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転生したら悪役でした。

「……あれ?」


魔の18連勤を終え、玄関で気を失った筈の俺が目覚めたのはベッドの上だ。実家でも病院でもない明らかに金がかかった作りの天井がまず目に入った。左右を見ればこんな広い必要ある!?って位どでかいベッド。更に床には高そうな絨毯が敷かれている。


「ここは……どこだ?俺は一体どうなったんだ?」


身を起こそうとすると軽い!ビックリする程身体が軽い!空気がうまい!肩も腰も痛くない!あとこの服!!パジャマにしては高級すぎる!まるでどこかのお坊ちゃまのような服に身を包んでいるではないか。


「なんなんだこれは……」


恐る恐る自分の手を顔の前に持ってくるとそこには見慣れたきったないささくれなどどこにもないピカピカに磨かれた爪が。ま、まさかこれは!

鏡に向かうとそこに映っていたのは……!

このいかにも人を小馬鹿にしたねちゃっとした感じの口元!海藻類みたいな髪型!ルックスは悪くないが捻じくれたオーラを放つ残念な男の顔がそこにあった。

間違いない!こいつはボン・ノワールだ!


昔高校生の時にアホ程やり込んだ某有名ゲームメーカーが発売した屈指の微妙RRG「ドレイクユニバース」に出てきた悪役貴族のボン・ノワール。


性格は悪い上に人を陥れたり、仲違いさせるのが生き甲斐っていう昔流行ったデスゲームの主催者みたいな奴でひたすらバステやデバフをばら撒くクッソうざい中ボスなんだ!しかもやたら回避だけは高い!いい所と言えば声くらい!

ヘイト担当なんだからワンパンで倒させろよ!と深夜にキレたっけな……。ってそんな話は置いておいてなんで俺はこんなヤツに転生してるの?いや、転生の受け入れが早いよ我ながら!ブラック企業の人事部か!まあ落ち着け俺、こういう時は深呼吸だ。


ヒッヒッフー。


ふぅ落ち着いた。よし状況を整理しよう。まず間違いなく俺は死んだはずだ。あのクソ会社のせいで精神的にも肉体的にもボロ雑巾のようにされてそのまま過労死したのだろう。なのに何故こんなところにいるのか。ああ、煙草が吸いたいなあ。


ベッドに足を組んでむむむと唸りながら俺は『ドレイクユニバース』のストーリーを思い出していた。

そして、とんでもない事を思い出した。


(ノーマルエンド以外じゃこの世界殆ど滅びるんだった!!)


そう。このゲームは主人公がこの世界は箱庭だって真相に気がつくと『ドレイクスレイヤー』が世界を破壊させるんだ。まあ、その後決着はつけるんだけど。いや、何なの?予想外の事態になると発狂して盤面ひっくり返すとかウチのクソ上司の親類縁者?大丈夫?心療内科行く?

ま、ノーマルエンドだと主人公くんが皇帝倒して新しい皇帝になって歴史は繰り返す……。みたいな終わり方だけど世界が滅びるよりはマシよな。


よし、このプランでいこう!


確か主人公くんは俺と同じ魔法学園に通う筈だからそいつに接触して、世界の真相をひた隠しにしながらいずれは皇帝を倒して頂く!これしかねえわ!!


「坊ちゃま……?いかがなさいました……?」


バ、バカなッ!!鍵はかかっていたのにッ!!

いつの間に目隠れおかっぱロングのメイドさんが部屋に!?


ってこのキャラはミザリー。

ボン・ノワールにべた惚れしててボンのためなら何でもやるヤベーやつで一部界隈で人気な敵キャラだ。

ちなみに攻略不可。確か俺……もといボンが死んだ時点で発狂モードになって理不尽な即死攻撃を当然の様に使ってくる。回避不可の即死付与とか開発スタッフは舐めてんのか!とそんな話はいい。


「え、えーと……今日も綺麗だね?」


アホ!何で疑問形だよ!もっとこう褒めるべき所があるでしょうが!!いつも尽くしてくれてありがとうとさ!でも見てこのナイスバディ!おっぱい!そりゃ某界隈でエロ絵ばかり書かれるわ!ごちそうさまです!


