第九葉 『封印されし、木偶の坊』
亜人達が私のために祠をこさえた
水辺を見守るように陸地に作られたそれは
見た目は不格好だが、ありがたいものだ
これなら濡れる心配もなくなる
今日は、あの亜人と岩場へ向かう予定だ
予定を立てるなど久しい事だ
なんでも、竜神が祀られているらしい
私は亜人の肩に乗り、その地へと向かった
しばらく歩くと、辺りがゴツゴツとしてきた
そこへ別の亜人がやって来た
リザードマンとは少し違うようだ
こちらの方が、より人型に近い
「そこのリザードマン 何用だ」
「神の使いをお連れした、竜神にお目通り願いたい」
「神の使いだと? 話しには聞いていたが、、しばし待て」
しばらくすると、奥から牛の頭蓋骨を被った亜人が出て来た
その亜人に案内され、それはそれは大きな洞窟の前に来た
《なんだあ? この洞窟は》
「さあね ここに竜神がいるのかね」
リザードマンが説明する
「神の使いよ 竜神は、我々リザードマンと、ここに住まうドラゴニュートの守り神です」
《守られてねえじゃねえか》
牛の頭蓋骨を被った亜人が言う
「ここから先は、神の使いのみで行かれよ 我々ドラゴニュートでも中に入る事は禁じられている」
私は洞窟に入る、そこは大きくとても広い
洞窟の深くまで来た
奥に何やら、ぼやっと光っている
近づいてみると、それはとても大きな竜の石像だった
翼を広げ、叫ぶように口を広げ、かなり傷ついている
光の壁が、石像の周りを囲っていた
《石像? いや、これは、、》
「ああ、、生きたまま石にされてるねぇ、、」
《魔術ってヤツか、、》
「ひどい封印術だねぇ」
《かなり強引で、雑な術だな》
「そうだね 品のない術だね」
《こんなのに封印されるなんて恥ずかしい》
「ああ 私なら耐えられない」
「お前ら言い過ぎだろ! なんか恥ずかしくなってきた!」
《なんか言ったか?》
「いんや? 何も言いやしないよ」
「俺だよ! お前らの目の前に居るだろ!」
《まさか、、石にされた恥知らずか!?》
「この木偶の坊が口を利いたのかい?」
「お前ら言いたい放題だな!!」
話によれば、聖戦の後
数年もの間、人間に幾度となく襲われ
最終的に封印されて約千年経つという
自分を祀る民も、ここまでは来ず
寂しく時が経つのを待つだけだという
《ん〜 話を聞くとほっとけねえけど》
「そうだね、他人事には聞こえないからね」
「おっ!?なになに!? なんとか出来んの!?」
「出来ない事は、ないのだけどね、、」
《お前の封印解いたら、またここが人間に襲われるだろ》
「今度は負けねえから大丈夫!」
「わかってないね、、お前が良くても他の者が困るだろう」
「あーそっか! わりい!」
「呆れたねぇ、、」
《こいつバカだな》
私は、洞窟を出て亜人達に経緯を話した
何か、依代になる物はないかと思い
この土地で採れる供物を持ってこさせた
《ん〜 果物、魚、兎、、おっコレなんかどうだ?》
「ふふっ ぴったりだねぇ」
私はそれを『神籬』として
布を被せ、薬草を乗せ、供物の前に置いた
辺りに水を撒き、清めさせた
そして亜人達に祈らせた
亜人達は膝を付き、両手を結んで目を閉じる
私が唱える、、、
「招神の儀を始める、、
謹みて申さく
御神体に坐す竜神の御霊よ
この神籬に御降りまし
清き御心をもて
我らを照らし給え
豊かなる実りを賜え
災いを除け給え
かしこみかしこみ申す、、、、」
すると、神籬が激しく輝き
布が浮き、中から、竜神の御霊を降ろした供物が動き
言葉を発した
「よっしゃあああい! 復活じゃあああいっ!」
光が収まっていく、、
その依代となった供物は
左手を腰に、右手で天を指さした
亜人達は、その奇跡を目の当たりにし、驚愕した
「おお! りゅ、竜神様が!!」
「竜神様の復活だ!」
「ニーズヘッグ様!」
「うっ、、うう、、竜神様ぁぁぁ、、」
「竜神様ぁぁ!!」
「なんと、いう、、奇跡だ、、」
亜人達は皆、感涙している
すると、竜神があることに気付いた
「ちょっと待てええい! な、なんだこの姿は!」
自分の姿をまじまじ見てみると
竜神の姿は『たぬき』である
《ああ似合うぜ》
「ぴったりではないか」
「に、似合うだと!? ぴぴぴぴったりだと!? たぬきじゃねえか!!」
「はぁ〜、、お前さんが竜神だと知れれば、大事になるだろう?」
《お前ほんとバカだな》
「ぐぬぬぬ、、!! 仕方ない、、か!」
「それと、名は隠せ 面倒な事になるからね」
《そうだな、今日からお前は、ぽん吉と名乗れ》
「ぽっ!! ぽん吉ぃぃ、、、?」
竜神は気絶した
亜人達が丁重に家屋に運び
藁の布団へ寝かせ、亜人が風を扇いている
復活を遂げた竜神、ぽん吉の今後は、どうなることやら
【ぽん吉(竜神)】
見た目
冬毛のたぬき
頭に薬草の葉っぱを乗せている