ギルド『3丁目』所属の面々
デリケートな人は、ご飯時に読まないようにお願いします。
共感力が臭いに結びつく方はご注意ください。
シリーズ物なので、世界観の説明は省いています。
ダンジョンとともに現れた覚醒者、ダンジョンハンター。その職は多岐に渡る。
インターネットを漁れば、公開されている情報もいくつかある。
攻撃職といわれるソードマスターとかスピアマスターなど、得意な武器が存在する者。もちろんダンジョンから出てくるモンスターを倒すための戦闘職だ。
ダンジョン探索者という、ダンジョンの出現を感知できる者。
攻撃職の動きをサポートする支援職などなど。
ゲームにあるような職業が、覚醒の合図とともに決定づけられ、本人が選べるものではない。
そんな中、ダンジョンから出てくる魔物と戦うことができる力を持った職業がもてはやされ、戦う力のない職業の者は蔑まれた。
「魔物を倒すことができないハンターだって、素晴らしい能力が授けられているのにな」
テレビで、戦闘職ハンターを褒めちぎる番組が流れていた。
が、それに笑顔を作れない男、仁久レイジはポツリと言葉を落とし、席を立とうとしたら、近くにいた男がニヤニヤしながら近づき肩を組み、再び座らせる。
「その素晴らしい能力持ってるのは〜、お気に入りの食堂の子のことかーい? ニックー」
「なっ……」
「照れるな、隠すな、バレバレだ。第2部隊はみんな知っている、ニックーの片思いを!」
「やめてくれ……」
レイジは片思いがバレている恥ずかしさで顔を覆うも、事実なので否定せず。
「けど、叶わぬ恋を突っ走るラブミが、今日もお前を追いかける」
「やめてくれ」
今度は拒絶の意味で、語気強く言葉が出てしまう。
「ハンター料理人なのに、料理の腕は壊滅的! けどレイジにゾッコン!」
「俺は何度も断っている」
ハンターの職であるひとつ、料理人としてギルド専属料理人になりますと自分を売り込みに来た、菊正愛美。自分のことをラブミと呼んでと、就職初日にいきなり言える強メンタルガールであった。
もちろん、履歴書に書かれてあった愛美の振り仮名はラブミではない。が、誰しもがラブミのインパクトに引っ張られ正しい読み方が吹っ飛んだ。
売り込みに来た割にマズメシ生成という、戦闘・調査班のモチベダウンをかましてくる。
しかし、覚醒者というだけあって、その料理にはステータスアップ効果はついていた。が、いかんせんクソ不味い。
ステータスアップでメンタルダウンか、メンタル・ステータスともにキープかという2択を迫られる環境。
そんな中、レイジが偶然見つけた食堂。可愛らしい喫茶店から漂ってくる匂いに釣られて、扉を開けてしまった。
そこで出されたカレーライスが、とても美味しく、店主もレイジの好みドンピシャで可愛らしい。胃袋とハートを鷲掴みにされた。
「ってか、第2部隊に専属の料理人雇えばいいんじゃね? ニックーは隊長なんだから、人事権持ってるっしょ」
「菊正2号が来たら、みんなのメンタルが死ぬからダメだ」
「じゃあ、ニックーの行きつけの店教えろや。お前だけ美味い飯食うのずるい。ついでに永遠の片思い相手を拝みたい」
「却下だ」
スカウトしてみようかと考えたものの、お店を持っている人だ。きっと無理だなと挑戦する前から答えを出してしまう。
お店へ食べに行けば事足りる。そして、ギルドメンバーには店を教えていない。ギルド員総出で押し寄せる可能性もあるのだ。
「にきゅうさぁぁん! ラブミ特製弁当作ってきましたよぉ!」
レイジの部隊がある部屋に、ノックもなしに押し入ってきた女、菊正愛美。大きな曲げわっぱのお弁当箱に、白米と焼き魚、ほうれん草の和え物、生姜焼きのような炒め物と、カップなどで仕切られていない状態でキウイのカットフルーツが入っている弁当を見せつける。白米の上には桜でんぷがハートマークを描いて、こ〜〜〜〜んもり載っている。てんこ盛りである。
「絶対にいらん。菊正の飯は俺の口に合わない」
ダイレクトに拒絶するも、強メンタルなラブミは、めげない・凹まない・何度でも挑戦する。
「またまたぁ、照れちゃってぇ」
何をどうしたら照れていると思えるのかわからないながらも、あの食事は口にするとステータスアップをしつつも絶対にお腹を痛める上に、なぜか口の中にいつまでも不協な味が残るという、ゲキマズ弁当だ。
それなのに、料理の腕に絶対の自信を持っていて、ギルド員たちの悩みの種である。
「菊正」
「ラブミって呼んでくださいよぉ」
「お前、第2部隊出禁な」
ポカンとしているラブミの横を抜けて、レイジは足早に去っていった。
「うっぷ……なんなんだ、あの弁当……! 出来立てのような湯気が肉や米から出ていたが、掃除をしていない排水口のような臭いがしていたぞ……!! おえっ……」
