【海辺の街 オアハジ】のギルド
海辺の街 オアハジへ訪れることができた。
これまでいくつもの村に荷物を届け、川や村と森を越えて来た。
左側に見えていた丘が途切れると麦畑などの畑が広がり、右手には海がどこまでも続く。
そこまで来ると城下街が目の前に迫って来る。
人の手で維持されているあぜ道と多くの畑の風景と、神の手で作られた砂浜や海の風景の中を彼らの乗った幌馬車は、ゴトゴトと音を立てながら、海風を受けて走って行く。
そして彼らの乗った幌馬車はそんな美しい景色を抜けて、橋を渡り、城下街へ入る。
街の出入りを守る真面目そうな兵士が数人立っていて、御者席にいる若い冒険者たちへと顔をうかがうように見、荷の部分も覗き見ていたようだったが、怪しくなかったのだろう、そのまま街へと通してくれた。
街に入ってすぐ、魔物の群れから助けた彼が、幌馬車の御者席と、荷台を隔てる壁に付けられた小窓から声をかけてきた。
「すみませーん、このまま真っすぐにギルドへ向かっていただけないでしょうか?」
「あぁーわかった」
その声で、彼の奥さんと子どもは目を覚ましたのだろう。
少しのやり取りのあと、小さな子どものキラキラしたブラウンの目が、小さな小窓から覗き込んで来た。
「俺はブルーノです。この度は助かりました。皆さんは俺たちの命の恩人です」
彼の声が途切れると、マーストンと彼の娘の交差した視線は断ち切れる。
「おとうさん、もっと! もっと!」
「えっー!? お父さんのお腰が痛くなちゃうよ」
その後不意に聞こえた、その声に、今度はマーストンとアレックスが視線を合わせ、小さく微笑みを浮かべる。そして彼は優しい口調で、後ろへと話しかけた。
「僕はマーストンです。よろしくお願いします。今回の出来事については、冒険者なのでやるべき事をしただけです。ギルドは僕たちに、見知らぬ危険の集団と見らないよう、常、日頃からの人道的な配慮を求めていますから……」
「ですが、進んでそれを行うものは限られます。皆さんご立派ですよー」
「いや、本当、出来ることをしただけなので」
なんか上手くない返事だ。そしてそう思っている事も、言葉のぎこちなさからブルーノさんに伝わりそうで、冷や汗をかきそうになる。
「ところで、皆さんはこの街へは、初めて来られたのですか?」
「はい、ギルドとエルフの領事館に用がありまして」
つい今しがた怖い思いをした彼らに、その場所を聞くのははばかられ、あわよくばと思いながらも彼は伝えた。
その時、誰もふさいでいない小窓から、ニンフと、その横へ座るダークエルフさんが少しだけ見えた。
彼女の、その表情からは、マーストンたちと旅を続ける事について、どう思っているかは、何も読み取ることは出来なかった。
「ギルドは先ほども言った通り、この大通りをまっすぐ行ったところにあります。ただ……エルフの領事館は向かって左の住宅街方面に向かい、商店が立ち並ぶエリアにあるのですが……エルフの人柄か、ややわかりにくい場所にあります。弓矢を販売する店の隣のあるって言うか、憩いの場がその役目を担う様になったようです」
「憩いの広場ですか……、行ってみます。ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ、なんとお礼を言えばいいか。おかげさまで、家族3人の命が助かりました。それでですね……うちの隣の祖父の家があいているので、皆さん住みませんか?」
彼はとてもいい難そうに、そう告げてくる。
突然の申し出に、マーストンも困惑するばかりだ。
「驚かれるのはわかります。うちは牧場を生業としています。しかし今回の事態……いえ、最近、物騒な事件が多く、自警団のせん滅作戦が行われるとも、冒険者にクエストが出されるとも聞きました」
「やはり地下空洞とつながることが原因ですか?」
「新聞なんて、言っていることが千差万別で、我々は自営しなければ、死の危険性があるとしかわらないですね……」
「……うーん、田舎ではそこまでではないのですが、状況は過酷の様ですね。だから僕らのパーティーに家を貸してくださると?」
「はい……乳牛は街には住めません。あの場所で飼っておりましたが、すぐにあの家も牛小屋の牛も家も売り払うことが出来ないというか、魔物が出たとわかると買いたたかれるのは火を見るより明らかです。妻と娘は、親戚に預け様子を見て、今後を決めたいと思っていますが……どうしても動物相手ですので、1人は住まなければいけない。けれどクエストとしてギルドに申請するのにも、手数料と代金はかかります。しかし皆さんが居るかもしれないと考えるとやはり心強い。倒していただければ別にお礼もお出しします。そんなわけで……図々しいお願いですが、住んで頂けないでしょうか?」
「あ……それはお困りでしょう。うちの戦士アレックスと相談して、それから家を見て決めてもいいですか?」
マーストンはこの話の流れから、昔話の住人になったようだと考えながら、その話を聞いていた。
4人のパーティーの家が借りられれば、きっと助かるはず。何せ、マーストンは1人で2人も養う事になる……。
そう思った時、何気にダークエルフさんを養うメンバーに入れてたことに、自分でも呆れた。
しかしそろそろダークエルフさんを養わないメンバーとする考えに、見切りをつけて受け入れた方が早い様な気がしてきた。
そうすれば老後は安泰って、考え方もあるかもしれない。
マーストンが老後に思いを馳せている間に、馬車は止まりアレックスの分まで荷物を持って降りる。
アレックスは馬車から馬を切り離し、飼育係の男性にこれまでの経緯と、馬の大まかな体調を伝えていた。
飼育係が馬を連れ去ると、ニンフやダークエルフさんもなぜかついて行く。
「馬の前に突然現れては、駄目だからね」
うなずくニンフと、「はーい」と答えた、ダークエルフさんはすぐに馬小屋の中に消えて行った。
「アレックス、助けた方、ブルーノさんがあの近くの家を貸してくれるらしく、今度、見に行く約束をしたよ」
「いいんじゃないか? ここはどこへ行くにしても交通の便がいい。俺たちだけの住処は、調理場で物が勝手に消える心配がなくていい」
「アレックスは、シェアハウスの方を使っていたんですね」
「宿屋はな……、交流スペースがないのでやめておいた」
「なっ!」なんで、そんなにヒーラーが居ないのか、それは彼も知りたいところだっただろう。
「……大変なんですね。ヒーラー探しって」
そう言ったところでふたりが帰って来る。
彼らのパーティーは、ギルドの後ろ側にあった馬車置き場から出ることになり、ギルドの壁づたいを歩き、ギルドの前の道へと出た。
「見て、ダークエルフ……」
突然、誰かの声がしてそちらを見ると、こちらを見ている弓使いの女性と目が合った。
車道の向こう側の歩道を歩いていたらしい彼女のパーティーと、僕らのパーティーとブルーノさん家族、そして1人で歩く通行人。
弓使いの彼女の声とともに、波紋が広がるように皆、こっちを見た。
しかし発端である弓使いの女性は、マーストンと目が合うと気まずそうに、彼女を待つ誰かを追いかける。
彼女を見送ると、もう当たりのように人々は、マーストンたちに関心を示さずに歩いて行く。
アレックスは、ギルドの掲示板の前を通った時、指でその内容を追いながらも「ギルド前では特に、強さは見かけじゃわからない。堂々とすればいい」とマーストンだけに聞こえる声でそっとつぶやいた。
続く
見ていただきありがとうございます。
また、どこかで。




