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09_ピネス

 助からないとラックは思っていた。

 二度と目覚めないだろうと諦めていただけに、いまこうして目を開けられる現実に驚きを隠せない。

 天井は青空ではなく、緑色のシート。


「テント……?」


 見覚えのないテント内。仰向けのラックに薄い布が申し訳程度にかけられている。

 自分以外に誰かいないかと、起きずに目線だけを傾けると。

 黒髪の女性が着替えている姿を発見し、同時に目が合った。


「…………」


 ラックはゆっくりと目を閉じた。


「すまない。そろそろ着替え終わるからもう少しそのままでいてくれると助かる」

「はい……なんかごめんなさい」


 凛々しい声で、黒髪の女性が笑っている。なんてタイミングで目覚めてしまったのか。

 目を瞑っている間にラックは状況を整理する。昨夜はマヨウ森に入って蜂にボロボロにされて……

 そうだ。なんとか森を出たけど倒れてしまったんだ。後のことは覚えていないが、この女性が助けてくれたのだろうか。


「待たせたな。もういいぞ」


 おそるおそる目を開け、改めて女性の姿を確認。

 下着姿から一変、身に纏う鎧は所々布地が見えており、頑丈さより身軽さを重視した装備だ。

 状況を説明してほしいラックだが、いの一番に尋ねたいことがある。


「あの、エリーは……青髪の女の子はいなかった……?」

「青髪の子ならすぐそこにいるじゃないか」

「え?」


 言われてみれば、腰から下にかけてなにかがひっついている。

 ゆっくりと布をめくると、ラックの下半身を枕にするようにぐっすりと眠っているエリーがいた。


「寝相が悪いのかいまはそこにいるが、きみの体を温めようとずっとくっついていたぞ。随分その子に好かれているようだな」


 いろいろ思うところはあるが、エリーが無事なら一安心だ。

 体を起こそうとするも、頭がふらつき再び仰向けになってしまう。


「大丈夫か? まだ動けないなら無理はするな。まだ毒は抜けきってないんだからな」

「毒……? ああそっか、あの蜂の毒針にやられまくってたんだっけ」

「きみが倒れているうちに解毒薬は飲ませてあるが、毒の量が多すぎて足りてないんだ。本格的に治療するなら街の教会に行ったほうがいい」


 道理でうまく力が入らない。

 両手を力ませてなんとか起き上がると、エリーも一緒に目覚めた。


「…………ラック!? ラック!! よかった生きてたよお!!」

「ぬおおおお」


 目覚めとともに勢いよくエリーに抱きつかれ、ラックはまたもや天井を見る羽目に。力が出ないのでされるがままである。

 ひとしきり堪能したエリーは、優しくラックを起こす。彼女が支えているおかげで今度は倒れずに済んだ。


「あのね、ピネスさんがわたし達を助けてくれたの。応急処置もしてくれたしテントまで使わせてもらったんだよっ」


 つまりは命の恩人だ。気づけばラックの体には包帯が巻かれている。

 もしもこの女性がラック達を見つけていなかったら、大変なことになっていただろう。


「助けてくれてありがとうっ!」

「気にするな。たまたま近くで野営してたら気づいただけだしな。……ほら、とりあえず水分補給はしておくんだ」


 二人に水の入ったボトルを渡し、女性は肩まで伸びた黒髪を軽く整える。エリーよりも大人びている容姿は、美人や格好いいを連想させる。おそらく自分達より年上だ。

 腰に付けてある長剣は、彼女も旅をしている証だろうか。


「きみにはまだ名乗ってなかったな。私はピネス、よろしく」

「俺はラックっていうんだ、よろしくピネス」


 エリーによってすでに名前はバレているが、律儀に名乗り合う。

 気分転換がてら三人は外に出ると、あの大雨が嘘のように空は雲一つない晴天だった。

 エリーに支えられながらラックは大きく深呼吸。晴れた朝の空気はとても心地良い。

 現在地とマヨウ森はあまり離れていないため、森がよく見える。とはいえ、夜ほどの神秘さはない。

 マヨウ森を眺めながら、ピネスは尋ねる。


「もしかして、二人はあの森からニンバ地方に来たのか?」

「そうだよ。外に出られたのもかなりギリギリだったけど」

「ふむ……だとしても大したものだよ。白リスを守りながらずっと追いかけてたのだろう? 体力や瞬発力に脚力、なにより戦う力がなければ突破は難しい。それにたった二人でとはな」


 ピネスの言い方から察するに、ラックの突破方法は当たっていた。雨が降る前に気づいていなければ、きっと森の中で力尽きていただろう。


「エリーのおかげだよ。彼女がいたからなんとか出られたんだ」

「ううん、そもそもラックがいなきゃ森から出られなかったんだからっ」

「いやいやエリーがいて初めて成立する作戦だったんだからさ」

「違うわよラックの作戦あってこそなのよ」

「二人の力で出られたのはよくわかった。それより早く毒を完全に治したほうがいい。近くの街まで案内するからそろそろ出るぞ」


 惚気に近い堂々巡りをぶった切り、ピネスは先頭に立って歩く。

 その後ろをついていくが、テントを放置したままなのが気になるエリー。


「ピネスさん、テントは片づけなくていいの?」

「問題ない。あれはタイマーテントと言ってな、設営から半日経つと自動的に消滅するんだ。使用前はハンカチぐらいの大きさだから携帯しやすいんだよ」

「そんなアイテムがあるのか……知らなかった」

「値は張るが便利だぞ。かさばらないし一つは持っておいたほうがいいかもな」


 ラックの持ち物は魔物対策用の粉一式と短剣のみであり、他は全て現地調達。エリーも似たようなもので杖以外は持っていない。

 ピネスの言うとおりかもしれない、とラックは考える。自分はともかく、エリーに負担をかけさせるのは心苦しい。


「着いたぞ、ここがプレジャータウンだ」


 数十分かけて到着した『プレジャータウン』は縦長の街であり、西側が住宅街、東側が商店街に分かれている。カーナイよりも広く活気に満ちていた。


「用事があるから私はここでお別れだ。教会は東側のすぐ手前にある、まずはそこに行って治療をしてもらうといい。……またいつか会えるといいな、ラック、エリー」

「わかった、なにからなにまでありがとうピネスっ」

「ピネスさん、ばいばい!」


 手を小さく上げ、ピネスは去っていく。


「やさしくてクールな人だったねっ」

「旅慣れてそうだったし、もっといろいろ聞いておけばよかったかなあ」

「旅してればきっとまた会えるわよ。さ、早く教会に行きましょっ」


 まずは毒の治療が最優先。

 石畳の道を歩き、二人は教会へ向かった。

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