表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/28

第三章:石の重み、手の温もり

ラーグの怪我は少しずつ癒えてきていた。肩の傷はかさぶたに変わり、痛みも和らいできたが、腕を大きく動かすにはまだ無理があった。エルラはそれでも根気強く看病を続け、朝と夜には決まって地下倉に降りてきて様子を見た。


ある午後のことだった。空は灰色の雲に覆われ、リンダリー村の石壁には湿った霧がまとわりついていた。エルラは薪を集めに裏手の小道へ出ていた。だがその帰り道、いつも通りの緩い斜面で、足を滑らせた。


「きゃっ!」


抱えていた枝束が飛び散り、彼女は膝をついた。転げ落ちはしなかったが、足首に鈍い痛みが走った。


「くそっ……ああ……」


呻くようにして立ち上がろうとしたとき、家の扉が開いた。


「エルラ!」


驚くほど早く現れたのは、地下倉にいるはずのラーグだった。肩をかばいながら、それでも彼は坂を下りてきて、彼女の元に膝をついた。


「どうした、足か?」


「ちょっと捻っただけ……あなた、動いちゃダメよ」


「馬鹿を言うな。お前の顔色、真っ青じゃないか」


その声に、エルラは思わず吹き出した。


「“お前”? …すっかり馴れ馴れしくなったわね、人間さん」


ラーグは少し顔を赤らめたが、構わず彼女の腕をとり、そっと支えて立たせた。その手は大きくて硬かったが、優しかった。エルラはその手を振り払うことができなかった。


「本当に、歩けるか?」


「うん、なんとか。でも、ちょっと頼っていい?」


「それを言うなら……俺は今まで、ホビットって、自分たち以外は信用しない連中だと思ってた」


「正しい部分もあるわ。でも私も、人間は勝手で乱暴だって思い込んでた」


ふたりの目が合った。まるで長い霧が晴れたあとの空のように、澄んでいた。


「だけど――少なくとも今の私には、あなたが必要だわ」


「そして俺も、お前がいてくれて助かってる」


言葉は照れ隠しのようにぶっきらぼうだったが、ラーグの目は真剣だった。エルラは笑って、彼の手に自分の手を重ねた。


「不思議ね。協力し合えないと思ってたのに、こんなに簡単だったなんて」


「たぶん、簡単に見えないようにしてたのは、自分たちのほうなんだろうな」


ふたりはゆっくりと家に戻った。歩幅は合っていなかったが、どちらも急がなかった。寄り添いながら進む足取りは、やがて自然にひとつにまとまっていった。


エルラの足首は軽い捻挫だったが、ふたりの間に芽生えた信頼の重みは、もっと深く、確かなものだった。


そしてエルラは、この時初めて自覚した。


自分の中に生まれていた、ただの「助けたい」という感情が、今やもっと静かであたたかいものへと変わりつつあることを――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