牛飼い
生い茂る草原。風にふかれ揺れ動く草は太陽の光を浴び金色に輝いていた。遠くの方を眺めると濃い緑色の山々が連なり、この地の高い所から見下ろし大きな存在感を漂わしていた。
小さな家がぽつりと立つ。家は静かな茶色い木で囲まれていた。小さな家は不気味な音を立てる。扉の開く音だ。中から出てきたのは、無造作に伸ばされた髭と、見窄らしいつなぎを着た、大男が出てきた。沈んだ表情で、俯きながら歩く男は、まっすぐ歩いて木で作られた柵を越える。山積みに積まれた干し草の前まであると、ピッチフォークに手を掛け、干し草をかき分ける。
「なぁ、あいついつも死んだ目をしているよな。」小さなネズミは話だす。
「うん。」返事を返す狐。
「人間って大変なんだ」と小さいネズミ。
「そうらしいね」と狐。
二匹の動物は遠くの方から男の方をぼんやりと観察していた。
男は干し草を台車に乗せると、それを運び、牛たちに与えていた。
「呑気な牛だよな、アイツらって人間の餌になるんだぜ。」
「そうなんだ。」
「でもよお、多分そんなこと牛達はしらねぇんだぜ。だからあんなに呑気な顔をしてられるんだぜ」
「なんで、牛達が人間の餌になるって、ネズミさんは知ってるの?」
「そりゃだって、俺たちは食べなくちゃ生きていけねぇだろうがよお。食べるために育ててるに違いねぇよ。森でオオカミ達の話を盗み聞きしたんだがな、牛ちゅうのは、食べると相当美味いんだってよ。」
「そうなんだ」
台車の干し草がなくなると男はまた、干し草が積まれている所まで戻り、干し草を台車に乗せ牛の所にもっていく。
「おれは、生まれ変わっても人間にはなりたくねぇえな。あの人生に疲れ切った顔見てるとそう思うぜ。狐さんはどう思う?」
生い茂る草原。さっきまで出ていた太陽は、風に乗って運ばれきた雲によって姿を隠していた。辺りは薄暗くなり今にも雨が降ってきそうだ。男は空を見上げると、道具を片付け、家の中に入っていった。
狐も空を見上げると、森の方に姿を消した。どこか憂鬱な表情を浮かべながら。