「まあ……ノワール様……♥」


頬に手を当ててポッと顔を赤らめるミザリーさん。うへぇ可愛いぜ!死ぬには良い日だ。いや良くないよ!しかし何度見てもすごいなぁ。ボンはこんなのと毎晩イチャイチャしてたのか。なのに学園では女侍らすとかバカなの?死ねよ。いかんいかん、また思考が暴走してしまった。落ち着け俺。冷静になれ。ここはゲームの世界だが今の俺には現実世界なんだ。取り敢えず情報を集めよう。


「ところでミザリーはどうしてここにいるんだい?」

「はい、朝食の準備が出来たのでお呼びしに来たのですが……」

「ああ、そうなんだ。わざわざありがとね!」


よし、自然な流れで会話ができたぞ。このまま情報を聞き出せば何とかなるかも知れん。


「いえ……私はノワール様に尽くすためだけに存在しているのですから……その……いつでも呼んでくださいね?」

はにかみながら言うミザリーちゃんマジ天使。


「もちろんさ。これからもよろしく頼むよ」

「はい……♥」


そして俺は朝食を食べに行くべく部屋を出た。


「ガハハハ!相変わらず朝は弱い様だなボン!取り敢えず肉を食え!」

「は、はい」


食堂に入ると筋骨隆々のスキンヘッドの男が話しかけてきた。この人はゴン・ノワール。見た目通り体育会系な帝国将軍で、ドレイクスレイヤーを所持している猛将なのだ。まあ、ネタバレするとドレイクスレイヤーって三竜すら倒す伝説の武器のことじゃないけどね。


「もっと食わんと俺の様にはなれんぞ!お前は俺の参謀として、いつかは俺をも手駒にできる存在になってもらわねばいかんのだからな!」


ゴンさん、多分ボンの奴それを歪んだ解釈してましたよ……貴方を裏切ってドレイクスレイヤーを強奪するというクソオブクソ野郎になる予定でしたよ……。

それはそれとして食べ物がめっちゃ美味いんですけど!?


「……ボン。もう少し行儀の良い食べ方をしなさい」

「は、はい母上」


今度は母親。この人の名前はクジョ・ノワール。

『紅衣の宰相』と呼ばれて皇帝とあれやこれやして国政を牛耳っている悪役令嬢というか悪役貴婦人だ。世界全てを支配したいとかどこの独裁者なんだか……。

気に入らない奴には平気で罪を着せるし、謀殺するし果てはそいつの親族を薬中にするというイカレ女だ。

最後の方はドレイクスレイヤーに騙されたとか言っていたけど噓つけ絶対自分の趣味だぞ。あとボンやゴンさんが死んでも涙一つ流さない薄情な人間だ。母性はどうした母性は。


「……ボン?何か言いたいことでもあるのかしら?」

「い、いえ!なんでもないですよ!」

「そう。今日はやけに素直ね」


クジョの視線が厳しくなる。え、何ボンの奴って所謂内弁慶タイプだったの?い、いかん!どうごまかすか……?


「ガハハハ!母者、ボンは恐らく入学を控え緊張しているのでありましょう!案ずるなボン!貴様に危害を加えようとする輩は俺が消し飛ばしてやるからな!」


丸太みたいな二の腕で力こぶを誇示しながら豪快に笑うゴンさん。やばい、超カッコいい。この人が味方で良かったわ……。でも過保護すぎ!


「兄さん、静かにしてくれるかい?」

「ガハハハ!すまんなジン!」


ジン・ノワール。所謂男装の麗人キャラでこの人は帝国魔導軍の幹部候補生だ。ルート次第では主人公くんの仲間になるこの人だけは絶対に敵に回したくない……。


「おはようございます。ノワール様」

「ああ、おはようミザリー。いつも通り君は美しいね。あとで僕の部屋に来てくれるかい?少し気になる事があってね」


ジンさんがミザリーさんに話しかけていた。な、何だ?気になる事って?まさか俺がボンの奴に転生した事に気づいたんじゃなかろうか?き、急に料理の味がしなくなってきた……胃がキリキリする……煙草が吸いたいなあ!

