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『第一村人』殺人事件   作者: グミさん
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第三章 一話 閉ざされた道

<第三章> 


長い旅路の終着点。


山を抜け最後の直線を行った先に小さな村。ようやく人が住む村に辿り着いた。


時刻は四時半。



人家の立ち並ぶ一角から人がぞろぞろと集まって来た。


ざわざわ

がやがや


ついには村人たちに囲まれてしまう。


団結した村人。一人が何か言うと集団心理なのか溜まっていたものが爆発する。

 

声も圧力も相当なもの。



「あの…… 私たちは決して怪しいものではありません。ここには登山で…… 」


夕方から酒臭いおじさんが睨みつける。絡まれると厄介。


バックパックで雰囲気をだし登山家のふり。これが一番自然。


だが彼らも馬鹿ではない。騙されたりしない。


仕方なく作戦を変更することに。危険は承知の上で速さを重視する。


思い切って正直に話すことにした。



「おやこんな遠い所に何の用かな。観光じゃなかろう」


村人の一人が前に出て話を聞く。


「初めまして。我々は明日行われる祭りに参加する為にやって参りました」


「ほう。そうかね。おい婆さん。この人たちはオラたちの祭りを見にわざわざやって来たそうだ」


心配性のお婆さんや仲間の為に率先して話を聞く。


一段と小さな老女が話に加わる。周りの者は物珍しそうにこちらの様子を窺う。


「お爺さん。何を馬鹿言ってるんですか。私たちの祭りは秋に一回ですよ。


春先にやるだなんて聞いたことありません。一体どういうつもりなんでしょう?」


そうだそうだと周りがはやし立てる。おかしいじゃねえかとすごむ者まで。



「それは…… 」


さすがに招待状…… いや挑戦状を見せる訳にはいかない。


我々はあくまで招待を受けたただの旅行者。もしここで探偵だと知られたら厄介。


村人の中には毛嫌いする者もいるだろう。いや絶対だ。


今までの少ない経験からも分かること。もちろん第一村人に気付かれてもだめだ。


「我々はこの村から正式に招待されています。何かの間違いでは? 必ず祭りは行われるはず」


祭りが行われなくてはそもそも事件など起きようがない。ここで間違いないはず。


第一村人は我々をおびき寄せたのには必ず理由があるはずだ。


「でもねえ私らは本当に知らないんだよ」


すっとぼける村人。まあここではないと言うなら帰るしかない。


だが電車やバスを乗り継いで一日がかりの旅。再び繰り返すなどやってられない。


とんぼ返りなんて御免だ。せめて一泊はさせてもらわなくては困る。


ここまで来て引き下がれない。抵抗を試みる。



「そんな…… この消印を見てください。ここの郵便局の消印が押されているでしょう? 違いますか? 」


老女は分からないと言うので詳しい者が話に加わる。


すぐにこの村の郵便局から出されたものだと判明する。


「おかしいねえ。この村では祭りなどさ…… 」


老女が夫に同意を求める。


夫も周りの者も完全否定。まるで隠しているかのような動き。


だがそれはいくら何でも無理がある。祭りを隠す理由が無い。


この村だって山奥の村とは言え祭りにはそれなりに人がやってくるはずだ。


祭りに参加する者もいるはず。


極端によそ者を排除する気だとしてもこのやり方は得策ではない。



「困ったなあ」


お手上げ状態の助手。長旅の疲れからかやる気を失っている。


「あの…… 済みません」


騒ぎに駆け付けた村外れの若者。何か知っている様子。


「もしかしたら隣村ではないでしょうか。隣村もここの郵便を使ってますしそれに確か明日から代替わりの儀式が行われると聞きましたが」


貴重な情報を得る。


「代替わりの儀式? それは本当ですか」


「ええ。明日盛大に行われるそうです。詳しい話は隣村の人に聞いてください」


さっそく彼に道案内をしてもらうことに。



「急ぎましょう。もう時間が無い」


何を慌てているのか分からないがここは大人しく従うのがいい。


事情を知っているであろう若者。突然走り出した。


「まだ走るの? 冗談でしょう」


疲れ切った助手が私の代弁をしてくれる。


仕方なく後を追う。


「苦しい。まだ? 」


「もうすぐ。ほら見えてきました」


緩やかなカーブを曲がると見えてきた。門だろうか。



「あの…… 今何時ですか」


若者は振り向くと急に立ち止った。


「五時前。正確には四時五十五分…… いや…… 遅れてるから五十八分」


助手の時計はなぜか遅れていた。本来注意すべきだが私も時間にはルーズな方。


依頼人との約束は守っているがいつもギリギリに行くことが多い。


まあ何の自慢にもならないが。


「急ぎましょう」


全力で門の方に走る。



大体一キロ走っただろうか。もう足が動かない。どうしよう? 


助手の手前泣き言は言えない。立派な探偵像が崩れかねない。


これは自分の為と言うよりも助手の為。


彼もどうやら体力の限界のようだ。ついに歩き出した。


私は付添う形で歩くことにした。これで面目が保てる。


若者は我々が脱落したのに気が付かず行ってしまった。急がねば。



「ダメですか? 一分経過しただけでしょう。意地悪言わずお願いします」


「バカ野郎。規則は規則だ。もし文句があるならあんたのとこの村長でも誰でも連れてくればいいだろう。もう俺らは帰るがね」


屈強な大男二人が案内役の若者と言い争いをしている。


「どうしました? 何か問題でもありましたか」


言い争いを止めようと間に入る。


さすがに我々の為に無理をされては困ってしまう。


案内していくれるだけでも助かると言うのに。これ以上迷惑はかけられない。


「それが…… ダメみたいです。申し訳ありません」


彼のせいではない。謝られても困ってしまう。



門は開かれている。もし門番の隙を突き中に入れれば目的の村に行ける。


「時間だ。下がれ」


そう言うと大男の一人がボタンを押す。自動的に門が閉鎖される。


どうやらあのボタンを押すと閉まる仕組みになっているらしい。


これがまさか第一村人の仕組んだ罠だと気づくはずもなく。


大人しく引き返すことに。


「よし任務完了。お疲れ」


そう言ってとっとと帰る準備を始める。男たちはあちら側の人間。


午後五時にになるまで人の出入りを管理しているとのこと。


朝八時までは無人。この間に密入国できなくもないが周りは崖。


しかも道も脆く夜では危険が伴う。



「すみません。明日八時には開きますんでその時にまた来てください」


申し訳なさそうに頭を掻く若者は泊まるところまで世話してくれた。


この近所に明日からの祭りを手伝う友達がいるのだとか。


その者の家に一晩お世話になることに。


                続く

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