新展開 ルミノール反応あり
情けない声を出す刑事。
確かに計算ではオーバーしてることになる。
だが沈む様子も見られない。
不思議と言えば不思議だがなんてことはない。
ただの目標値。百を超えても直ちに転覆する訳ではない。
そこまでギリギリの設定では逆に危険極まりない。
これでは儀式に必要な積み荷が一切運べなくなってしまう。
「うるさいねえあんた。本当に騒ぐと転覆しちまうよ」
縁起でもないことを言って脅す。
「なあ婆さん計算できてるか? 」
失礼な。大変失礼な物言い。いくら老いたとは言え計算ぐらいできる。
「俺は七十キロ弱。あんたが四十キロ超えていれば合計は百十キロ。
今の状況ではいつ転覆してもおかしくねえ。俺は泳げないんだぞ」
「刑事なのに? 情けないねえ」
まさか転覆すると本気で思っているのか。刑事と心中する気はさらさらないよ。
「うるせい。早く岸に戻せ馬鹿野郎」
ゴリラのような刑事が震え始めた。
それほど怖いのだろう。悪いことしたかね。
まあ人間味があって良いじゃないかなどと考えるのはあまりにも無責任か。
「落ち着きな。いいかい百キロはあくまで目安。
それに一つ忘れてないかい? 」
「忘れてるだと知るかそんなこと。早く教えろ」
考えることをせずにすぐに答えを聞こうとする。
これでは一生考える力が育たない。
子供たちの学力にまで影響を及ぼしかねない社会的問題。
「荷物さ。そう儀式には二人だけでなくこうした祭具が運ばれる。
これらすべてを合計して百二十キロをオーバーしないことが大事なんだ。
だから実際は百二十キロが重量制限なのさ。これを越えれば転覆は免れない」
「何だそう言うことか。早く言えよな。驚かしやがって」
ようやく理解してくれたようだ。
呑み込みが遅いと苦労する。
これでは私の助手など到底務まりそうにない。
頭を使うのに慣れてない証拠。
ボディーガードぐらいにしかならない。
何だかんだ話してるうちに西の館。通称湖の館へたどり着く。
デート気分もここまでさ。さあお仕事。
現場検証を始める。
「もうここは隈なく調べてる。何も出やしないよ婆さん」
優秀な部下をお持ちで何より。でも誰であれミスはする。
見落としが無かったとは言えない。
「フン。どうだか。あんたら警察は現場にヘリで駆けつけたろ?
だからこんな初歩的なミスをしちまうんだよ。反省しな。
被害者や犯人の立場になって行動することがどれだけ大切か分かったかい? 」
お説教を垂れる。
本当はこんな事したくはない。しかしあまりにもお粗末な捜査。
儀式に使われた船も重量制限も理解していなかった。いくら時間が無いとは言え。
私があえて指摘し身を持って体験したから分かった訳で。全くなっちゃいないよ。
少々やり過ぎた気もするが……
気合いを入れて捜査に臨まないと解決するものも解決しない。
「へーい。市民のお言葉有難く頂戴いたします」
随分軽い。まだことの重大さが分かっていない。
とりあえず刑事に力を見せつけぶちかました訳だ。少しは信頼を得ただろうか。
「それで刑事さん。何か不審な物はあったかい? 隠さずに教えな」
「まったく何が悲しくてこんなことしてんだか」
愚痴りながらも説明を始めた刑事。
「現場は見てのとおり儀式で使用したもの。
暖房に電話にサライちゃん人形。例のごとく脱ぎ捨てられた衣が置かれていた」
「うんうん。どれどれ」
「おい触るな。証拠品だ」
「分かってるよ。それでこれは間違いなく二女が着ていた物なんだね? 」
「ああ確認してもらった。一葉の方も確認済みだ。
残された衣には血痕等は見つかっていない。どう見てもこれは洗い立てだな。
まあ館内はこんなところだ。
ちなみにこの西の館は湖に囲まれており侵入することもできない。
だから見張りは置かずに電話で対応するのみ」
「それだけじゃないよね。もっと何かあるだろ? 」
「いや…… その何だ…… 」
刑事は動揺する。
「隠すと為にならないよ。ほら早く言っちまいな」
「まったくしつこい婆さんだぜ。館内も周辺もすべて調べ尽した」
「それで何が分かった? 」
「ルミノール反応があったのさ」
「それは大発見じゃないか」
「あーあ。教えちまった。まだ上にも報告してないのに。
民間の得体の知れない婆さんになぜ言わなけりゃならないんだ」
愚痴られてもこちらだって困る。
警察の捜査が急展開を迎える。
続く




