三日目 助手の適性
朝起きるとコウの姿が見当たらない。
相変わらず助手はやる気がなく寝ぼけ眼。
大欠伸一つ。薄く開いた緑がかった瞳を擦るとようやく観念したのか起き上がる。
「何だ。先生も寝坊したんですね。まったくお互い様じゃないですか」
「どこがだ。私は君たちのイビキと寝言と呪文でちっとも寝れなかったんだ」
「言い訳は良いっす。イビキや寝言もありません。呪文? 唱えてません」
どんどん生意気になっていく助手。見た目が可愛いからまだ許せる。
これが不細工だったら許さない。ああセクハラか。いやパワハラかな。
「まったく何て助手だ。普通は助手が先生を起こしてやるものだろ。いいかお前が私を起こすんだ。いいか聞いているのか」
これで本当に秘書検定に受かったのか? たぶん関係ないだろうけどね……
とんでもない助手だ。
「はいはい。朝は弱いんですって」
今度は体をポリポリ。背中をすりすり。
一向にしゃっきとしない助手を怒るべきか叱りつけるべきか。
それともなぜか励ますべきか。思案する。
「コウ君は? 」
隣に寝ていたコウの姿がさっきから見当たらない。失踪でもしたか?
「ああ。コウの奴なら朝早く用があるって出て行きましたよ。
伝言があったような無かったような。すみません覚えていません」
覚えてないならばたいしたことではないのだろう。
この助手もそこまで抜けていない。そう思いたい。
今言えるのは助手が二度寝をしたと言う事実のみ。
まったく困ったものだ。ため息を一つ吐く。これではハンデ戦ではないか。
第一村人相手に二人がかりで臨めば何とかなると思っていた。
しかしちっとも役に立たない助手。これでは本当に先が思いやられる。
「そうだ。コウの奴今日は物凄く忙しいって寝る前に嘆いてましたよ」
それはそうだろう。渡し以外にも手伝いがあるのだ。
早朝から行動を開始して何とかなるレベル。
そう言う意味では我々は後れを取ったと言うことになる。
それを助手に説いたところで「はい」の一言で流される。
「よし。我々もさっそく調査開始だ。かなりスローだけどな」
まだほとんど手をつけられていない。村や一族、儀式についても。
何としても今日中に集められるだけの情報を集め先手を取らねば。
「まだ事件が起きた訳でもないんですから慌てないでほらお茶でも飲んでゆっくり。心にゆとりがないと解決するものも解決できませんよ」
助手の言も一理ある。だが彼は絶対に面倒臭いだけ。ただやる気が無いのだ。
「我々の出番はもっと後。気長に行きましょう先生」
爺さんかお前はと言いたいがぐっとこらえる。
「そうも言ってられるか。さあ行くぞ」
「そんなあ。スローに行きましょう。スローライフこそ現代人の…… 」
戯言を受け流し外へ連れ出す。
一階本部には重苦しい空気が流れていた。
「あれ? 本部の人殺気立ってませんか?
それに外も何だか嫌な空気が漂っているって言うか…… 」
敏感な助手。私もビンビン感じる。重苦しい雰囲気。
「我々以外は儀式に忙しいんだろ。こんな時は誰も心に余裕がなくなるものさ」
そう言うもんですかねえと納得いっていない様子。
「いいから行くぞ」
嫌がる助手を引っ張って長女の一葉の元へ。
東に向かう。
「ちょっと先生早い。早すぎ」
まだ文句を言う助手。足を引っ張る彼に構ってなどいられない。
歩くスピードを上げ、徐々に小走りになる。助手は仕方なく走り出す。
やればできるじゃないかと誉めてやろうとしたがそれでは甘やかし過ぎ。
ここは早くしろと言うだけにとどめる。
「先生。先生」
「うるさい。もう疲れたのか? まったくこれだから…… 」
「違います。そこを左に行くと近道かと。昨日の感触ではそうだったのでたぶん」
昨日の道のりを覚えてただけでなく近道にまでも言及する。
意外にも優秀な子かも知れない。得意と不得意があるのは仕方がない。
彼にとって地理は得意分野なのだろう。もちろん早起きは不得意。
言われた通りに左折すると昨日見た屋敷に突き当たった。
昨夜まで一葉が籠っていた東の館。
そう言えば彼女は無事儀式を終え戻ってこれたのだろうか?
嫌な予感しかしない。
続く




