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27_ラックVSレト①

 時間は少しさかのぼり、舞台は塔の外。

 どちらが先に動くか、ラックとレトは警戒している。

 ラックは胸ポケットや腰につけた鞄をちらりと見る。短剣以外にも持参している物はいくつかある。使えない物もあるかもしれないが構わない。

 やれることはなんだってやる。自分のスキルを活かして、勝つのみだった。


「まだ魔法は使わねえから安心しろよ、まずはお前の力量を計ってやる」


 人間ごときに負けるわけがないというレトの自信が、少しだけラックを安心させる。

 余裕を見せている序盤こそが、最大の狙い目。

 ラックは走った。


「だったら遠慮なくいくぞ、レト!」


 まず上着のポケットに詰めてある砂を握り、間を置かずにレトに振りまく。

 てっきり短剣で攻めてくると思ったレトはいきなりの砂かけに反応できず、両目に砂がかかった。


「お前……卑怯だろ……」


 レトは咳き込んだ。もろに顔面に直撃しているので口や鼻にも入っている。

 ところがこれは卑怯でもなんでもない、小賢しくてもラックにとっての戦術だった。

 この砂かけも、ラックのスキルによってダメージが有効となる。一粒一粒に1ダメージがあるとすれば、一握りの砂は数千どころか数万以上の破格ダメージ……とはいかず、実際にはまとめて1ダメージしか与えられていない。

 スキル『オビット』は、同時による攻撃は1ダメージとして数えられる。

 例えば両手それぞれ同じタイミングでパンチしたとすれば、右手と左手合わせて2ダメージにはならず、一つの攻撃として数えられて1ダメージになってしまう。

 よって、多量の砂をかけても、同時攻撃としてひと塊にまとめられたため1ダメージのままだ。砂弾銃のように間隔を空けて連射するのであれば、ダメージは継続する。

 その仕様をラック自身はよくわかっていないが、さすがにこれでは倒せないかと察する。

 ともかく初手のかく乱は成功した。レトが立て直すまでに接近し、攻め続けた。

 ラックは己の拳でレトをひたすら殴りまくる。腹、みぞおち、胸、肩、顔、とにかく所構わずパンチ連打。ときには蹴りも入れ、手数足数を稼ぎまくる。

 本当は指で突きまくればもっと速いのだが、突き指でもしてこっちが怪我してしまえば元も子もないのでしていない。


「…………」


 ラックが殴打を続ける間、レトの目はとっくに回復していた。

 いつでも反撃できる状態にも関わらず、ラックの攻撃に違和感があり様子を見ている。

 殴られた衝撃はあるのに、痛みを全く感じない。ラックが非力すぎるのかと疑うも、ここまで痛くないと別の理由があると考えるレト。

 もしもこの攻撃が、後の布石に繋がっているとするのなら。


「そこまでにしろや、人間」


 レトの膝が、ラックの腹部にめりこむ。

 ラックがひるむ間に、魔法使いと同じ要領でレトは剣を取り出した。

 白く細く、薄い刀身が風を切ってラックを襲う。一振り目は思いきりのけぞることでかわし、二振り目からはラックも短剣で応酬。鍔迫り合いにはならず、お互いに剣をはじきながら一進一退を繰り広げている。