そして食事の後準備を済ませ、いかにもな従者といかにもな執事に連れられて俺達は学園に向かった。



馬車から降りて門の前に立つと、そこには立派な校舎がそびえ立っていた。幸いボンの知識は俺の中に残っていたので、試験は何とかなりそうだ。学科は問題なかったし、魔法適性はまあギリギリだった。

まさか魔属性しか適性がないとはなあ……。

あとは模擬戦か……。頼む!マッチョとか太ももバキバキでゴブリンやオークの骨をおやつに食べてますみたいなゴリラレディとかじゃありませんように!!せめて魔法使いタイプであってくれ!


「えーと次は……ボン・ノワール君とユーシャ・アベル君だね」


あ、ピンと来ました。このゲームはデフォルトネームないけど勇者なんて娘に名前つける毒親がいますか?

いないでしょう!つまりそういうことです。見た感じオレンジ髪のあちこちにはねた髪とアホ毛が印象的な元気娘って感じだ。あと顔がいい。


「何だアイツ、平民じゃんか」

「マジかよ……顔はいいけどな……」

「でも魔力量はそこそこあるぜ?」

「おい、あの子めっちゃ可愛いくね?」

「ヤベー……俺惚れちまったかも……」

「お、俺は……その……」


モブの声がうるせー!しらねー!

こっちはそれどころじゃねー!

ユーシャちゃんが主人公なのかヒロインなのかライバル枠なのか見極めるのに必死なんじゃ!黙れ!


「○○○○○!……で……くね!」


ああー!何か言っているけどモブのせいで聞こえねー!セリフからどのタイプか判別できねーだろ!

これで世界が滅んだらどうしてくれるんだ!!


「それでは始めてください」


そして俺の運命を決める模擬戦は始まった。


「それでははじめ!」


開始と同時に俺は魔法の矢を数発放って牽制した。よし!とりあえず様子を伺おう!



「へえーっ!それがマジックアローなんだ!

初めて見たよー!凄い凄い!」


ユーシャちゃんは天然煽り系主人公の様だがそれだけあってメチャ強い。弓矢使いらしく矢でファイアボールを撃ち落としている。弓矢って選択が渋いな!


あとこれは『ドレイクユニバース』で不評だった相殺システムだ。お陰で泥仕合になって経験値稼ぐのがクソ大変だった記憶がある。


「ふふん!どんなもんだい!」

「な、なかなかやりますねぇ…」


ユーシャちゃんがドヤ顔をしている中俺の声は震えているのがまる解り。


『コラー!ノワール!腹に力を込めんか!』

『やはりノワール家の残り滓なだけはある!ギャハハハ!』

『クジョ様じゃなくてその辺の売女から産まれたんじゃないの〜?』

『うわあ、害虫同然じゃなーい♪

同じ空気を吸うのもイヤだわー』


観客席から罵声を浴びせられる。畜生め!学生時代のトラウマを抉る様な事をしやがって!俺だってお前らみたいな時代錯誤な貴族は大嫌いだ!


『貴方、何のために生まれてきたの?』


クソ……よりにもよって生前の記憶まで……!


『いなくなれ!』『いなくなれ!』

『いなくなれ!』『いなくなれ!』


……もう、この世界滅んでもいいんじゃないかな?愚民化教育が行われてるってタネを知っててもこの罵声コールは俺に効く……。


「いい加減にしなよ君達!」


項垂れていた矢先、ユーシャちゃんの怒号が響く。


「……!……!」

「……?……!……!」


観客も流石にまずいと思ったのかブーイングが止む。


「さっきから聞いていれば好き勝手言って……!同じ人間でしょうが!貴方達の方こそ何なの?安全な所から人の悪口ばっかり言う前に自分の行動を省みなさいよ!」

「馬鹿め!俺達は貴族だ!三竜の加護を受けた選ばれた存在なのだぞ!?それを貴様のような下賤な輩と一緒にするな!」


残念なイケメンがユーシャちゃんを指さしながら反論にもならない反論をしている。あれ……?あんなキャラ見た事ないぞ?


