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第二十四章:ひとつぶの種から

草の芽吹きから三日後。

風にのって、そのささやかな奇跡の知らせが、街のあちこちに広まりはじめていた。


「村の薬草園で、街と村の草が一緒に育ったらしい」

「混ざって新種ができたとか。冗談だろう?」

「でもほら、広場の掲示に写真が…ほんとに出てるじゃないか!」


その噂は、魔法士の研究所にも、商人の集会にも、王都に通じる市門にも届いていた。

人々は半信半疑で、だが興味を抑えきれず、ぽつぽつと村を訪れるようになった。


最初は魔法士たち。

次に薬学士、そして見習いの若者たち。

なかには、かつて「薬草など古臭い手段」と切り捨てた者もいた。


だが彼らが実際に村の薬草園を訪れたとき――

雑草のように思っていた草が、互いに絡み合い、

異なる種類が共存し、根を広げ、芽を立てていた。


「…これ、どうやって管理してるんですか?」

魔法士のひとりが尋ねた。


「してないのよ」エルラが笑う。

「どの草が主かなんて、決めないの。共にあるまま、育ってるの」


彼女の言葉に、街の研究者が目を細めた。


「効率は良くない。分類も曖昧。…でも、なぜか心に響く。

これは薬学じゃなく、“人と草の暮らし”だ」


ラーグが加えた。


「俺たち、薬を作ってるんじゃない。

“関わること”そのものが癒しになるって、気づいたんだよ」


やがて村の畑の一角で、子どもたちが草に水をやっていた。

街から来た見習いたちも一緒に、泥まみれになりながら笑い合う。


その光景を見ていた老魔法士が、ぽつりと呟いた。


「……こんなことになるとはな。

始まったとき、わたしは“時間の無駄”だと思っていた」


「俺もです」横にいた商人も言った。

「人と労力を集めて、半年で育ったのは芽が数本。

…でも、あの子たちの笑い声を聞いたとき、思ったんです。

“芽”より、先に育ってたのは、“心の土”だったんだなって」


夕方、広場では自然と拍手が起きた。

誰が始めたのでもなく、誰かに言われたのでもなかった。


子どもが、手にした薬草の束を高く掲げて叫んだ。


「これ、みんなで育てたんだよ!」


その声に、場にいた全員が頷いた。

確かに、見返りは少なかった。

時間も手間も労力もかかった。

だが、得られたものは、思っていたよりずっと深く――


“ああ、やってよかった”と心から言えるものだった。


笑い声と、土の香りと、あたたかい風。

小さな種から芽吹いたその奇跡は、誰にも奪えない、確かな歓びとして、

村の空に、深く根を下ろしていた。

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