20_決断
「……ラック、少し休むか? もうすぐで最後になるが」
明らかに具合が悪そうなラックを見てか、ピネスは気遣うも。
ラックは頬を叩いてお茶を一気飲みすると、盛大にむせた。
「おい、大丈夫か?」
「…………うん、だいじょーぶ、ありがとう……話を続けてくれないか」
おかげですっきりした。いまは感傷に浸る場合ではないと気持ちを切り替える。
優先すべきなのは、エリーだ。
ピネスは本を閉じ、ラックの要望に応える。
「わかった。では話すが、この件についてはあまり知れ渡っていない。おそらくサニースターがあの子を守るため、意図的に隠していたと思うが……」
「あの子……じゃあ、やっぱり」
憶測は当たっている。
エリースターは、星の魔女サニースターの。
「サニースターには子どもがいたらしい。子どもに関しては私もここ数日まではなんの情報もなかったが……きっと、いや間違いないだろう。星魔法の使い手は限られている、いずれも名のある魔族ばかりだ。それ以外で使える者がいるとするならば、もう一人しかいない」
一呼吸おいて、ピネスははっきりと告げた。
「星の魔女サニースターの娘は、きみがよく知っているエリーだ。さらった奴がエリーを星の魔女と呼んだのは、おそらくそれ繋がりだろう。いわば現代版星の魔女というものだな」
それは星の巡り合わせか、はたまた運命か。
ラックなりに答え合わせをしてみる。
エリーがずっと隠していたのはなぜか?
魔族だとバレたら仲間でいられなくなると恐れたからだ。
星魔法も星の魔女も知らないラックと出会ったのは、エリーにとって天恵だったに違いない。魔族の知識だけはほんの少しあったからこそ彼女は黙っていた。本当は星魔法も隠していたかったが、ラックやピネスを守るために使わざるをえなかった。
大方そんな感じだろうと納得するラック。
ただ、まだ一つだけ疑問が残っている。
「エリーの母親がサニースターなら、父親はもちろん彼女の愛する人だろ? じゃあエリーは完全に魔族ってわけじゃないんだよな?」
「そうなるな、エリーは人間と魔族両方の混血種だ」
「そっか、だからピネスはあんな質問をしたのか……」
エリーはただの人間じゃない。
魔族の血が混じった人間であり、逆もまた然りだ。
「魔族でもあり人間でもあるからこそ、余計にエリーは悩んでいたはずだ。いつかは本当の自分を知ってほしい、かといって真実を伝えてラックに嫌われたらどうしようとかな」
そういえば「魔族は嫌いか」とエリーに聞かれたことがあった。
あのときエリーはどんな気持ちでいたのか、ラックはいまならわかる気がする。
魔族と出会い魔族を知ったいまでも、ラックの答えは。
「以上が私の知っている情報だ。エリーは我々人間の味方でもあり敵でもある。そして魔族にとっても敵にも味方にもなりえる存在。最終的に選ぶのはエリーだが、きみはどうする?」
最後に投げられた問い。
考えるまでもなかった。
「エリーを助けにいくさっ。魔族とか人間とかどうでもいい、俺の大切な仲間だから、エリーだから助けるんだ!」
初めからわかっていた。種族なんて関係なく、きっと仲良くなれるはずだと。
答えはとっくに出ていたのだ。
「その答えが聞けてよかった。ゼカの塔には元々用事があるし、エリーを助けたいのは私も同じだ。我々のギルドもぜひ協力させてほしい」
願ってもない、ラックは二つ返事で快諾する。
「もちろん! ありがとう、頼もしいよ!」
二人は握手を交わす。
一時的に魔族調査ギルド『マギア』の面々が仲間になった。
「結構長く話し込んじゃったけど、外のみんなはどうしてるかな?」
「出発の準備をしているはずだ。気が利く連中だ、きみともきっと仲良くなれる」
「そうだと嬉しいけどさ、酒場のじいちゃんは早く戻したほうがいいんじゃない?」
「…………もちろん、忘れてたわけではない。外に出るか」
長らく追い出されてしょんぼりしている酒場の店主に、二人はすぐに謝るのであった。
「ピネス、ゼカの塔に行く前に少しだけ買い物していいかな?」
「構わないがなにを買うんだ?」
「……ちょっとね」
今度こそエリーを守るために、ラックは動く。
エリー救出作戦、開始。