八
マーガレットさんの家を出て半年経った。
医院には常に行列ができバタバタしているが馴れてきた。ただ、マーガレットさんの店に週二日行けたのは最初の月の三週だけ、その後は一日行くので精一杯になっている。
「無理しなくていいんだよ。」
「ローワンさんヨレヨレ。」
「ローワンさんお化けみたい!」
確かに少し無理はしているがココに来れないなんてそちらの方が辛い。
とりあえずキリンは絞めたから定位置に着こう。この列だと昼は食べられないな…。
予想通り居られる時間いっぱいまで診療になり、きちんと食べるようにとマーガレットさんからご飯の入ったバスケットを押し付けられた。
本当は一緒に食べたかったけどこれから医院に戻らなくてはいけない。
「ありがとう、また。」
足早に医院に戻るとこちらも行列。
バスケットを置いて早々に自分のスペースへ入る。ラスト一人になるまでに日は暮れすっかり夜になっていた。
すっかり忘れていたバスケットを開けるとサンドイッチとスコーンが入っていて、見た途端にグーとお腹から補給要請があった。
「…次は一緒に食べよう…。」
バスケットを空にして暗い夜道を帰る。
明日は少し早く出てバスケットを返しに行ってから医院に行こう。そんな事を考えていた気がする…意識が無くなるまでは。
気が付くと私は手足を縛られ馬車に乗せられていた。揺れで意識が戻り、初めは状況が飲み込めなかったが馬の蹄の音と縛られた手足から拉致された事に気がついた。
平民として暮らしているから金目的では無いと思う。恨みを買う行動…は多少思い当たる。どちらにしろ今出来ることは無い。何せ馬車に窓は無いのだから外の景色は確認できない。馬車の中に転がっているのは私だけだ…。
殺す気ならもっと手荒にされるだろうからとりあえず…寝よう。
普段酷使し尽くしているこの身体を休めるタイミングは今しかない。
そうして私は瞳を閉じた。
「おい、起きろっ!」
「ん…。」
「呑気に寝てんじゃねぇぞっ!!」
「…まだ寝れる……。」
「どんなけ図太いんだよ?!」
野太い声が複数、睡眠の邪魔をする。気持ち良く寝ていたのに邪魔をした、凄くイラつく。誰かこの声の主に医者がどんなに身を削っているのかを説いて欲しい。
「もう担いで行こう。どうせもう引き渡すだけだ。」
「わかりやした。」
どうやら担がれたようでお腹が圧迫されて少し苦しい。これじゃ安眠出来ない。仕方なく薄ら目を開けて顔を上げると見慣れた建物があった。
どうやら誘拐犯は血の繋がった加須らしい。