね」
「はい! 是非よろしくお願いします。あと、ブルーノ様から家の貸付のための契約書の作成依頼を受けましたので、借りる際はお声をお掛けください。締め切りを1週間にいたしてあります。日数は、こちらでおすすめいたしました」
「はい、わかりました。あの場所に長く、1人でお住まいだと流石に怖いでしようからね。こちらでも、急ぐようにはします」
「ありがとうございます! 以上で、終わりなのですが、質問などございますか?」
みんなを見る。首を振っていたり、ただ無言でいたり、あらわし方は違うようだが、質問は無いようだ。
「ありません」
「では、以上になります。またのお越しをお待ちしております」
ギルドの受付を、彼女は笑顔とともに終えた。
◇◇◇◇
期限間近の非常食を、ギルド出口横のベンチで食べ、マーストンたちはオオカミの残党退治の合同クエストを、潮の匂いのする街の外の門前で受けた。
クエストに時間制限があるかもしれないのと、パーティーとして行動するかどうかを決めるのに、もう少し時間と判断材料があった方が、誰にとってもいいように思ったからだ。
長机と、丸い椅子が置かれた、質素な受付に居たのは、元腕利き冒険者という風貌の中年の男と、先ほどの受付のベルを持った男性だった。
マーストンたちは手続きを済ませ、ベルの男性からお金をもらう。
「おかしな連中を連れて行くなら、討伐されんようにするんだな」
えっ? 聞き間違いかと思ったが、中年の男性は納得がいかない。と言う顔で、ニンフ達を見ていた。
「……すみません。スレッグさん、やめてください、彼らに謝ってください。それにここは私、一人でいいので、見回りへ向かってください」
心底慌てているという男性は、不満げな中年男性を追い払う様に言う。
言われた中年男性は不満げに、彼をみると、顔をそらした。
「わかった。わかった。すまなかった、だが、無暗の仲間を集めればいいってもんでもないぞ」
「もうー、スレッグさん、冒険者様方、本当にすみません」
しかし、スレッグさんと呼ばれていた男性はそのまま、畑の中のあぜ道を通り抜けどこかへ行ってしまおうとしている。
「待ってください。この冒険者さんたちは、ギルドの許可を得ているんですよ! 彼女たちにちゃんと、謝罪してから行ってください!」
「手は、震えているのか?」
「それは怒りに震えるってやつです」
向かい合う彼らに、戸惑い、そして彼らの話を聞き、苛立ちという感情に突き動かされそうになっているマーストン、そんな彼の肩に手をかけ、アレックスが後ろからマーストンの隣へと並んだ。
「まぁ、待てマーストン、もう一度ギルドに行ってどういう事か聞いて来よう。ここで争うより、手の空いているギルド職員の誰かに着て貰い、仲裁に入って貰った方が話が断然に早い」
そうアレックスがいい、ニヤリと笑った。
「すまなかった、ギルドの判断に水を差したようだ」
「なっ!?、スレッグさん……何故、そんな言い方を? 貴方はギルドの理念をお忘れなのですか? はぁ……時間の無駄かもしれません。いいから行ってください。早く!」
そう、彼に言われそのまま中年男性は居なくなった。
「本当にすみません。冒険者の経験者の方を雇ってはいるのですが、長い年月の冒険の中でああなってしまう方もいるんです。それだけ迷宮は恐ろしいようで……」
彼はそれだけ言うと、それ以上、語る事はなかった。
――迷宮、冒険、生死を賭ける戦いの中での心の摩耗、それはいつか、マーストンたちにも起こることだろう……。
戦い前に、要らない負の感情を背負ってしまったマーストンたちは、臨時の受付を離れクエストを始めるべく、地図に目を走らせながら歩き出す。
今回のクエストは、地図に書かれた方向へただ進めばいいだけだ。
狼の移動能力を考えれば、心もとない作戦だが、クエストの部類としては魔物が現れなければ、簡単な仕事でしかなかった。
その時突然、背広の背中を引っ張られ、首がしまり「グッ!?」となる。
ニンフが薬草を持って、マーストンへと手渡そうとしていた。
「ニンフ……、僕は反論はしましたが、人間相手にて体力も魔力も減りませんよ」
そう言っている途中に彼女は、マーストンの頭を撫でる。
なでなで、彼は彼女のなでやすい高さまで座りこむ。
貰った葉をクルクルと指先で回し、「僕も、もう大人なので言い争っても、泣いたりしませんよ。それに薬草があれば元気になります。もぐもぐ」
そして彼は立ち上がり、手を広げる。
「ほら、この通り。おかげさまで、身長も大きくなったので大丈夫です。では、行きましょうか、冒険の始まりですよ」
そう言って彼女の背中に手を添えて、歩き出す。
「ほら行くぞ」
「わかりました。でも、マーストンは大丈夫ですか?」
「ほら、あの通り大丈夫だ」
そう話す。アレックスとダークエルフさんの声が聞こえた。
彼女の手には、ギルドの横の武器屋で買った木の剣があるが、それについてアレックスが指南を始めたようだ。
そして魔物と出会わないまま1時間が過ぎた。
すべて倒されたか、嗅覚で危険を察知し、撤退したか曖昧なまま2時間経過したものから撤退する事になり、マーストンたちの初めての合同クエストは、成果がないまま幕を閉じた。
続く
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