思い出のサンセット
時刻は三時半を回ったところ。
部屋には三人の姿があった。
「先生。遅いっすよ」
元気いっぱいの助手。何だか痛々しい。
「元気ないね。アーユーオーケー 」
ルーシーに心配される。
「先生。コウがさあ…… 聞いてます? 」
上の空で助手の話を聞き流す。
「コウ君も戻っていたのかい」
「本当に大丈夫ですか? 顔色がよろしくないですよ。
自分にできることがありましたら言ってください」
コウ君も動きっぱなしで相当疲れているはずなのに気にかけてくれる。
さすがはコウ君。頼りになる。
ここは気を取り直して一つ提案する。
「そうだ。みんな揃ったところでどうだろう。サンセットを見に行かないか? 」
「オーイエー」
「思い出作りですか。いいですね。行きましょう先生」
助手は呑気なものだ。
コウ君は疲れているのか乗り気ではない。
ルーシーは相変わらずのハイテンション。
夕暮れ時。
沈んだ心を盛り上げるためにサンセット鑑賞。
湖の前で陣取る。
あまり乗り気ではないコウ君を助手が無理矢理引っ張ってくる。
それにしてもさっきは軽率だったかな。
判明した真実が強烈すぎるものだからつい顔に出てしまう。反省すべき改善点。
探偵たるもの常に冷静であるべきで決して態度や顔に出してはならない。
そこには犯人がいるのだから慎重に。
何が起きるか分からないのだからより慎重に。
「撮りますよ」
パシャ
パシャ
湖をバックに沈みゆく夕陽。
集合写真を撮る。
絶好のポイントで一枚また一枚。
助手が調子に乗って撮りまくる。
もう間もなく夕陽が沈み闇が訪れる。
最後に一枚。
「そろそろ帰りましょうか」
「もうちょっといようぜコウ」
「ワーオ イエー」
それぞれが感慨に耽っているようだ。
彼らは一体何を考え沈みゆく夕陽を望んでいるのか。見つめているのか。
一人また一人と姿を消す。
ルーシー?
コウ?
助手?
一体どこへ行ってしまったのだ。
遠くの方で湖の館に反射した残光が弱々しく存在をアピールしている。
私はここに居ると。逃げも隠れもしないと。
そうだろう。今隠れられては厄介だ。
もうすぐにでも追い詰めるのだから。
刹那閃く。
このまま無かったことにして帰途につこうか……
誰にも解決できない完全犯罪。
逃げ出したって誰も文句言うまい。
私はただの探偵なのだから。そう刑事ではないのだ。
事件解決を義務づけられている訳ではない。
ただの素人であり民間人だ。
村人でもないので困りはしない。
探偵とは言え自由。依頼人がいる訳でもない。
ただ気まぐれに仕事を放りだして誰に文句を言われようか。
もちろん大家さんはかんかんだろうが。
逃げの一手を打つ。
真実などと言う下世話なものを追い求める必要があるのか?
私はただの人間。神でも仏でもない。
一連の事件に犯人は存在する。
だが犯人を追い詰めるのは別に私でなくていい。
すぐにでもここから立ち去りたい。
私の中に芽生えた負の感情。
一見正しく感じるから厄介だ。
でも分かっている。
この事件に立ち向かうべきだと。それが探偵の宿命。
しかし分かっていてもなお気持ちが揺れ動く。
うーん。私はどうしたらいい?
決心がつかず自問自答する。
そして一つの答えらしきものに辿り着く。
私はそれでも探偵だ。
たとえ誰が何と言おうが許されようが真実を前に逃走するなどあってはならない。
本当に自分はどうしてしまったのか?
これまでの便利屋のような仕事で自分の能力に限界を感じている?
いや違う。ただ解決したくないのだ。誰も傷つけたくないのだ。
でもそれではいけない。分かっている。分かっているがどうにもならない。
揺れに揺れ動く心。
感情を無理矢理抑え込む。
どうせ十分後にはまた逃げ出したくなるのだろうな。
しかし私が逃げ出したところで犯人は逃げられはしない。
これでは完全犯罪は成立しない。
逃げ場を失った犯人は追い詰められることになる。
自分がやらねば、どの道警察は三日ですべてを暴き出すだろう。
いや大家さんが協力すれば明日にもすべてが白日の下に晒される。
真犯人に直接印籠を渡してやるのは自分しかいない。
犯人は自分の手で。自分だ。自分しかない。
「先生帰りましょう。もう真っ暗ですよ。さあ早く戻って夕食にしましょう。
あーお腹空いたなあ」
呑気な助手。私の気持ちも知らないで困った奴だ。
もう情け無用。
さあ覚悟は決めたぞ。
最後の時が迫る。
物語はついに最終局面を迎える。
続く




