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25_再開

 ラックがトランポリルジャンプに乗るより少し前。

 塔の最上階一室にて。


「や、やっぱり恥ずかしいよこれ……少し寒いし」

「そんなことないわ、エリーちゃんかわいーしスタイルいいんだからこれぐらい露出してなきゃもったいないよー」


 捕らわれの姫らしくおとなしくしているかと思いきや、エリーはマーヤによる着せ替え人形と化していた。

 いままでの青いローブを脱ぎ捨て、胸元が開いた派手な服に大変身。スカートの丈も短く、初めて着る大胆な衣装にエリーは恥ずかしがっている。


「これならどんな男もイチコロだよー、あのローブも機能性はいいけど控えめだからねー」

「別に、ラック以外に見せたくないもん」

「もーそんなこと言わないでー。ほら次はこれ着よこれっ」


 新たな衣装を勧められ、満更でもなく受け取るエリー。

 何気ない女の子同士のやりとりが、エリーは新鮮で嬉しかった。


「……なんか声が聴こえない?」


 着替える直前、外から悲鳴のようなものが聴こえてきたので窓を見ると、見慣れた少年の姿が瞬間的に映った気がする。

 続いて、二回目の悲鳴にしてエリーは気づく。


「もしかして……ラック!?」

「ええーまさかー……」


 そのまさかだ。

 窓枠をつかみ、ラックは今度こそ落ちずに根性で部屋に入った。


「……ああ死ぬかと思った!」


 手は痛いしまだ動悸が治まらないが、やがて落ち着いて顔を上げると。


「…………エリー! エリー!?」


 数時間ぶりのエリーに会えた喜びと、いつもと違う大胆な服装に困惑中。目のやり場に大変よろしくない。


「ラック! どうしてここにっていうかどうやってきたの!?」

「なんだよその格好! なんなんだよその格好!!」

「あなたが噂のラックくん? 随分ハチャメチャだねー!」

「おいマーヤ、ウォルスがやられたみたいだ! 人間どもが攻めてきやがった!」


 レトまで参戦してますます収束がつかない事態に。

 この騒ぎを最初に収めたのはレトだった。ラックの姿に顔を歪めている。


「お前、あのときの人間……なにしにきやがった」

「エリーを迎えにきたんだ! レト、お前の好きにはさせない!」


 臆せず、真正面からラックは言い返す。

 もう、迷わない。


「おい人間、この女が魔族だってわかって言ってんのか? お前の敵だぞ!?」

「そんなのどうだっていい。エリーは俺の……大切な友達だから! 俺はエリーと一緒に旅がしたいんだ!!」


 その言葉にエリーは面食らう。


「ラック……わたしのこと、嫌いになってないの? 見捨てたんじゃないの?」

「そんなわけないだろ、俺にはエリーが必要なんだ。だからさ……また俺と旅をしようよ」


 そうしてラックが笑うと、エリーは。

 エリーも、笑った。


「…………うんっ! わたしもラックと一緒がいい!!」


 二人の想いは一致した。


「おいマーヤ、エリースターを連れていけ。こいつはオレが相手する」

「まーしょーがないよねー。ごめんねエリーちゃん、感動の再開もそこまでにしよーか」


 マーヤがエリーを力づくで部屋の外に連れていこうとする。振り払おうと思えばできるエリーだが、マーヤに手荒なことはしたくなかった。


「エリー! 待って、エリーを離してくれ!」


 ラックの叫びに、安心してと諭すようにエリーが応える。


「ラック……わたしは大丈夫だから、遠慮なくそいつをボコボコにしちゃってっ!」

「え、う、うんわかった。終わったらすぐに行くからな!」


 強気にピースサインを作り、エリーはマーヤと共に部屋を出た。

 残ったレトとラックは、睨み合うように対峙する。


「ウォルスを倒したのもお前とお前の仲間ってわけか、おもしれえ」

「よくもエリーにこんなところで酷いことを……」


 されているふうに見えない。

 派手だが奇麗な部屋。堪能したであろう数々のぬいぐるみに散らばったお洒落な衣装。食事の後も見受けられる。


「なんか、エリーがいろいろお世話になったようで……」

「オレはなにもしてねえ。全部あの茶髪、マーヤがやっただけだ」

「そうなんだ……ちなみにここはレトの部屋なのか?」

「んなわけねえだろふざけんな! ここはマーヤの部屋だ人間が!」


 エリーに続き、ラックにも誤解されるレトであった。


「なあ、その人間って呼び方やめてくれよ、俺の名前はラックっていうんだからさ」

「……お前の名前なんざどうでもいい。それより人間、単身でここに乗り込んできたってことは、はなっからオレとサシで戦うつもりだったんだろ?」

「そうだ。お前を倒してエリーを連れ戻す。あと、これ以上この塔を使って魔気を広げるのをやめてもらうぞ」


 ラックにとっての最大の目的は、エリーの奪還。

 だけど塔の事情も忘れてはいない。


「魔気を? ……なるほどな、この塔を少しは知ってるみてえだなあ。だったらよ……」


 レトは不敵に笑い、片手を前に向ける。


「オレに勝てばエリースターは返してやるよ、人間!」


 突風。

 しかしラックは踏ん張って二、三歩しか下がらない。あのときの不意打ちとは違い、くるとわかっていれば相応に身構えることができる。

 とはいえレトも挨拶代わりのようなもの。まだ半分の力も出していない。

 再び、二人は黙ったまま動かない。どちらがこの生活感あふれる女子力全開ピンク色の部屋で先に仕掛けるか――


「場所を変えない?」

「奇遇だな、オレもそう思ってたところだ」


 戦うには文字通り場違いであった。


「人間、いまは抵抗するなよ。力を抜け」

「……? わかったけどなにするつもりなんだああ!?」


 言いかけている途中でレトが素早く前進し、ラックの腹に手を押し出す。

 ラックは流されるまま、風によって勢いよく窓の外へ吹き飛んだ。


「え、ちょ、またああああああ!?」


 再び叫びながら落ちていく。地面にはもうトランポリルジャンプも受け止めてくれる人もいない。

 まさかこんな形で幕引きだなんてと、ラックは死を予期しかけるも。

 地面にぶつかる直前にふわっと浮き、軽く尻もちをつくだけで済んだ。


「生きてる……なんで助けてくれたんだ? そのまま落とせば俺を殺せたのに」

「あ? 場所を変えるだけなのに殺すわけねえだろ。それにお前、本当に無抵抗だったじゃねえか。そんな奴に卑怯な真似はしねえよ」


 なんだか意外だった。もっと狡猾で残虐なのかと思いきや、正々堂々と戦うつもりだ。


「あと、この戦いで殺しはしねえから安心しろ。殺しちまったらエリースターがなにしでかすかわかんねえからな」


 あくまでも、ラックにエリーを諦めさせるためだけが目的。

 その心意気に、ラックはつい「ありがとう」と感謝を告げた。


「レトって良い奴なんだな。いろいろ誤解してたよ」

「ああ!? 気色悪いこと言ってんじゃねえ人間! これから戦うってんだぞ」

「わかってるさ。お前を倒してエリーと旅を続けるんだ。絶対に邪魔はさせない!」


 星の見えない青い空のもとで、ラックとレトの一騎打ちが始まる。

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