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『第一村人』殺人事件   作者: グミさん
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第三章 二話 コウ

「驚いたでしょう? 五時には閉まってしまうんです。気をつけないと大変なことになりますよ」


随分幼く見えるが助手とさほど離れていないようで十七、八といったところか。


あどけない少年と言っても差し支えない。


可愛らしい笑い方をする。自分と表現するのも珍しい。


助手と比較しても劣らないほどのルックス。美少年と表現するのがいいか。


出しゃばらずによく話を聞いてくれる控え目な感じも好感が持てる。


「君はこの村の出身? 」


何となく違う気がしたので確認してみる。


「いえ。自分はこの村とは縁もゆかりもありません。移り住んできたんです。


実は父が船頭でして…… 隣の村で渡しをやってたんです。


その父が数年前に亡くなり昨年より渡しを引き継いでる次第です」


幼い見た目からは想像もできない逞しい筋肉が垣間見られる。


「へえあれは体力がいるって聞いたけどどうなんだい? 」


「はい。自分は見た目よりもがっちりしてるとよく言われます」


腕を捲し上げて力む。幼さの残る可愛らしい見た目とは対照的で立派な筋肉。


「それではごゆっくり。自分は夕食の準備をしますのでそれまでは自由に寛いでいてください」


彼の名はコウ。船頭だった父の後を継ぎ立派に育ったようだ。



お茶と和菓子で人心地。


「ああもう疲れたな」


居なくなった途端横になり寛ぐ助手。疲れているから今回は大目に見るか……


いやこのまま放っておくとつけあがりそうだ。


彼には助手としての立場を再度認識してもらう必要がある。


「おい、私の前で寛がないでくれ。寝るならもっと離れてくれないか。私は神経質なんだ。暑苦しい奴だな。それではせっかくのイケメンが台無しだぞ」


「それはないですよ。せっかくゆっくりと言ってくれたんだからお言葉に甘えて。


ねえ先生。あれ先生…… 正座してるんですか? 


やだな先生もゆっくりしましょうよ。誰も見てないんですから」


寛ぐにも限度と言うものがある。助手のこれは明らかにやり過ぎ。


コウ君が戻ってきたら笑われてしまう。



「まあいい。とりあえず第一関門突破だな。欲を言えば今日中に村に入りたかったが仕方がない。明日の祭りについて何か分かったことはあるかい? 」


立ち上がろうとしたが痺れて身動きが取れない。


正座は苦手ではないがコントロールが利かないのが困る。


早くしないとトイレが間に合わないと言うのに。


「どうしたんですか先生? 」


異変は察知してくれるが肝心の中身が伝わらない。


「いや大丈夫だ。何か分かったことはないか」


「今のところほぼ何も。ここまでの道のりと村の歴史ぐらいですかね。


後は村の人に直接聞くのが一番です。そうだ。コウさんに聞けば手っ取り早い。


コウさん早く戻ってこないかなあ。お腹も空いたしなあ」


コウ君に聞くのは良いとして事前の下調べを疎かにするとはまったく困った奴だ。


後々に響かなければいいが。



トイレを済ませてから助手の話を聞く。


「今ある二つの村は元々一つでした。しかし争いが起き二つに分かれたそうです。


その争いがもとで関所ができたそうです。ただ何度か村の境界線が変わったとか。


関所の門ができたのは最近だと言う話もあります。


その辺のことはもう少し詳しく調べないと何とも言えません」


頭が痛くなってきた。面倒だしとりあえず後回しにしよう。


「それからこの村、地域に伝わる伝承と言うか昔話みたいなものがあるそうです。


その一つがサライちゃん伝説。ふざけた感じで可愛らしい印象を受けますが…… 


実は恐ろしい話なんですよ」


助手が語りだした。


「昔々この村では…… 」


「お待たせしました。さあ夕食にしましょう」


せっかく語り始めたと思ったら邪魔が入る。


タイミング悪く話を遮る形でコウが戻ってきた。


ここは一度中座しておもてなしを受ける。



うん? コウ君の首筋に痕が見える。


「どうしたのその傷? 」


助手が指摘する。


よく見るとコウの顔や首筋に血の跡が。本人は至って冷静。


こちらとしてもどう指摘していいのか分からない。


「これですか? 嫌だなあ。大丈夫ですよ」


コウは首に掛けていたタオルで顔を拭い笑いながら近づいてくる。


タオルにも血がついていたので意味がないどころか余計広がってしまう。


凍り付く助手。私も同じようなもの。ただ痺れて足が上手く動かないだけ。


危機的状況は変わらない。コウ君の返事次第では危険が迫る。



「嫌だな。そんなに驚かないでくださいよ。これは自分の血じゃありませんから。安心してください」


たとえ穿いていたとしても安心はできない。いや違った……


笑ってごまかす気だろうがそうはいかない。この血は一体何なのか?


「本当ですって。ハハハ…… この血は自分のじゃない」


笑いながら意味不明な発言を繰り返す。


「ではその血は何だと? 」


知りたいとも関わりたいとも思わない。できれば一緒に笑っていたい。だが……


自らの手でパンドラの箱を開けることに。


                  続く

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