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06_メリーメー

 現在、メリーメーに乗ってマヨウ森へ移動中。

 街道には基本的に魔気が発生していないので、よほど道を外れなければ魔物に襲われることはない。


「うーん、風が気持ちいーねー!」

「風はいいけど結構揺れるな……」


 メリーメーの見た目は大きな羊そのものだが、動物の羊とは違い魔力を持つため、魔物に分類されている。

 人間に友好的かつ献身的で、上にまたがれば時速十五キロで進んでくれる。進行方向を変えたいときは、角をハンドルのように操作すれば曲がることが可能だ。

 ふわっとした綿毛がとても乗り心地良く、ついつい全身を委ねてもふもふしながら進む利用者も少なくない。

 エリーも存分にメリーメーのふかふかっぷりを堪能していた。


「それにしてもラックは人気者なのねっ。ちょっとびっくりしちゃった」

「結構この街で暇してたからな。みんなといる時間が長いおかげで仲良くなれたんだよ」


 パーティを組めず、雑用に近い依頼内容をこなす日々。その時間で得たものは、住人達の信頼と好感度だ。

 旅人である以上、一期一会は避けられない。

 だからこそ、少しでも誰かの記憶に残ってくれれば嬉しいと思うラックだった。


「さて……どこまで進めるかな」


 メリーメーに揺られながら、ラックは地図を眺める。

 メリーメーは進む毎に体毛が徐々に抜けていき、産毛ぐらいになると活動を停止する。野生であれば毛が生えるまで待つ必要があるが、レンタル用に改良されているので貸し出した場所まで魔力によって勝手に瞬間移動する。

 なのでこのメリーメーは、片道切符で時間制限のあるもの。マヨウ森までは無理だとしても、手前の村まではギリギリ辿り着けない感じだ。


「マヨウ森……魔族が作った森、か」


 人間よりも長く生き、人間よりも上質な魔力を持ち、そして人間とは敵対関係にあたる種族――それが魔族。

 魔王が存在していた頃は、その対立は激化していたという。

 魔族との直接的な関わりがないラックには、魔族がどんな姿なのかもわからない。

 魔族、変異種、ステラピース。この世界にはまだまだラックの知らないものが多い。

 うずうずする。

 わくわくする。

 ドキドキする。

 この先、どんな冒険が待ち受けているのだろう。


「うえー……気持ち悪い……」


 待ち受けていたのは乗り物酔いだった。

 力なくメリーメーの体毛に埋まるラック。いつ彼の口からなにかが出てしまわないかと、メリーメーは心穏やかでなかった。


「ラックだいじょーぶ? 少し止まって休みましょ?」

「へーきへーき……ちょっとこのままでいるからメリーメーが止まったら起こして」


 もはや起き上がる気力はなく、メリーメーに全てを委ねていく。メリーメーの責任は重い。

 ラックは後悔する。

 乗りながら地図見るんじゃなかったなあ。


 メリーメーの稼働が止まったのは三時間後。

 その間ラックは必死に耐え、無事メリーメーを汚さずに済んだ。メリーメーも心なしか安堵の表情をしている。

 あれだけ膨らんでいたメリーメーの体毛はすっかりなくなり、触るともちっとしている。

 役目を果たしたメリーメーが消えていく。エリーは両手を振って別れの挨拶を述べた。


「ありがとーメリオにメリコ! またいつかもふもふさせてねーっ!」

「名前付けてたのか……」


 ラックが乗っていたのがメリオである。

 ともあれ三時間ぶりに地に足をつける二人。ラックは若干ふらついており、咄嗟にエリーが支えている。


「ラック、まだ酔ってるんじゃない? そこの木陰でちょっと休んだほうがいいわ」

「……ごめん、少しだけ横になるよ」


 エリーの言葉に甘え、木陰に移動する。


「ほら、水飲んで」


 水を流し込み、ゆっくりと横になろうとする。芝なら多少は柔らかいだろう。

 と思いきや、エリーが無理やり膝枕にさせた。


「あの、エリーさん?」

「ほら、休んで休んでっ」

「はい」


 メリーメーとはまた違うむにっとした太ももの感触。

 気のせいか、出会ってまだ一日も経ってないのに密着回数が多い気がする。エリーの距離感がおかしいのかはたまた。

 しかしいまは抵抗する気力はない。頭をさすられながら少し眠るラック。

 やがて目を覚ますと、上から寝息が聴こえてくる。どうやらエリーもつられて眠っていたようだ。


「エリー、そろそろ行こう」


 体を起こしてエリーも起こす。どれくらい休憩してたかわからないが、おかげで調子は良い。

 ここからは徒歩で進むことになる。二人はパンを頬張りながら歩き出した。

 今日中にはマヨウ森には着く見込みだが、おそらく夜中になるだろう。


「どうしようかな。夜に森入るのも危なそうだし、近くの村に泊まって明日にする?」


 迷ったときのリスクも考えると、早朝に森へ入るのがいいかもしれない。

 ところがエリーは首を横に振る。


「ううん、今日行っちゃおっ。夜なら魔法使えるから、むしろ昼より安全だと思うの」


 よくよく考えれば確かにそうかもしれない。彼女の星魔法が有るか無いかで戦力がだいぶ変わる。


「じゃあそうしようか、頼りにしてるよエリー」

「見ててね! 役に立つってとこちゃんと見せちゃうんだからっ」


 気合充分のエリー。足手まといにならないよう、ラックも気を引き締める。

 歩き続けていくうちに辺りは暗くなり、夜になる頃にはマヨウ森に到着した。

 青に近い緑色の木々。葉っぱ一枚ずつに魔力があるのか薄く青光りし、神秘的な雰囲気を漂わせている。

 夜中にも関わらず、この森だけ妙に明るい。


「きれーだねっ」

「よし、早速入ってみよう」


 外観に惑わされてはいけない。ラックは短剣を抜き、マヨウ森の中へと入った。

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