「ふーん。じゃあ三竜様の加護ってのを試してもいい?」


ユーシャちゃんは不敵に微笑んでいる。あ、これアカン奴や。


「ほう……面白い。やってみるがいい……ひいっ!?」


まさか矢を番えるのはともかく、アイツも俺も本当に撃つとは思わなかった。遠目の魔術を使うと、例の奴は失禁していた。憐れだ……多分学園でのアイツのあだ名はションベン漏らしだな……。と、その時審判が判定を下す。


「ゆ、ユーシャ君!反則負け!」

「あ」


いや、まあ……そうなるわな。

けどさ……何と言うか……。

こんなんでいいのかよ?



そして試験結果発表。


当然の様にユーシャちゃんの名前はなかった。あのションベン漏らし、もといカウ・マッセが何か圧力をかけたんだな……ユーシャちゃんを遠くで見てニヤニヤしてやがったから俺でもその位は解る。そして俺はというと、何とか合格ラインに達していた。帰りの馬車の中で俺は悶々としていた。


「何、合格は合格だ。お前はまだスタートラインに立ったばかり。挽回のチャンスなどいくらでもあるだろう。かくいう俺も入学試験では解答欄が一つズレていたのを五分前に気づいたものだ」

「まあ……閣下がそんな初歩的なミスを……」


ゴンさんが励ましてくれるが、俺は違う事が気になっていた。それはユーシャちゃんの処遇だ。このままだと彼女の存在は消えてしまう。ゲームには登場しないからだ。仮に消えなくてもこの後反乱軍に入ってノーマルエンドを迎えた彼女は排斥された世界に善政を敷くだろうか……?

いや、それはない。きっと今の皇帝よりも苛烈で非道な政治を行う筈だ。つまり……バッドエンドだ。そんなのは嫌だ。俺は彼女を救いたい。その為にはどうすればいいか、俺の答えはこうだ!十人は乗れるんじゃないかって広馬車だったのが幸いだった。

俺はこの世界にあるかどうかは解らない文化である土下座をした。


「どうか、私に力を貸して下さい!お願いします!」

「お、おい!頭を上げろ!いきなり何をしている?」


ゴンさんが慌てているが、俺は構わずに頼み込んだ。


「頼みます!ユーシャ・アベルを補欠入学させてやって下さい!彼女は必ず兄さんの役に立つ人間になります!だから……!」

「う〜む……」


ゴンさんは不審な表情をしながら腕組みをしていた。ボン・ノワールは絶対に誰かのために何かをするキャラクターではない。つまり、俺は怪しまれている。しかし、それでも俺は食い下がった。


「ユーシャは俺の恩人です!それに彼女がいなかったら俺は入学できていない!俺はユーシャに幸せになって欲しいんです!だから……!」

「ノワール様……?」


ああ、ミザリーさんまで声のトーンが下がってしまった。だけど、それでも俺は諦められなかった。

そして邪神でも悪神でもありがたいことに俺の願いは神に届いた。


「解った。俺の力でなんとかしよう。

校長は嘗て徴兵逃れをした奴だ。

母者と共にそこを揺さぶればあるいは……」

「ありがとうございます!」


俺は感謝した。ゴンさんの立場が悪くなるかもしれないのに俺の我欲のために動いてくれた事に。


「ただし、条件がある」

「は、はい!何でもやります!」

「……ユーシャ・アベルを正妻にするのはいかんぞ?」


え?何?まさか俺がユーシャちゃんに惚れちゃったと勘違いされてる?いや、確かに可愛いけど……。


「そんな……どうして……?どうして?」


ミザリーさんがドス黒いオーラを噴出して発狂寸前になっている。こ、怖い!


「い、いや、そういうんじゃなくてですね……その……友達として仲良くしたいっていうか……そもそもまだ会ったばかりですし……?」

「ガハハハハ!まだまだ初心だなボン!俺がお前位の頃は女の手を握っただけで妊娠させると言われたもんだぞ?だがまあ、いいさ。お前は俺の弟だ。精々頑張るといい」

ゴンさんはそう言って俺の頭を撫でてくれた。


「はい!」


俺は嬉しくなって思わず笑ってしまった。が、ミザリーさんは俯いて無言のままだった。すっごく怖い。


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