人間は辞めなくて良い理由を無意識的に見つけている
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暗い部屋が良い。
昼の真人間みたいな人たちが、
絶対来ないプライベートな空間。
パブリックではない場所というべきか。
真っ当な人間が来ない空間。
そこに不気味な男の僕がいた。
そんな暗くて不気味な雰囲気に似合わない綺麗なバニーガールの女の子。
ここで僕は語りだす。
「人間はやめなくていい理由を無意識的に見つけているんだ。」
「それだけならいい。厄介なのは、人の行動にもその理屈をぶつけてくる。クソみたいなおせっかいをさ。」
気分は最悪だった。気持ち的には大声で叫びたい気分だ。彼女の表情を見る。
バニーガールは無表情だった。
僕にとっては都合が良かった。
「僕は不器用で。大学を卒業して就職しろという具体性のない社会のアドバイスを真に受けたんだ。
正社員なら何でもいいと言われて育ってきたからさ。飲食店の正社員になったんだ。」
「そこから地獄だった。語るほどの表現力も面白い話もないから語れないんだけどさ。地獄だった。」
「ここの火傷もこの切り傷もドジだから付いちゃった傷なんだよ。向いてないんだよね。」
少しの沈黙。
「だからさ。辞めたいって伝えたんだ。」
バニーガールの表情を見る。
少しだけ驚いた表情のように見えた。
そうだといいな。
「でも不器用なんだろうね。いや僕はバカなんだろうね。辞めさせてもらえなかった。」
「辞めるって伝えれたと思って1カ月くらいたった時に言われたんだ。店長に。まだ辞めるつもりなの?」
「最悪だった。しかもこういうんだよ。辞めるにしても収入0だしとかさ。仕事いい感じなのにねとか。」
「お前に何がわかるんだよ。この仕事に興味がないからずっと辞めたかったんだよ。俺は。収入が0だろうが仕事がいい感じだろうが余計なお世話なんだよ。」
「人間は辞めなくていい理由を見つけてきて、それをぶつけてくるんだ。醜い生き物だよな。まじでやめさせようとしない無駄な足掻きなんだよ。こっちは辞めたいのにうざいよな。」
「俺はもう死んでるのかも...」
指が僕の唇を押さえつける。
バニーガールだった。
「まあ、仕事をまた辞めれなかった。君は辞めなくてもいい理由を探すようなあんなクソにはならないでくれよ。」
バニーガールは笑っていた。
「また地獄が始まる。いい休みだったのに最悪な気分だ。ありがとう。僕の鬱憤を聞いてくれて。スッキリした。」
バニーガールにお礼をいい不気味な場所からでる。
小太りな婆さんが話しかけてくる。
「あなたも物好きだね。あんな人形に話しかけるなんて。」
「好きなんですよ。バニーガール。」
今日も何も返してくれない一番安いキャストに変な愚痴を聞いてもらった。それだけで良かった。
現実を忘れられるこの瞬間が今の僕の癒しだ。
こうして現実から消えた僕は店をでる。
「仕事を辞めても来てくれるよね?」
そんな声が聞こえたような気がした。