真実と幻想
和やかに行われていた宴が血に染まる。
いやああ
きゃああ
悲鳴を上げ我先にとその場を立ち去る参列者。
パニックの末に残されたのは三姉妹と岩男氏だった。
「何をしてるのですか二姫さん。神聖な儀式の前に」
様子を見に戻った村長も巻き込まれ前夜祭には相応しくない地獄絵図となった。
「止めんかこの馬鹿者が」
岩男氏が吠えるもやはり逆効果。
「はっはっは。面白い面白い。もっとやれ。いいぞいいぞ」
二姫にエールを送る一葉。
「ダメです。これ以上はお止めください。二姫さん」
必死に説得する村長。しかし我を失った二女を止めることなど不可能。
近づくことさえできない。
長女は何がおかしいのか笑い続けている。
三女は震えている?
「はっはっは。いいぞいいぞ。やれ」
一葉が二姫をけしかける。
自分も危ないと言うのに一体どのような心理なのか。
とにかく二人とも壊れてしまったのは確かだ。
「許さん。何をしておる。ほれその刀をこちらに寄越さんか。早くせい」
岩男氏ご立腹。冷静さを欠く。
非常に危険な状態。
「お止めくださいお姉さまたち。どうか私に免じてこの場は収めてください。
冷静になって。もしお父様が本気になられたら手が付けられないのですよ。
分かっているくせに。早く早くその刀を置き許しを請うのです。
どうか穏便に。お願いします」
終始冷静だった三貴も想定外の展開に焦りと後悔が見られる。
だが願い虚しく一度始めた戦い。収めようもない。
ただ距離を取り周りから様子を窺うのが精一杯。
刺激しすぎると爆発しかねない。
自然と収まるのをただ見守る。虚しいがそれしか手はない。
「さあお父様も宴を楽しみましょう。ほほほ…… 」
もう二姫は完全に壊れてしまった。刀を片手に大笑い。
「何を抜かす。もう手加減はせん」
飾られていた槍を取り対抗する岩男氏。爺ながらまだ若さあふれる。
親子喧嘩もここまでくるともはや誰にも止めようがない。
「止めてお願い。お姉さま」
狂気の宴に終わりはない。
現在。時刻は午後五時過ぎ。
山湖村到着。
村では長女の失踪の件で持ち切りである。
「あの…… 」
「あんたここの者じゃないね」
「私は玉子って言います。東の方からやって参りました。
ここは山湖村でよろしいでしょうか? 」
自己紹介を終え先生の行方を探る。
「ああ。男の子とルーシーって外人とよろしくやってるよ。ほらあの建物だよ。
そこが儀式の本部。彼らは儀式の手伝いをしてるのさ。うん実にいい若者だ」
何だ…… 先生たちあそこでお世話になっていたのね。
せっかくなので話を聞く。
第一の事件。即ち岩男氏変死事件。
「あの男のことね。あまり悪口を言いたくないがどうしようもない奴でね。
権力と金で村の者を支配している悪党。だから罰が当たったのさ」
隣村の者の見解とほぼ一致。
ただ実際に接しているとあってより一層不満があるようだ。表情に現れている。
「今のところ事故。他殺の線もあるが駐在の見立てでは酔っぱらって湖に転落した事故だろうって。ただ不審な点も。夜一人で出歩いてたらしい」
限りなく殺人に近い事故。それが駐在の見解。
珍しいお客が来たとどこからともなく湧いてくる村人。
「事故じゃねえかもな」
「何ですって? 」
「自殺さ。自殺しかないだろ」
今までの罪を悔いて自殺を図った。それが彼らの解釈。何とも都合のいいことで。
「自殺? そんなタイプですかね」
「そうだよな。そんなタマじゃないわな。ただ何かとんでもない事態が起きそれを苦にってね。まあ話半分で聞いてくれや」
噂話の域を出ない。
これではただ余計な情報が蓄積されていくだけ。
第二の事件について。即ち長女失踪事件。
「そうそう。次期当主の一葉が姿を消したってねえ。村では大騒ぎだよ。一体どこにいるのやら」
殺された?
「俺の予想では村が嫌になって逃げちまったってのが有力さ。
いくら儀式とは言え三日三晩何も口にしない。水ぐらいは良いんだろうけどさ。
まだ事件って決まった訳じゃないんだ。そう騒ぎ立てんでも…… 」
第三の事件が起こりうるか?
「それはどうかな。まだ第二の事件も不確かなんだ。
第三の事件は起きないと踏んでいるぜ。もちろん希望的観測だがね。
第一第二の事件が関連していようと普通に考えたら二度も失踪などあり得ない。
そんなのはマジックかイリュージョンの世界だけだ。たぶんもう起きないよ」
村人とも随分打ち解けたはず。そろそろ最後の質問をするとしましょうか。
「今晩泊めていただけませんか」
「済まない。生憎我が家は狭くてね。布団もないしね。
知り合いの家なら紹介できるが。彼女は観光客など気にしないだろうからね。
よしさっそく紹介したあげよう。ちょっと待っていてくれ」
うまくいった。これで宿の心配はない。
山湖村は基本宿が無い。だからどうにかして自分で確保しなければならない。
ここは……
立地は最高。長女が失踪した東の館の目の前。
続く




