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第二十七章:混ぜれば良くなる、なんて

夏の光が強くなり、薬草園の葉が濃い影を地面に落とすようになった頃。

エルラとラーグは、ある試みに取りかかっていた。

街から持ち込まれた高価な薬草「エルゼン」と、

村で代々使われてきた「ルレア」を掛け合わせ、

より効き目の強い、万能に近い癒し草を作ろうというものだった。


両方とも、それぞれが高い治癒力を持ち、過去に効果が証明されていた。

「これが成功すれば、もう草を使い分ける必要はない」と、

誰もが期待を寄せていた。


ふたりもそうだった。


――自分たちのように、異なる土地で生まれ、

異なる方法で育ち、それでも並び立ったもの同士なら、

“重ねる”ことで、さらに強くなれるはずだ、と。


けれど。


交配から一週間、ふたつの草はまるでかみ合わなかった。

片方が育てば、もう片方が萎れる。

色合いもばらつき、香りは濁った。

煎じても薬効は安定せず、毒性すら現れる兆候があった。


「…なんで? どっちもいい草だったのに」


エルラは鉢を抱えたままつぶやいた。

横でラーグも、じっと枯れかけた苗を見つめていた。


「どっちもいいもの同士でも、混ぜれば必ずうまくいくわけじゃないんだな…」


その言葉は、ふたりの胸に鈍く沈んだ。


沈黙のなか、エルラがぽつりと言った。


「わたしたちも……“混ぜれば強くなれる”と思ってたのかもしれない」


ラーグは視線を落としたまま答えた。


「正直…この草を見てると、自分たちのことが重なる。

最初は全部噛み合うと思ってた。でも…価値観も、育ちも、進み方も違う。

いまも、どこかで“ずれてる”気がすることがある」


その言葉に、ふたりのあいだに冷たい風が吹いた気がした。


けれど、エルラは目を上げた。


「でも、混ざり合えないからって、失敗じゃないよね。

無理にひとつにならなくても……隣に咲いてるだけで、いいのかもしれない」


ラーグはその言葉を聞いて、肩の力を抜いたように笑った。


「…隣に?」


「うん。あなたのこと、わたしは“重ねる”んじゃなくて、

“並べて見たい”の。あなたのままで、わたしの隣にいてほしい」


沈黙が、今度はあたたかく降りた。

かすかな風が、鉢植えの葉を揺らした。


その夜、ふたりは再び草を植えた。

だが今度は、混ぜずに、互いの間に一本ずつ。


エルゼンとルレア。

互いの性質を保ったまま、根を競わず、

けれど光を分け合うように育つよう、少しだけ間をあけて並べた。


そして数日後。

そのふたつの草の間から、

誰も植えていないはずの、第三の芽がひょっこり顔を出した。


エルラが驚きの声を上げる。


「これ……どちらでもない芽。どっちからも遠くて、でも近い…」


ラーグは静かに微笑んだ。


「無理に混ざらなかったからこそ、育ったのかもな。

きっと、ふたりのままでいたから、生まれた何かなんだ」


ふたりは目を合わせた。

そしてその芽を、そっと囲うように、もう一度土をかけた。

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