夜のお楽しみ
ゆっくりしていられない。急いで店を探さなくてはいけない。
コウ君のお勧めの鶏鍋専門店。
昨夜と同じように鶏鍋を楽しむ。助手も覚悟を決めて一口、二口。
意外にも慣れたのか美味しいと全て平らげる。トラウマにならずに済みそうだ。
コウ君に無理矢理酒を勧められてついつい酔っぱらってしまう。
ビールは苦手だが日本酒や焼酎はいける口。
地酒を飲みつつ鶏をつつく。贅沢なひと時。
助手も気分が良くなったのかただ酒癖が悪いのか服を脱いで騒ぎ出す。
「お客さん困りますよ」
さすがにこれ以上は店に迷惑。二人を無理矢理引っ張って外に出る。
助手の年を把握していないがまさか未成年と言うこともないだろう。
コウ君も酒に慣れているようだし問題ないよな。
「いやあうまかったっすね」
良い気持ちに酔っている助手。
「料理はどれも絶品だった。なあコウ」
「うん。うん。確かに」
「先生も気に入ってくれたんでしょう。酒だって高級そうなのがこんなに安いんですよ。この価格で飲めるなんて本当にラッキーでした」
酒癖が悪い助手。絡み酒ってやつか。しつこくて敵わない。
「まあ支払いはすべて先生でしたから何の遠慮もしませんでしたけどね」
調子に乗って浮かれているがこっちの財布事情も分かって欲しいものだ。
今回の準備や旅行費用はすべてこっち持ち。正式な依頼があったわけではない。
これでは回収のしようがない。第一村人なる人物を見つけ出し叩きつけてもいい。
だが奴だってそこまで考えていないだろう。
今回の事件を仮に未然に防いだとしても警察から感謝状が贈られるのみ。
それではやってられない。だが私にも探偵としてのプライドがある。
挑戦状を叩きつけられては受けるしかない。
後は大家にでも相談するぐらいだが逆に請求されては元も子もない。
「美味しかったよコウ君。助手もこんなに上機嫌だもんな」
「いやあ嬉しいな。こんなに褒めてくれるなんて。そうだ鶏鍋にも慣れたことだし我が家でもう一度いかがですか」
「これ以上迷惑はかけられない。そうですよね先生」
昨夜のことを思いだし一気に酔いが醒めたらしい。
時刻は間もなく十一時。そろそろ長女の一葉さんが姿を現す頃だ。
「行ってみますか先生」
「うん。念のため早く確認しておきたい。無事に儀式を終えているといいんだが」
「二人とも待ってください」
コウが引き止める。
「行っても無駄ですよ。関係者以外は立ち入り禁止となっていますから。
明日の朝にでも拝見するしかありません」
当然と言えば当然。私とて予想してない訳ではない。
「しかし心配だなあ」
「大丈夫。大丈夫。そうだろコウ? 」
「うん。見張りに任せておけばいいさ。腕利きの屈強な男。間違いはないよ」
いつの間にか二人の距離がグッと縮まった。
短い間で友へ。信頼関係が形成されている。
十一時過ぎに本部へ。
軋む階段を上り宛がわれた部屋に戻る。
せっかくなのでコウも一緒に寝ることになった。
二人の関係がただの友達以上の関係になる前に止める必要がある。
「おはよう。朝…… 」
コウが寝ぼけて何か言っている。
それに釣られるように助手がハイハイと返す。
絶妙な掛け合い。
もっと聞いていたいがそうもいかない。
忙しいのだ。考えることが一杯。
あれからすぐにコウと助手は夢の中。
私はどうも寝つけずにペットボトルの水をちびちび飲む。
もちろんこの村にペットボトルなどあるはずもなく行きの駅で買っておいたもの。
この村にはカンかビンしかない。少々不便だがそれも味があっていい。
体は疲れているのにまったく眠くならない。
やはり初めてきた場所なので緊張しているのだろうか。
第一村人の不気味な影が迫っている気がする。
ベッドまでは用意されていないものの一式が揃っているので困ることはない。
逆にどれにするかで迷ってしまうぐらい。
うわああ。
隙間風が強く寒くて仕方がない。
早く寝なくては風邪を引いてしまいそうだ。
毛布を肩にかけ今日までのことを振り返る。
我々はどうするべきか?
まだ事件は起きていない。今のところ被害者も出ていない。
だから正確にはまだ事件は起きていない。岩男氏の件を除けばだが……
始まりは一通の手紙からだった。
謎の人物第一村人は一体誰なのか? 目的は?
私にどうしてもらいたいのか?
岩男氏は自殺か事故かそれとも殺人か?
この岩男氏の事件が一連の事件の幕開けなのか?
関連はあるのか? 私たちはどう関わりどう立ち向かうべきなのか?
初めての依頼。それも謎の人物からの挑戦状。
果たして事件はどのような展開を迎えるのか? 謎である。
ただ…… 謎だと結論づけるだけでは探偵の意味はない。
とりあえず今までの記録をつける。
続く




