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第一章 倒れていた青年2
「ザッ……ザッ……ザ……」
足音が、明らかに近づいていた。
一歩ずつ、湿った土を踏みしめるような鈍い音。
誰も振り返れなかった。
振り返って“何か”がいたら、もう戻ってこられないような気がした。
そのときだった。
「……か……え……る……」
ボソボソとした声が、闇の中から滲むように聞こえてきた。
まるで耳元にいるかのような近さで、誰の声とも分からないほど濁っている。
「やめろ……やめろよ……」
ヒロトが震える声でそう言った瞬間――
「無理だ、俺、無理っ!」
シュンが叫ぶように言い、背を向けて走り出した。
「おい、待てって! シュン!」
アイとユウタも続くように駆け出す。
暗い森に足音が散り、ライトの光が揺れて消えていった。
「待て……! 行くな、馬鹿!」
一人その場に残ったリョウが叫ぶ。
「樹海の中は……! 深くまで行ったら……帰れなくなる!!」
叫びは誰にも届かなかった。
濃い木々の中へ、友人たちの姿はすでに見えなくなっていた。