牢の中の会話
「先生。先生…… 」
助手の情けない声が辛うじて耳に届く。
もう限界か? 呼びかける声にどことなく元気がなく疲れているのが分かる。
一体どうしてこんなことになってしまったのだろう?
振り返れば振り返る程に己の未熟さに気づかされる。
助手にも甘かった。これが命取りに。
しっかり注意すればよかったんだ。もっと厳しく叱っていればな。
私はただ見守っていた。止めるチャンスはいくらでもあった。
ルーシーの暴走だって防げただろう。
悔やまれるのは助手を先に行かせたこと。
役に立とうと動き回った結果がこれだ。
隣の男が喚き散らさなければ助手だってあんな大それたことしなかっただろう。
振り返れば振り返る程あの時の判断ミスが悔やまれる。
これは助手の暴走では片付けられない。
総括すると牢に閉じ込められたのは助手の浅はかさとルーシーのノリ。
とは言え二人は責められない。私の監督責任もあるのだから。
いやここは事件に集中すべきか。
今回の一連の連続失踪事件。
第一村人の挑戦状がなければ殺人まで疑うことは無かっただろう。
第一村人の意図を読み切れなかった。
まず一葉失踪事件だがどのように消失させたのか?
考えられるのは見張りの隣の男が一時的に離れた隙を突いたケース。
その場合は事前に彼の行動パターンを把握している必要がある。
容疑者は彼の親しい者か同僚またはその上司に限定される。
また彼自身が一枚噛んでいる。あるいは彼の単独犯のケース。
しかしそれだと真っ先に疑われるのは目に見えている。
今回の連続失踪事件がそこまで単純とは思えない。
逆にそれを逆手にとってと言えなくもないが……
ここは何らかの確信があって隙を突き連れ去ったと見るのが妥当だろう。
ただもちろんそう結論づけるには早計。
もしこの消失に当の一葉さんが関わっているとしたらどうだ?
だがしかしなぜ?
この場合は一葉さんは無事のはず。動機は不明だが。
とりあえずいつ消失したのかさえ分かれば事件の真相に迫られるだろう。
今挙げたのはもちろんすべて仮説。
このどれかかもしれないしそれ以外の可能性もある。
現段階では断定のしようがない。
やはり発見されないことには何とも。迷宮入りは必至。
その場合我々もずっとここに留まることになる。
早急に手を打つ必要がある。
もはや自分の力ではどうにもならない。
ここは一つ助手にでも任せてみるか…… うーん…… 」
「おいそこ。探偵さんは何か分かったのかい? さっきからブツブツと。
せっかくいい気持で寝てるんだから起こすなよな」
ずいぶん気持ちよくお眠りになっていたと言うのに文句ばかり。
こっちはいびきに悩まされたというのにまったく腹が立つ。
ルーシーは疲れたのか無言のまま横になっている。
助手たちは話し合っているらしくところどころ漏れ伝わってくる。
さっきまでは隣の男が静かにしていたのではっきり聞こえていたのだが。
「聞こえましたか? これは失礼。ついつい考えたことが口に出てしまいました。
そうだ。いい機会ですから失踪時の話を詳しく聞かせてください」
この男と話せば何か手掛かりが掴めるかもしれない。時間はたっぷりある。
「おいおい勘弁してくれよ。散々聞かれてよ。あんただって知ってんだろう?
俺があそこに突っ立っていただけだってよう」
ふてくされて下を向くと再び横になった。
何も言いたくないと変に意固地になられても困るので確認だけすることにした。
「何もなかったことは分かりました。ではいつ頃居なくなったか分りますか? 」
「そんなことは知らねいよ。分ったらすぐに知らせていたさ」
「まあ確かに。初日は生きていたことが確認されていますので問題ないでしょう。
二日目以降特に夜に消失、いえ失踪した可能性が高い。
一葉さんの姿を目撃した人が誰もいないことからも推測できます。
日中は何かと人目に付きますからまず選択しないでしょう。
やはり夜の方が動きやすいですからね。その辺のことはいかがです? 」
彼の見解を聞く必要がある。
「知るかよ。俺は関係ねえ。嫌なんだ。関わりたくないんだ」
少しぐらいは情報が得られるかと思いきや駄々をこねるのだから呆れる。
続く




