第二十一章:見下ろされた癒し
合同薬草市から十日後。
街の大広場では、治癒魔法士ギルド主催の“公的回復術講演会”が開かれていた。
壇上では、真白い法衣をまとった若き魔法士たちが、華麗な手の動きとともに、
傷口を閉じ、炎症を抑える様子を実演していた。
その場にいた村の人々は目を丸くしていた。
「すごい…」「まるで奇跡だ…」
その反応は、無理もない。
ラーグとエルラも人混みの中から様子を見ていたが、
どこか落ち着かないものが胸に残っていた。
実演の後、司会役の魔法士が言った。
「もちろん、薬草などによる古典的な処置も存在します。
だが、それはあくまで“手段がないとき”の次善策であり、
このような魔法による治癒こそが、文明の証であると――」
そこまで聞いて、エルラの眉がぴくりと動いた。
ラーグもまた、黙って拳を握った。
村の子どもたちが、「やっぱり魔法士ってすごいな!」と目を輝かせて言ったとき、
エルラは小さく肩をすくめて笑った。
「…こういうの、まだ残ってたんだね。
“新しいものが上等で、古いものは劣ってる”っていう思い込み」
ラーグも、乾いた笑みを返した。
「治せることに違いはないのに、やり方に“貴賤”をつけたがる。
でも、それを言ったのが“魔法士”ってだけで、説得力があるように聞こえちまうんだ」
がっかりした気持ちは嘘ではなかった。
だがその晩、村に戻ってからのことだった。
怪我をした獣使いの少年が、エルラのもとに担がれてきた。
右足に深い裂傷があり、魔法士は既に街に戻っていた。
エルラは、何も言わずに薬草を煎じ、
湿布と包帯で患部を覆いながら、小さな声で言った。
「魔法士は、たぶん“見た目”を治すのは得意。でも、内側の熱や、時間のズレは草のほうが得意なのよ」
ラーグも頷いた。
「魔法は確かにすごい。でも、それで全部を治せるわけじゃない。
草は手間がかかる。でも、そのぶん“目をかける”時間がある」
数日後、少年の傷はすっかり癒え、皮膚の色もきれいに戻っていた。
少年は街の友人にこう言った。
「…魔法はすごい。でも、エルラの包帯は“安心”までくっついてた」
その言葉を聞いたとき、エルラは目を見開き、ラーグと顔を見合わせた。
「響いてたんだ…ちゃんと」
「なあ、エルラ。
魔法士たちは“治す速さ”で勝とうとしたけど、
俺たちは“癒す深さ”でちゃんと届いてたんだな」
ふたりは、心の奥に小さく灯った火のような喜びを感じた。
それは大声で主張するものではなく、
静かに、けれど確かに自信へと変わっていく光だった。




