二日目 第一の犠牲者
夕方。
「先生…… お腹空いたよ」
「まだ食べる気か? 」
彼は何を隠そう団子三本平らげたばかりで疲れてるならまだしも空腹のはずない。
「先生疲れたよ。お腹が空いた。足が何だか痛むよ」
まるで駄々っ子のようで扱いに困る。
私とて同じ状態なのだから。疲れてると言えば疲れてるし。気のせいだろう。
どうも最近の若者と来たら我慢と言うものを知らない。
我がままを言えば何とかしてくれると思っているようで始末が悪い。
ロンゲのイケメンでは正直荷が重すぎたのかもしれない。
「先生見えてきましたよ。さあ早く行きましょう」
ソバ屋があるそうだ。まったくこれでは食い倒れではないか。
文句の一つも言いたいがここはぐっと堪える。
まあ助手の体力が回復するなら安いもの。
名物の鶏ソバとおにぎりのセットを頂く。
「ああ生き返る」
ソバを一口そそると大げさに喜ぶ助手。
確か昨日あんなに嫌がっていたはずの鶏だが問題ないらしい。
私はもう十分お腹一杯。これ以上は食べきれない。
「先生…… あの…… 」
ハイスピードで啜る彼が何を言ってるかよく聞き取れない。
まあ大したことは言ってないだろうから適当に相槌を打って笑ってやる。
安心したのか食べることに専念。
本部の場所を教えてもらいまだ物足りない顔している助手を無理矢理引っ張る。
本部はソバ屋から数百メートルの場所にある。
助手と言い争いをしているうちにいつの間にか着いてしまった。
「おおここだ。ここだ。あの…… 」
「どけどけ邪魔だ」
儀式の関係者が慌ただしく動き回っている。我々の存在を無視する程の混乱状態。
建物の中へ。
中も外同様に慌ただしくピリピリした様子。
最悪なことに侵入者を追い返そうと人相の悪い二人組に追い回される。
「誤解だ。我々は…… 」
有無を言わせない。
「あれ…… 何をやってるんですか二人とも」
コウの姿があった。
「コウ。お前こいつらを知ってるのか? 」
「はい。昨日から観光に来てる方でこの代替わりの儀に興味があるそうです」
コウのフォローで窮地を脱する。
「そうか。まあ好きにしろ。だがな今はそんな呑気なこと言ってる場合じゃない」
雰囲気は最悪。何かあったのだろうか?
コウにそれとなく聞いてみる。
「これは村人たちには内緒にしてほしいんですが…… いいですね? 」
前置きを入れる。焦らしている?
「午前中の話。儀式の当事者であり村の権力者でもある岩男氏が亡くなりました。
詳細は不明ですが水死だそうです。どうも自殺か事故のどちらかになりそうです」
ついに犠牲者が出た。これは第一村人の犯行に違いない。
岩男氏は今回の代替わりの中心人物。隠しきれずに村の者に動揺が広がっている。
岩男氏が亡くなり儀式はどうなっていくのか。まさか中止?
「コウ君。何か知っているのであれば教えてくれないか」
コウは口ごもる。余計なことを言っては村の者の迷惑になる。
「そうだよコウ。何か知っていることがあったら先生に。仲間じゃないか」
妙になれなれしい助手。それが彼の長所であり欠点でもある。今回はどう転ぶか。
積極的に話に加わる。
出しゃばり過ぎだがどうやらさっきソバをたらふく食べたので機嫌がいい。
昨夜のようなビビりになられるよりはよほどいい。
それにしたってこのイケメンは本当にまったく……
「落ち着いて。もちろん中止などあり得ません。儀式はこのまま続けます。
確かに関係者に不幸があったのでどうかと思いますが何と言っても代替わりの儀。
その当人が亡くなった以上儀式を完遂させなければ混乱が生じます」
コウはこの村の者ではない。我々と同様よそ者だ。彼に真実を語るとも限らない。
これは村の総意でもなければ一族の意思でもない。
ただコウが推測したに過ぎないことを頭に入れておく必要がある。
続く




