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04_星魔法

「いやまさか坊ちゃん達が変異種を倒すなんて、びっくりしちまったよ」


 酒場にて、ラックとエリーは依頼報酬を貰いに来ていた。

 変異種は、倒すと必ずアイテムをドロップする。『紫爆しばくの花びら』は変異種ボムフラワーを倒した証だ。


「ほら、報酬の5000リーンだ」

「え、そんなにくれんの!?」

「詳細聞かなかったろ坊ちゃん。あの依頼にはそんぐらいの価値があったんだよ」


 この世界の通貨単位であるリーン。5000リーンもあれば十日間は宿屋で三食昼寝付きを堪能できる。


「しかしよく倒せたな。坊ちゃんも意外とやるじゃねえかよ」

「あはは……どうも」


 本当はすぐ後ろにいる青髪の少女エリーが倒したのだが、口止めされているので自分の手柄にするしかない。複雑な心境だ。


「それにしても、どうしてあんな所に変異種がいたんだろ?」

「噂では魔族が街を襲わせるために仕向けたみたいだぜ、まったく、魔王が封印されてもまだ魔族の生き残りがいるなんて冗談じゃないよな」

「魔族……」


 酒場の店主は文句を垂れながらも報酬を渡す。

 かつて、魔物と魔族の頂点である魔王が猛威を振るっていた。魔王は人間を滅ぼそうとする邪悪な存在であったが、十年以上前にとあるパーティにより封印されている。

 おかげで世界に平和が訪れたはずだが、いまでも地域によっては魔族との戦いが繰り広げられているらしい。

 依頼のやり取りを終えると、店主はにやにやしながら聞いてくる。


「で、坊ちゃん。そのかわいい嬢ちゃんはもしかして新しくできた仲間かい? それとも坊ちゃんの彼女か?」

「はい、そうです彼女ですっ」

「新しい仲間のエリーだよ。ところでこの周辺の地図って借りれるかな? こことニンバ地方が載ってる地図」

「はいはいちょっと待ってな」


 どちらの答えが正解か問い詰めたい衝動を抑え、店主はご希望どおりの地図を持ってくる。


「これなら隣接してる地方も載ってるぜ。坊ちゃん、いよいよこの街を出るのかい?」

「ああ、明日には出るつもりだよ」

「そうかあ……それじゃあその地図は坊ちゃんにやるよ」

「いいの? いろいろありがとうおじさん! また明日挨拶に来るよっ」


 地図を入手し、二人は宿屋に向かう。


「内緒にしてくれてありがとね、ラック」

「別にいいよ。でもびっくりしたな、エリーがあんなに強い魔法使えるなんてさ」

「黙っててごめんね……でも星魔法を使えるのは夜だけだから」


 星魔法。

 星の魔力を使用した、高威力広範囲の魔法が売りとなる大魔法。それだけでなく強化や弱体、無効化といったたくさんの種類を取り揃えている。

 魔力消費も含め使用難度はかなり高く、見様見真似では使えない。よって使用者は数えるほどしか存在せず、エリーは攻撃系のみを覚えている。

 星から魔力を供給するため、エリーは自身の魔力を消費しない。魔力が少なくても驚異的な威力となるのだが、欠点はただ一つ。


「星が見えないと使えないから、朝や昼はダメなんだな」

「ざっくり言うとね。わたし自身はほとんど魔力がないから他の魔法は使えないの」

「でも夜は最強ってことだろ? すごいじゃん! エリーは役立たずなんかじゃないよ」

「……えへへ、そんなこと言われたの初めてっ」


 事実、夜であればエリーは大きな戦力だ。ラックの中ではすでに彼女のほうが強いと格付けしている。

 宿代を払って二部屋確保し、ラックの部屋で地図を広げる二人。


「カイデル山にステラピースを持ってる魔物がいるんだっけ?」

「うん、変異種が偶然拾って大事に持ってるらしいの。あいつらの友達のパーティ内の戦士の弟が言ってたんだって」

「ややこしいうえにうさんくさいな……ええとニンバ地方はっと」


 ここカーナイはヒトツメ地方にあり、北側にニンバ地方が隣接している。

 そのニンバ地方にカイデル山があるのだが、地図を見る限りここからかなり離れている。


「まずニンバ地方が遠いなあ。途中で街や村があるし、休みながら行くとしたら数日はかかりそうかな」

「途中で遠回りしちゃうもんね」


 道中にそびえ立つ山脈があるため、大きく回り込むように進む必要がある。この迂回さえなければもっと早く辿り着けるはずだ。

 よくよく見ると、山脈の間に挟まれるように森が存在しているのに気づく。


「この森、一直線でニンバ地方に繋がってるけどここから行けるのかな」

「あ、その森知ってる。あいつらが言ってたわ」

「へえー、どんな森?」

「マヨウ森って言ってね、魔族が作った森なんだって」

「魔族が? そう、なんだ……」


 さっき店主がこぼしたときもそうだが、魔族という言葉にラックは一瞬だけ表情を変える。エリーは地図に夢中で気づいていない。


「うん、魔物もたくさん出るし、入る度に道が違うから必ず迷うことで有名らしいわ。だから別名迷いの森とも呼ばれてるの」

「別にする必要あった?」


 どれくらい迷うかはわからないが、上手くいけばかなりの時間短縮になるかもしれない。


「よし、このマヨウ森を通ってニンバ地方に行こう」

「森に入るの? 危ないかもしれないわよ?」

「そうだけど、早くしないと他の奴らにステラピースを取られるかもしれないだろ? それにこっちの方が冒険らしくていいと思うんだ」


 エリーへの気遣い半分、冒険心半分の正直な意見。

 エリーは大いに喜んだ。


「わたしのためを想ってくれるなんてすごくすっごく嬉しい! ラックの言ったとおりにしましょっ!」


 あくまでも半分であるのに、エリーには十割だと思われている。


「じゃあ明日この街を出発しようか。今日はもうゆっくり休もうぜ」

「うんっ! 今日はほんとにほんっとーにありがとねラック! おやすみなさいっ」

「ああ、おやすみー」


 浮かれ気分で別部屋に向かうエリー。少し前まで魔物に襲われていたのが嘘のようだ。


「……俺もそろそろ寝るか、その前に体洗ってこよ」


 いつもより少し早い就寝時間だが、明日からの冒険が楽しみで仕方がないラックだった。

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