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第5話

「あそこがいいかもしれないわね」

「うん……」


 授業が終わって休み時間。私は約束通り霙ちゃんに連れられて人気のない中庭までやってきた。

 ここには誰もいない。助けを求められないが、それは向こうにとっても同じだろう。

 霙ちゃんは私の方を振り返ると、私の手元を見て言ってきた。


「その剣は何?」

「これはお守りというか何というか。抜くことは出来ないんだけど……」


 しまった。前にすーちゃんと対峙した時に持っていなかった事を反省してつい持ってきてしまった。

 私はこの子とバトルになる予感を感じていたんだ。そして、それは当たっていたようで彼女は手を差し出してきた。


「貸して。あたしが抜いてあげる。剣なら素人のあなたより冒険者であるあたしの方が上手く扱えると思うし、それにあなたどんくさそうだから危険だわ」

「それは駄目」

「どうして?」

「それは私が勇者だから!」


 私は迷ったが正直に告げた。ここは退くわけにはいかないと思ったから。

 私の宣言に霙ちゃんは一瞬驚いた様子だったが、すぐに冷静な目つきになった。


「ふーん。あなたが?」


 何だか疑われているようだ。そりゃそうだ。私なんて冒険者である彼女から見たら頼りなく見えるだろう。でも、ここは譲れない。


「この聖剣は私が女神様に与えられたんだから!」

「女神に与えられた聖剣!」


 私の決意に霙ちゃんは感銘を受けたようだ。余計な事も言った気がするが、私の決意は変わらない。

 勇者がいるんだから魔王との戦いに冒険者は不要。余計なちょっかいは出さないで欲しい。

 これで霙ちゃんも諦めてくれれば良かったんだけど、彼女は荷物を下ろすと鞄から武器を出して向けてきた。


「じゃあ、勝負しましょう。あたしが勝ったらその剣を渡すのよ」

「信じてくれないの?」

「信じるも何も、それはこれから調べるの」

「でも、そんな勝負だなんて」

「弱い者に剣は不要でしょ。行くわよ!」

「ええー!?」


 霙ちゃんは問答無用で斬りかかってくる。私はその攻撃を受け止めるだけで精一杯だ。


「思ったりやるのね。どんくさそうだと言ったのは訂正するわ」

「私だってやる時はやるんだ!」


 すーちゃんの相手をこんな冒険者にやらせるわけにはいかない。抜けない剣でも防御の役には立つ。

 だが、霙ちゃんの攻撃はさらに苛烈さを増す。


「でも、これで終わりよ。受けてみなさい! 必殺、流星霙落とし!」

「くっ、ここで必ず殺されるわけにはいかない!」


 霙ちゃんはジャンプして必殺技を放ってくる。

 私は何とかその技を受け流すが、


「ちいっ、しつこい!」


 彼女が身を翻すと共に迫ってきた髪が私の顔面を強打した。


「しまった! ツインテを武器に!」

「隙ありよ!」


 私は思わず目をつぶってしまいながらも我武者羅に鞘を持ち上げて防御の体勢を取るが、思った衝撃がなかなか来ない。

 恐る恐る目を開けると、見知った背中があった。


「すーちゃん?」


 すーちゃんが私を庇うように立ちはだかっていたのだ。霙ちゃんは驚いた顔をして剣を引いた。


「何よ、あなた? 見ない顔ね。あたし達の勝負を邪魔する気?」


 朝にも教室にもいたんだけど霙ちゃんの記憶には残っていないようだった。あるいは魔王のスキルでステルスしていたのかもしれない。


「邪魔をしているのはお前。勇者は私の敵だから。勝手に戦わないで」

「はぁ? 何言ってるのよ。こいつは冒険者でもない一般人なのに勇者の聖剣を持っているって言うのよ。邪魔をするならあなたをどかしてから」

「やれるものならやってみろおお!」


 すーちゃんが吠えた。そして、闇のオーラで霙ちゃんを吹っ飛ばした。

 その衝撃は霙ちゃんにも予想外だったようだが、さすがは冒険者。とっさに防御して着地した。


「何、いまの」

「ダークデストラクションカッター!」


 すーちゃんの攻撃は止まらない。追い打ちで必殺技らしき物を放つ。私の目には手刀から飛ぶ闇の斬撃が霙ちゃんのツインテの片方を斬り飛ばすのが見えた。


「ぎゃー! あたしの髪があああ!」

「これでもうてるみんが冒険者如きに遅れを取る事はない」


 すーちゃんは強気に鼻を鳴らす。

 私はもうわけが分からないまま見ている事しか出来なかった。

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