顔が青ざめているレイジは弁当を記憶から消去して、ギルドの事務方さんのところへ向かい、ラブミのもつIDカードでは、自分が所属する第2部隊への入出許可をしないよう申請する。
「あーあ、ラブミ、これで共用エリアしか行き来できなくなったね」
事務方のお姉さんがカラカラ笑う。
既に別部隊は出禁にしていたようだ。
「総隊長が解雇しないからこうなる。そもそも試験を設けなかったからだな」
「大丈夫、全部の部隊から占有部出禁にされたら、解雇だよって、条件ってか猶予を本人にあらかじめ伝えたから」
事務方と総隊長で決めたルールかつ、各部隊に非公開にしていたものらしい。
生活態度及び料理の腕を改めることをしなかった、ラブミの落ち度である。
全部で5部隊ある全ての占有エリア出禁になったため、解雇と聞かされてレイジは安心する。
安心したら腹が減った。
ドブのような臭いの弁当とは違い、何もかもが美味しいご飯しかないあのお店へ行こう。と、レイジは頷く。
ちょうど食用になると思われる肉も、大きな塊で手に入った。と口の端がニッと上がる。
本来なら、ギルド専属の料理人に渡すものだが、誰も渡そうとは思わないらしい。レイジは第5部隊のエリアへ足を向ける。
ギルド『3丁目』は、自社ビル1棟を所有している、組織としては大きいギルドだ。
ダンジョン産でも忌避されないのが宝石類。
鑑定能力を持つハンター複数人が鑑定をし、安全である旨を記した書類を発行すれば、ダンジョン産の物品を売ることが可能である。
そのため、鉱山のようなダンジョンに入ると、採掘隊が鉱石を採取したり、魔物の皮も毛並みのいいものは加工して売ったりする。
安全が確保されたものを売り、資金を集め活動の幅を広げるうちに、大きな組織になっていったものの、発信力が無いため、ハンター組織の間でのみ有名なギルドである。
そのギルドにて設立された部隊のひとつ、第5部隊にレイジは足を踏み入れる。
部隊と言っても、ビルのフロア1角をパーテーションで区切った小会議室のようなエリアだ。
その中はソファとローテーブルの応接セット、机にパソコンと書棚がある、簡素な執務室といった感じである。
「あ、にきゅん」
ホワイトロリータの服を可愛らしく着こなすツインテールの子が、手を振って挨拶する。
レイジは特に顔色も変えず、ひとつ頷くと言葉を出す。
「タケル、この間の肉をくれ」
「はいは〜い。『ストレージオープン』」
タケルと呼ばれたロリ服の人物は、手を右から左へかざすように動かすと、透過されたウインドウが出てくる。
四角い枠で区切られているそれは、ゲームのアイテムウィンドウのようである。
そして、葉っぱに包まれた肉のイラストをタップすると、ウィンドウから実物の肉が出てきて、キャッチする。
「はい、貢ぎ物」
「何をどうするか伝えた覚えはないが」
「行きつけのお店に貢ぐのは、第2のみんなから聞いているから〜」
「ぐっ……」
口が軽い隊員だらけだ。と、レイジの眉間がキュッと寄る。
しかし、皆が知っているならコソコソ行動しなくていいか、と気持ちを切り替える。
そして、レイジにもうひとつ物が差し出された。
「ん? これは??」
「保冷バッグに決まってるじゃん、いくら葉っぱに包まれてるからって、生肉そのまま持ち歩く訳にいかないでしょー」
「あぁ、ありがとう。それにしても、ストレージはいつみても素晴らしい能力だ……羨ましい」
タケルはふふんと鼻を鳴らして、ちょっと胸を張る。
「そりゃそうでしょ! ストレージャーなんだから、荷物を保管してなんぼ! 保管のほか出し入れでも経験値上がるからね!」
タケルはギルド『3丁目』に籍を置く、収納者(ストレージャー)というダンジョンハンターだ。
荷物を預かり、保管・管理するのが主な役割で、保管した荷物は、資産として一覧(インベントリ)表示で閲覧可能。
荷物の出し入れ・保管で経験値が入り、収納容量・収納可能時間もアップする。
ダンジョン産の荷物を盗まれないために、ハンター組織には必須の職業である。
「あ、そういえば、保管可能時間が2週間になったよ」
「この間3日と言っていたのに、大幅に増えたな……」
「20レベル上がっても何も増えなかった分が、一気に増えた感じ。長期ダンジョン遠征の時、ご飯の保管いい感じにできるかも」
「今度、試してみるか」
「それなら、にきゅん行きつけのお店のやつ、テイクアウトしてきてよ」
タケルの言葉に、レイジは固まった。
「テイク……アウト……。あるのだろうか……」
「さぁ……。僕は行った事ないから知らないよ」
行きつけの店は、店でしか食べたことがない。どうせあとで行くし、訊いてみる事にしようとレイジは頷いて、第5部隊を後にした。
菊正は、苗字由来ネットにて、存在しない苗字だったので採用しましたが、もし菊正さんがいたらごめんなさい。決してあなたのことではありません( ;∀;)