第三皿 『動かぬ亜人、動く猫』
別世界、友との散歩
新たな発見に、オニがはしゃぐ
一匹では出来ぬ、生活に、心が躍る、実に楽しい
時間も忘れ、すでに夕方だ
歩いていると、大きな屋敷があった
荷馬車が止まっている、誰も乗っていない
昨日のトカゲの亜人を乗せていた荷馬車か
屋敷の中は広い、西洋かぶれの装飾が面白い
大きな食卓に、食器が並ぶ、西洋の盃に何やら入っている
匂いを嗅ぐと、それは酒であった
酒を見つけた、オニが飲もうとせがむ
私は猫なれど、ただの猫ではない、中毒になることもない
私は盃を倒し、溢れた酒を舐めた
《おおクロ これはブランデーだ》
「これがブランデーか オニは詳しいのだな」
《色んな場所で人を呪ってたからな》
「そうか 私は酒など日本酒を舐める程度しか知らなんだ」
《日本酒かあ いいなあ 酒は日本酒に限る》
私が酒を舐めていると、太った人間が入ってきた
その人間は、大きな声を上げ向かって来る
私はすぐに外へ出た
出た先に、何やら小屋がある
小屋を覗くと、そこには階段があって
下へ行けるようだ
薄暗く、湿っぽい
階段の終わりに、道がある、とても長い
その道の左右を見ると、いくつもの鉄格子がある
1つ十畳ほどの牢だ、中に誰かが入っている
亜人だ、沢山のトカゲの亜人が牢に入れられている
《なんでこいつら逃げないんだ? 力ずくで出れそうなものだが》
「、、、(さてね 何やら事情があるのだろう)」
《ん? なんで喋らないんだ?》
「、、(猫が喋ると 騒ぎになるよ)」
《それもそうだな》
牢の亜人が私に気付いた
亜人は私を見つめ動かない
「、、、猫か、、尾が2つとは珍しい、、」
亜人はもう何かを諦めた様子だった。
《おいクロ こいつら首に妙な輪っかを付けている》
「、、(おや 本当だ これは呪術の類だね)」
《呪術か これで亜人を縛っているんだな》
「、、(そうだね いったい何をしでかしたのかね)」
《ああ 相当悪い事だろうな 人の酒を盗み飲むとか》
「ふっ ふはははは オニよ、それは我々ではないか はははは あ〜おかしい、、」
《おいクロ声が出てるぞ》
「、、(おっと失礼)」
亜人が驚いたような顔をしている
ソロソロと私に近いて、鉄格子を掴んでいる
「今、、喋ったのか、、この猫が 神の使いか?」
その亜人は、つらつらと今までの経緯を私に語った
静かに水辺で暮らす亜人達は、人間に捕らえられ
無理矢理に奴隷の契約をさせられたそうだ
術式に亜人の血を染み込ませ、縛る術だという。
《なるほどな、奴隷狩りで連れて来られたのか、、》
「、、(おやオニよ お前さん助ける気でいるね?)」
《え? そんなわけないだろ 俺は今まで呪って来た側だぜ》
「、、(隠さなくてもわかるよ 優しい子さお前さんは)」
私は息を大きく吐き、白い霧を出した
次第に霧が濃くなってくる
亜人達は周りをキョロキョロと見渡している
ガチャン
白い霧が、牢の錠を外す
私はそのまま、小屋を出て、屋敷の中に入った
オニが私の口から黒い霧を吐き出した
黒い霧が、呪いの術式を探し出す
《見つけた》
私の眼が、赤く光る
《人を呪わば 穴二つ ってな 『怨鏡・祟り返し』》
この時、牢に居る亜人の首輪が、スルリと落ちた
落ちた首輪は束となり、術者に返って行く
呪詛返しにより、数倍にも膨れ上がった呪いが
術者を襲う、大量の首輪が、術者の口へねじ込まれた
首輪が術者の腹を破る、身体が腐り、それでも死ねない
激しい痛み、己から放たれる腐臭に気が狂う。
「ほう 呪詛返しとは、たいしたものだねぇ」
《まあな へへっ》
私達は、亜人には何も伝えず、今夜の寝床を探しに帰った。
二尾揺れ 闇に光りて 冬の夜は
人を惑わす 猫の声かな