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12_カイデル山

 夜の時間帯になり、舞台はカイデル山へ。丸い月が二人を照らしている。

 ラックの調子はすっかり元通りとなり、二人とも万全の状態で山登りを始めた。

 舗装されていない道は草木で生い茂り、安定しないところも多い。迂闊に動けば転びそうだ。


「エリー、足元には気をつけて」

「大丈夫よ、これで山道も安心なのっ」


 青い杖で体をしっかりと支えているエリー。ある意味正しい使い方だ。


「便利だなあそれ。俺も登山用に杖でも買えばよかったかな」

「ラックの短剣で杖替わりにならない?」

「短いから届かないな」


 無理だとわかっていてもラックは試している。


「長い剣にすればなんとかなったかしら」

「そもそも剣じゃいちいち刺して抜いてだから逆に不安定かもしれないかな」

「うーん、じゃあ剣先が平らな剣とか探せばよかったわね」

「もはや剣じゃないなそれは」


 剣を杖替わりにする件に関して、真剣に議論する二人。

 水を差すように魔物が挟み撃ちで現れた。

 基本種『コウルフ』が後ろに二匹、正面に一匹。小さい狼のような姿であり、獰猛で視界に入った者に飛びかかる。


「戦闘開始だエリー! 後ろの魔物は頼む!」

「任せて! 倒したわ!」

「え、はや!?」


 星の魔力が込められた球体、スターショットがあっさり二匹のコウルフを撃破。

 まだこちらは攻撃すらしていない。正面の魔物もエリーに任せれば秒で溶けるだろう。

 だけどラックは、あえて任せなかった。


「エリー、こいつは俺が倒すから待っていてくれ!」

「え、わたしまだまだ魔法使えるよ!?」

「俺にやらせてほしいんだ。俺だって戦えることを見せなきゃ!」


 いつまでもエリーに頼ってばっかではいられない。いまこそ男気を見せるときだ。


「……わかったわ、がんばってラックっ!」


 そうして始まったラック対コウルフ。

 先手はコウルフで大きく跳ねて飛びかかるが、咄嗟に短剣で防いだ。

 コウルフが仰け反るとラックは前進し、短剣を素早く振り下ろす。まずは一回。

 続けてコウルフが体勢を整えるまで何度も斬り、合計で六回分のダメージを与えることに成功。

 いまの流れで6ダメージを与えた。コウルフの体力がどれほどかわからないが、ラックはこれを繰り返さなければならない。

 これがスキル『オビット』の影響だ。

 当然、相手がラックに与えるダメージは1というわけではなく、急所に当たればこっちは怪我するし、血も出れば骨も折れる。

 相手の攻撃は極力受けず、手数でダメージを稼いでいく。

 それがラックの戦い方だ。


「よし、このまま攻める……ってうわっ!」


 でこぼこの地面につまづき、ラックはよろける。エリーに注意した手前これは恥ずかしい。

 更にタイミング悪くコウルフが飛びかかるときだった。回避も防御もできず、コウルフの牙がラックの肩に噛みつくが。


「いた……くない? いいねゴムテクター!」


 防具が役立つ瞬間にラックは心躍る。これなら多少の無茶はいけそうだ。

 噛んだコウルフを振り払い、しっかりと反撃をとる。今度の合計ダメージは7だ。

 そんな一進一退の攻防を、エリーはハラハラしながら見守っている。


「ラック、負けないで! やっちゃえーっ」


 強まる魔力。もしラックになにかあれば、コウルフを瞬殺する気概でいるエリーであった。

 戦ってから一分以上が経過し、ラックが七十回目の攻撃を当てたとき。

 小さな唸り声とともにコウルフは消滅。無事ラックの勝利だ。


「やった、おつかれさまラック!」


 エリーは喜んでいるが、ラックはそうもいられない。

 たった一匹でそこまで強くもない魔物相手に、時間がかかりすぎている。


「ごめん、やっぱり魔物はエリーにお願いしてもいいかな? 俺は盾役としてサポートするからさ」

「うん、任せてっ。マヨウ森じゃ全然役に立たなかったけど、今度こそ最後まで働くんだから!」

「なに言ってんだよ。森でもエリーは大活躍だったろ」


 しかしエリーは大袈裟に頭を振る。


「だって、途中で雨が降って魔法が使えなくなったもの。そのせいでラックを危険な目に遭わせちゃって……いまさらだけど、本当にごめんね」


 雨が降るのは予想していないアクシデントだし仕方ない。

 頭を下げるエリーに、ラックはぽんと手を当てた。


「そんなこと気にすんなよ! 仲間を守って戦うのが戦士の役目なんだからさ。それに俺はエリーの魔法でたくさん助かってるんだよ。だからもう役に立つとか立たないとか言うの止めよう。足りないところを補うのが仲間だろ?」

「ラック……ありがとう! じゃあじゃあわたし、魔法使いとしてガンガン魔物をやっつけるね! ラックが楽できるくらい張り切っちゃうんだからっ」

「ああ、その調子だよ」


 落ち込むのも立ち直るのも早いエリーは見ていて飽きない。今日と明日は雨が降らないと事前に情報を仕入れているので、もう怖いものなしだ。

 ラックは、自分が強いとは決して思っていない。どちらかと言えば役に立っていないのは自分のほうだ。

 さっきだってエリーの手を煩わせないようソロで戦ってみたが、下級の魔物を倒すだけでも一苦労だった。

 戦士として仲間として、エリーを余裕で守れるくらい強くなりたい。

 ラックが掲げるいまの目標だった。

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