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01_ラック

 並の戦士なら、最弱モンスターと名高いスライムを一撃で倒すのは容易である。

 仮に五回も攻撃を当てないと倒せないのであれば、最弱の戦士と見なされるだろう。


 旅に出てから一週間、ラックという少年は今日もパーティ加入を断られていた。

 年相応ではあるがまだ幼さが抜けきれていない容姿。腰に携えた鞄と短剣があっても、戦士はおろか冒険者とはわかりにくい。薄い金色の短髪は地毛であるが、そのせいで少し生意気そうに見えてしまう。

 出会った人がだいたい抱くラックの第一印象は、とても弱そう。


「荷物持ちとかでもいいんだけど、それでもダメかな?」


 そんな自分の立場を理解しているラックは限りなく低姿勢で交渉するも、相手パーティの代表格であるキザな戦士はため息をついて返した。


「悪いけど荷物持ちはもう間に合っていてね。これ以上はもういらないよ」


 一瞬、ラックと目が合ったのは、パーティメンバーの最奥にいる青髪の少女。その子はリュックやら鞄やらと多くの荷物を持っている。

 女の子一人では重たそうなので男手が必要なのではと思うが、キザな戦士が露骨に不機嫌な顔をしているのでこれ以上の交渉は無理だろう。

 そう判断したラックは愛想笑いをし、小さく手を振った。


「……わかった諦めるよ。冒険がんばってな」

「きみも精々ソロでがんばりたまえ。次会うときはスライムごとき一撃で倒せるようになるんだなっ」


 高笑いしながら去っていくキザな戦士御一行。他の面子はラックなど見向きもしないが、最後尾にいる青髪の少女だけが小さな会釈をしてくれた。

 結局、一人旅の継続だ。


「あーあやっぱダメか。まあしゃーないよなー」


 独り言のように呟く。

 数多のパーティに何度断られただろう。最初の頃はへこんでいたが、いまではもう慣れっこである。落ち込むことすら面倒だ。

 自分が弱いという事実は、誰よりも彼自身が知っている。そんな自分を拾ってくれるなど夢のまた夢なのだから。

 だけどやっぱり、複数人での冒険には少なからず憧れる。

 もう夕暮れ時ではあるが宿屋に戻らず、なにか自分でも達成できる依頼はないかとラックは酒場へ向かった。


 街の依頼は主に酒場がまとめて管理し、路銀集めに冒険者からよく利用されている。金銭以外の報酬もたまにあったりする。


「おじさん、楽して稼げるような依頼ない?」

「んなもんあったら俺が全部引き受けてるよ坊ちゃん」


 調子の良い問いには調子の良い返しがきて、ラックは苦笑い。

 酒場の店主はラックのことを坊ちゃんと呼び、サービスでミルクを渡す。


「今日もめげずにどっかのパーティに入ろうとしたのかい?」

「結果は見てのとおりだよ。で、なんかないかな依頼」

「おばちゃんとこの飯屋でいつもの皿洗いが残ってるぜ。ゴミ捨てもすれば更に報酬アップだってよ」


 もはや雑用だが、ラックにとってはいつもお世話になっている依頼内容であった。飯屋のおばちゃんとはもう顔なじみだ。


「そうじゃなくてさ、もっと伝説龍討伐とか王族の護衛とかかっこいい依頼は?」

「この街にそんな大層な依頼くるわけないだろ。じゃあこれなんかどうだ? さっき他の奴らも受けてた依頼だけど、変異種の魔物討伐があるぞ」

「変異種! 場所は?」


 ラックは身を乗り出す。そういうのを待っていたとわくわくしている。


「東にある洞窟だよ。変異種は放っておくと危ないから受けてくれる奴は多いほどいい。でも坊ちゃんには危険すぎると思うが……どうする?」


 ミルクを一気に飲み干し、力いっぱいうなずいた。


「もちろん受けるよ! 俺だけじゃ無理でも他の人達と一緒ならなんとかなると思うし、討伐を手伝ってあわよくばそのままパーティ加入! みたいな展開もあるかもしれないしさっ」

「なるほど坊ちゃんは賢いなあ」


 茶化すような言い方で店主は褒めるも、その行動力と前向きさには素直に感心している。


「ちょっと洞窟に行ってみるよ、ミルクありがとうおじさんっ!」

「おいおい変異種の詳細ぐらい聞いておけよ……まあいいか、死ぬなよ坊ちゃん」


 店主に見送られ、急ぎ酒場を飛び出すラックであった。


 東の洞窟は、ラックがいま滞在している街『カーナイ』から歩いて一時間ほどかかる。たまに珍しい鉱石を発掘できるちょっとした探検スポットだ。

 移動用の動物を店から借りれば短縮できるが、片道分のレンタル代すら惜しいので徒歩で移動中。

 夕日が徐々に沈み始め、時刻はやがて夜になる。東の洞窟に到着し、ラックは物怖じせずに中へと入っていく。

 洞窟内は薄暗いと思いきや、ある程度整備されており光源は充分に確保されている。


「誰かいればいいんだけどな。誰もいなかったらすぐ逃げよ」


 逃げ足には自信があるラックだった。

 注意深く洞窟内を進むも、魔物は一匹も現れない。どうやらここは魔気という魔力の空気が発生しない場所のようだ。

 魔物は、一般的に魔気が生じる場所に生息する。魔気のない所には踏み入れて襲いかかることは滅多にない。

 しかし、例外は存在する。


「……なんだ!?」


 突如、奥から轟く爆発音と地響きに誰かの叫び声。

 魔物と戦っている人がいるのだろうか。これは手伝えるチャンスだと張り切って奥へ進むと、向こうからどたどたと騒がしい足音が聞こえてくる。


「ひいい、あんなのに勝てるわけがない、早く、早く逃げるよ!!」

「でも一人おいてっちゃったわよ、いいの!?」

「仕方ないじゃないか! あの子が犠牲になれば僕らが助かる!!」


 さっきのキザな戦士御一行が、青ざめた表情でラックを見向きもせずに逃げていった。


「他に依頼受けた人達ってあいつらか……」


 逃げたのであれば依頼は失敗。これでは折角のパーティ加入計画が台無しだ。

 単体では勝ち目がない。自分もさっさと立ち去ってしまおうと思ったが、ふと気づく。

 キザな戦士御一行の中に、あの荷物持ちの少女がいなかった。


「あいつら、さっき変なこと言ってたけどまさか……!」


 考えている暇はない。

 どうか無事でありますようにと、ラックは祈りながら全速力で走った。

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