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プロローグ
八月の終わり。
ワゴンの窓を伝う陽の光は、どこかぼんやりとしていた。
「なんか……出るらしいよ」
後部座席の一人がそうつぶやき、車内に一瞬の沈黙が落ちる。
「マジで言ってんの?」
「いや、ただの噂。昔、変な事件があったとかさ」
ワイワイとした雰囲気。
けれど、その中に混じる一人だけが、何かに気づいているような表情で黙っていた。
ワゴンが停まり、五人は車を降りる。
鬱蒼とした樹海が、目の前に広がっていた――。
……そして。
倒れていたのは、一人の青年だった。
土埃まみれのシャツ。裂けた袖口。右手は何かをかばうように胸元を掴み、血がにじんでいる。
顔は泥と血で汚れていたが、その目だけが、虚空を見つめたまま微かに揺れていた。
遠くで、サイレンの音が響いていた。
病室の静寂の中、青年の前に男が一人座る。
「……話せるか?」
青年の口元が、かすかに動いた。
「……あれは、遊びのつもりだったんです……最初は……」