 何回か剣を交えて、ラックは二つ気づく。

 レトの剣はとても軽く、力任せには対抗してこない。鍔迫り合いが起きないのも、レトが受け流すようにして剣を振り回しているからだ。

 二つ目は、剣さばきなら自分が上だということ。


「これなら、どうだ!」


 ラックは短剣を勢いよく振り上げ、意図的にレトの剣にぶつける。衝撃で剣を持つ手も上にあがり、レトの体ががら空きとなる結果になった。

 すかさず短剣でレトに斬りかかる。これまた斬られているという感覚はあるも、斬り傷はついていない。

 あまりにも不気味な現象に、レトは苛立ちさえも覚える。


「くそったれ、なんなんだよお前は!」


 容赦などいらない。今度は砂ではなく、手持ちの痺れ粉、毒の粉、眠り粉全てをレトにまき散らした。

 いったん退いてレトの様子を見てみる。

 魔物用に作られた粉で、人間及び魔族相手には試していないがはたして効果のほどは。


「なめんなよ人間、こんなのが効くのは魔物ぐらいなもんだ」

「やっぱダメか……」


 効き目なし。人間や魔族には無害な成分だった。

 気持ちを切り替え、今度は地面に落ちている小石を拾うラック。


「まさかお前……!?」


 そのまさかである。

 拾えるだけ拾って小石をレトに投げまくった。


「くそ、てめえその剣は使わねえのか!? こんなせこい戦い方でいいのかよ!」

「これが俺の戦い方だ! お前に勝つためならなんだってするさ!」


 なりふり構わない戦法で、レトに与えたダメージはすでに100前後。ラックにとってかなり早いペースだ。

 ただ一つ気がかりなのは、レトの体力が数値で表すのであればどれぐらいかということ。こうして魔物以外とまともに戦うのは初めてだから、検討もつかなかった。


「……よくわかんねえけどお前なりの本気ってやつか。ならしかたねえ、オレも本気で戦ってやるよ、人間!」


 レトの左手がラックに向けられる。

 あの仕草は突風の合図だと、何度も受けているラックはさすがに学習していた。

 手のひらから一直線に風が射出されるのであれば、動き回れば簡単に避けられる。ラックは素早く回り込もうとするも。


「なめんじゃねえよ、これなら避けらんねえだろ!」


 レトの剣はいつのまにか消えており、両手を交差してラックに風を放つ。

 回避できたと思いきや、予想よりも範囲の広い大風が吹いてラックは数メートルも後ろへ飛ばされた。

 幸い地面は土であり、背中を打ってもまだすぐに起き上がれる。


「いてて……両手だともっと強くなるのか。にしても便利だなあ魔法、あの剣も……」


 再びレトの片手には剣が握られている。手元にしか出せなくとも異次元に収納可能なのはうらやましい。

 体勢をいったん整えて、ラックは分析する。

 レトは手から風の魔法を出せる。

 そうなると、魔力で取り出せるあの剣にも別の仕掛けがあるかもしれない。


「なにじろじろ見てんだ? さっきの勢いはどうしたよ」


 片手で風を放たれ、一定の距離をとられてしまう。走りながら石を投げても命中率は低いうえ、風のせいでまともに当たらない。砂なんてもってのほかだ。


「できればずっと油断しててほしかったのに……な!」


 攻める以外の手はない。ラックはまた駆け回った。

 片手の風には当たらないようにして、両手で大風を出してきたら地べたをはってでも飛ばされないようしがみつく。

 そうして風をうまくかいくぐって、少しずつ距離は縮めていけば。

 接近戦ならこっちに分があるはずと、ラックは踏んでいた。


「もう近づかせねえ、切りきざんでやるよ!」


 しばらくお飾りだった剣を出し、レトが真横に空振りさせると。

 空気を波打つかのように細い風が鋭く伸びていき、勢いを絶やさないまま風はラックの肩に命中した。

 刃物で切られた音とともに、装備しているゴムテクターに切れ目が生じている。


「やっぱりただの剣なわけないか……あれも魔法なのか?」

「まあそんなもんだ。魔力を込めて振ればその方向に風の刃を出せる。切れ味は見てのとおり、近づかなくても充分お前を仕留められるんだよ!!」


 レトが剣を振った数だけ、刃と化した風が飛んでいく。命中率はともかく速度はいままでの比ではない。

 気づいた頃には、ラックの防具と体に傷が次々とできている。

 ダメージを与えるどころかラックは近づくことすら適わず、一方的な展開になりつつあった。

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