第三章 捜索〜反応しない警察犬〜
「出発するぞ。ルートは地図のここと――こっちの旧林道側。
それぞれ二班に分かれて進入」
捜査主任の指示に、隊員たちがうなずく。
樹海の入り口で、1匹の警察犬が低くうなっていた。
「おい、大丈夫か?」
ハンドラーが首輪を軽く引く。だが、犬はその場から一歩も動こうとしない。
「……どうした?」
ハンドラーが手のひらにシャツの切れ端を乗せ、犬の鼻先に近づける。
リョウの服についていた、友人の衣類の一部だ。
警察犬は匂いを嗅いだが――次の瞬間、顔を逸らした。
「……?」
さらにもう一度匂わせる。今度は犬が一歩、後ずさる。
「主任、犬が反応しません。というか……拒絶してます」
捜査主任が眉をひそめた。
「どういうことだ。何も反応がないのか?」
「いえ、違います。明らかに“何かを感じてる”様子なんですが……
匂いを追おうとしないんです。むしろ怯えてる」
その言葉に、一瞬、場の空気が凍った。
隊員たちが無意識に足元を見る。
朝露を含んだ地面には、確かに足跡が複数、残っている。
だが、それを追おうとする動物が――拒んでいる。
「……とにかく人の足で追うしかないな。無理はさせるな」
捜査主任の声には、微かに緊張が混じっていた。
木々の間へ、捜索隊が慎重に歩を進めていく。
その奥で、なにかが、微かに揺れた。