エピローグ前編
「分かりました。ではとっとと消えてください」
「ふふふ…… 生意気ね。本当に生意気」
離れには無造作に死体が遺棄されている。
姿形からして一葉。一葉に間違いない。
こちら側からでは後ろ姿のみで判断がつかない。
ただ計画通りならば一葉。一葉だ。
「生意気な口を利かないでコウ。お前を支配してるのはこの私なのよ。
その辺のことを忘れちゃ困る。ねえ姉さん」
亡骸に向かい微笑む。
非常識だったかしら? まあいいわ。
ホホホ…… 笑いが止らない。
「姉さんどうしたの? そんなに冷たくなっちゃって。
男をまるでペットのように取っ換え引っ換えし恨みを買うんだから自業自得よね。
人の気持ちを考えないで行動するからこうなるんです。
ふふふ…… 言っても分からないか? もう聞こえないものね」
勝ち誇った大笑い。実に下品で醜い。
「実の姉だろ? 」
「だから何? その実の姉を殺したのはコウお前じゃないの。言える立場かしら」
「いいから早く行け。二度と顔を見せるな。見逃してやるのも今の内だ」
どうすることもできない怒りを二姫にぶつける。
「はいはい。分かったわよ。私だってこんなところ二度と来るものですか」
睨み合う。
「まったく立場を弁えない愚か者め。お前は私に従っているだけで良かったのよ」
二姫はそう言うと離れを抜け姿を消す。
ちくしょう。こんなはずでは…… こんなはずでは……
計画は二姫の登場で完全に狂ってしまった。
しかし完成させねばならない。自分自身の為にも三貴の為にも。
完全犯罪を完成させねばならない。
さあ次だ。
新たなターゲットに目を向ける。
即ち……
【エピローグ】
あれから一週間が経過した。
アイ探偵事務所。
「戻ったぞ」
「ああ、先生お帰りなさい」
助手も随分仕事に慣れてきたようだ。
「そうだ先生。大家さんが来てますよ」
取り立てにでも来たか?
それとも運命の日?
ついに立ち退かねばならないか。元々大家さんの善意だったのだから仕方がない。
それにしてもあれ以来行方不明だった大家さんが戻ってくるとはね。
「そうか。あの後、姿を消したので心配してたんだ。それで何だって? 」
「いえ、お土産を渡してどこかに行きました。
先生がしっかりやっているか見に来たそうです」
「ははは…… まったく大家さんも心配性だな。
ゆっくり秘湯巡りでもしてきたんだろう。また何かあったら手伝ってもらおう」
助手は、はいと返し物思いに耽る。
「どうした? 」
「いえ何でもありません。無事に帰還して何よりです。
あれから一週間経ちますが昨日のことのようで強烈に印象に残っています」
「そうか。いい経験になったろ? 」
「まあそうっすね…… 」
「人のことは言えないが最初の事件があれなんだ。君はラッキーかもしれないな。
しかし普通はあんな恐ろしい体験をすれば助手など辞めるちまうけどな。
意外とタフなんだな君は」
「ははは…… 恐れ入ります。助手の仕事は続けます。
それがこの事件に関わった者のプライドです」
そう言うと短くした頭を掻く。
理由は聞いていないがあのロンゲをきれいさっぱり切り爽やかなイケメンに変身。
まあ私としては前の髪の毛にも愛着があったが彼の意思を尊重したい。
ただ暑苦しくて切っただけかもしれないが。
「なんだそれ。ははは…… 面白いな」
「いえ真面目な話です。先生が探偵業に関わるなと言うなら聞き入れます。
ただ助手を辞めろと言うなら俺が探偵で先生が助手という選択肢もあります」
大真面目に宣言するが言ってることが無茶苦茶だ。
意味を理解してるのか微妙。
「おいそれはないだろ」
「だから辞めません」
「勝手にしろ」
これは一本取られた。
こっちとしても辞められては代わりがいない。
いきなりすべてを一人でやるなんて慣れてしまってはもう無理。
彼を慰留する気満々。
それを悟られては厄介なことに。
「ただし私が探偵。君は助手。そこはしっかり弁えろ」
「だって…… 先生ったら山湖村では大家さんに主役を取られてたでしょう? 」
「だがなこれが私のスタイル。私が斥候部隊で大家さんが後から刈り取る。
事件調査は大家さんが上手だ。計り知れない探偵としての素質と能力。
大家さんを利用しない手はない。私もまだまだということだな。
大家さんには探偵として一歩も二歩も先を行かれている。追いつき追い越せだ。
それは君にも当てはまる。成長し私よりも立派な探偵になるんだ。分かったな?」
「ちょっと待って先生。俺は何も探偵になるなんて言ってない」
「返事は? 」
「はい」
「よろしい。ではさっそく始めよう」
「ああちょと…… まあいいか…… 」
「では次の依頼は…… 」
依頼はその後引っ切り無し。
何といっても第一村人殺人事件のインパクトは相当なもの。
難事件が舞い込んでくる確率が高まる。
後は警察との連携が取れるかが課題。
助手の淹れた薄茶と大家さんの土産の饅頭でリラックス。
「先生。気になったことがあるんですが」
「何だ言ってみろ。ああ饅頭をそんなに取るんじゃない」
二個も三個も咥えようとするので注意する。
マナーの無い奴だ。
「分かってるよ。どうしてこんなにおいしいのかってんだろ? 」
「違いますよ。手紙ですよ。手紙」
「なぜうちの事務所に手紙を送ったかだろう?
私も気になって詳しく調べてみたんだが最初に目に入った広告で決めたんだろ。
何といってもアイ探偵事務所だ。五十音順なら一番上に来る。
まあそう言うのも考慮してアイ探偵事務所にしたんだがな」
「アイですもんね。疑問は解消されました。
しかしそれを狙ってアイにしたなんて先生もセコイですね。本当にセコイ」
「そこまで言わなくなっていいではないか? 目立つのは決して悪くないぞ。
ネットでもしっかりSEO対策したしな」
「SEO対策? まめですね。それも気になっていたんですがもう一つあるんです」
「言って見ろ」
「あれですよ。あれ。ほら…… 」
わざとなのか随分と濁す。
「何だ? もったいぶってないで言ってみろ」
「コウの…… いえ何でもありません」
再び濁す。
「コウ君か。彼の言では一族に恨みを抱くきっかけは父の死。
だがその父は義父だったそうだ。だから血の繋がりはない。
どこぞで泣いている赤ん坊を発見した。もしかするとコウ君は…… 」
突然助手が遮る。
続く




