心配なあの子たち
さあ早く先生に連絡しなくては。
でも待って…… どうやって? どこに電話したらいいの?
予定では山湖村にいる。だけど連絡のしようがない。
過保護? 心配し過ぎ?
そんなことない。先生は絶対ヘマをやらかす。
これは確定事項。それに事前にチケットだって渡された。
ゆっくりしていくといいと言ってくださった先生。
もちろんサポートに回れとの遠回しのサイン。
分かっているの私と先生との仲だもの。あの子の考えていることは大体分かる。
初めて行く村に不安は尽きないもの。でも本当にこの戦い方でいいか疑問が残る。
ここは西湖村と隣村との境の旅館。
温泉郷はこの辺りに集中しておりここは西湖村唯一の旅館。
明日向かう予定の山湖村とも随分離れている。
第一村人の意図がまだ読めない以上、一層気を引き締めねばならない。
脅迫状ではこの辺りを指定してきた。でもそれから先は分からない。
先生たちはもちろん私も細心の注意を払い臨む必要がある。
今一度そのことを胸に刻む。
先生たちはいわば斥候部隊。
かき乱すだけかき乱して最後に美味しいところを私が持って行く。
役割分担ができている。
先生は探偵としてはまだまだ半人前。
半人前では言い過ぎか。
四分の一人前が妥当かしら。
その相棒である助手君もまだ初心者。
若葉マークだってまだ不慣れ。
こう考えるとあの子たちが本当に心配で心配で心配で。
どれだけ心配すれば良いことか。
こっちが胃潰瘍になりそう。薬持ってきたかしら?
一人ではちょと…… 新しい助手と二人でもまだ心もとない。
ただ雰囲気だけは名探偵だ。
それに的確な指示も出せるし頼るのも上手い。
そう言う意味では人心掌握術に長けているとも言えるかしら。
でもやっぱり心配だわあの子たち。
大丈夫かしら先生?
大丈夫かしらあの子たち?
心配だわ。
心配ついでにもう一つ。引っ掛かることがある。
助手君の正体が良く分かっていない。
彼は何の為に助手に? 彼の狙いが何なのか?
あまりにタイミングが良すぎる。
第一村人の脅迫状が届いた日に偶然彼がいた。
いや果たして本当に偶然だったのだろうか?
まさかこちらの狙いに気付いてるのでは?
心配は尽きない。
月を眺め茶を啜る。
明日には先生のいる山湖村へ入るつもり。
それまでにできるだけ多くの情報を仕入れねばならない。
ああもう本当に忙しい。
床に入る。
月影がサライちゃんの姿を映したような気がした。
翌日。
昨日風呂で一緒だった奥さんの部屋を訪ねる。
山湖村に向かうことを告げサライちゃんとアリサさんの話を聞くつもり。
ドンドン
ドンドン
ノックをするが全く反応が無い。
結局彼女はこの旅館で一泊していた。
いくら地元でも夜道を歩くのは危険。
彼女も言っていたようにサライちゃんに出会うかもしれない。
信じる信じないは別としてあれだけ私に言ったのだ自ら愚かな真似はしない。
それは彼女だけでなくここの者は当然で特に女性はきちんと守っている。
「ああもう。静かにしてよ」
居留守も限界か。何度も叩いてると彼女が姿を現した。
「もう一体何なの? うるさいわね」
昨日あれだけ話したがっていた彼女の態度が硬化する。
「そんなこと言ったかしら。酔ってて適当なことを口走ったのかもしれないわね。
ホホホ…… ではごきげんよう」
「ちょっとそれはいくら何でも」
粘る。これも情報収集には必要なこと。
しつこく迫ってはダメだが粘り強く話を聞くのもテクニック。
「もうしつこいわね。勘違いよ。さあお茶でも飲んで落ち着いて奥さん」
そう言うと辺りを見回し引っ張りこむ。
お邪魔します。
「ちょっと気をつけなさい。ここでは余計なことに興味を持たない方が利口よ。
特に山湖村に行くならもっと慎重にね。誰が聞き耳を立てているか分からない。
もちろんここだって分からないわよ」
忠告を受ける。
彼女はこの村の人間。貴重な情報源。彼女が持っている情報こそが突破口になる。
「お願いです。知っていることを全部教えてください」
「いいわよ。でも高いわよ」
こちらに視線を送る。
情報料を要求。こちらの本気度を試しているようだ。
「もう冗談。冗談よ。知りたければ何でも」
「この村に伝わるサライちゃんとアリサさんについて詳しくお聞かせください」
「仕方ないわね。私の知っている話はね…… 」
伝えられている両伝説の顛末。それはそれは恐ろしくまた悲しい話だった。
サライちゃん。
アリサさん。
話を聞き終えるとさっそく情報収集へ。
続く




