六
何故だろ…緊張で手が震えてる。こんな事は初めてかもしれない。マーガレットさんに身元を明かして関係が変わるのが怖い…。
「で、ローワンの話ってなんだい?」
「あの…実は……。」
「ん?顔色が真っ青じゃないか!どうしたんだい?!」
「実は…マーガレットさんに隠していた事があります。私は平民じゃありません。貴族の…生まれです。」
「…ローワン、話してくれてありがとう。…こんなに震えて…。」
マーガレットさんは私を抱きしめてくれた。暖かくて、柔らかくて涙が出そうになる。だけど、まだ駄目だ。
「アニイドフ国のグリルレッテ辺境伯家、それが私の生まれた場所。私は家族に疎まれていた…そして婚約話が持ち上がり逃げ出した。もしかしたらマーガレットさんは達に迷惑をかけるかもしれない。
だから、ここまで着いてきたけど一緒には住まない方が良いと思…う。」
言えた。
マーガレットさんにとって一番大切なのはガーベラとキリンだ。私が厄介な存在だと分かればきっと距離を置きたがるに違いない。これでいい。これで…。
「ィッタあ!」
「マーガレットさんを舐めるんじゃないよっ!全く…何を言い出すんだか。
一緒に住まない方が良い?冗談じゃない私はローワンを放り出す事なんてしないよ。まだ何か言う気ならもう一発ゲンコツだ。」
「?!」
「ローワン、私はローワンの事を娘のように思っているよ。だからもし何かあっても私が護る。これでも私は強いんだよっ!」
再びマーガレットさんが私を抱きしめてくれて、今度こそ涙が我慢出来なかった。ずっとずっと、こんな風に暖かい存在が欲しかったんだ。私にも笑って欲しかった。まわりには当たり前にいる存在が、私を認めてくれる存在が…。
「…マーガレットさん…。」
「ん?なんだい?」
「娘っていうには歳が上すぎるから叔母さんくらいでって、ィダあぃ!!」
「ローワンとはたくさん話をしなきゃいけないようだね…。」
それから本当にたくさん話をした。
髪と眼の事も打ち明けたけれど珍しいの一言で終わり。隠さないで本当の姿を見せてほしいと言われて元の白い髪に戻して瞳を隠していた前髪も切ったら何故か双子がキラキラした眼で見てきた。
マーガレットさんの家に住むようになって一年、私は薬屋を手伝いながら隅にイスを用意してもらい簡単な処置や店に来た人で気になった人の診療をするようになった。
切っ掛けは怪我をした子供が薬を買いに来た時、傷を洗わずに砂まみれの手で買った薬を塗ろうとした事。
咄嗟に腕を掴み問答無用で水場に引っ張り傷に水をぶっかけた。
それから怪我をしてる人に注意をするようになり、体調の悪そうな人をみて薬や食生活の改善を勧めたら病気の人からも相談をされ始め今に至る。
「いや~ローワンが来てからお客さんが増えたよ。しかも薬を正しく使える人も増えたから有難いねぇ。」
「…マーガレットさん講師してたくらいだから詳しいでしょ。」
「不思議な事に私が説明を始めると皆居なくなるんだよ。」
マーガレットさんの話は医学に精通してない人には何言ってるか分からないのだろう。専門的すぎる。
「「ローワンお姉ちゃんお菓子作った~!」」
「ガーベラ、キリン、何作ったんだ?」
「クッキー!!」
「二人とも、おばあちゃんには無いのかい?」
「「おばあちゃんにもあげるっ!!」」
「どれどれ。」
良い香りがする。双子は料理もお菓子作りも掃除も上手い。私には出来ない事だから凄いと思う。
「ゴフッ!!!」
「?!マーガレットさん!」
「あ、ああローワン大丈夫だよ。ガーベラ、キリン、このクッキー…何を混ぜたんだい?」
「紅茶とミント!」
「あとイガニガ草も。」
マーガレットさんが犠牲になってくれて助かった…。イガニガ草はエグ味があり苦い、ひたすら苦い。
「なんでそんな草を…。」
「「トリックオアトリート!」」
「…ああ、確かにもうすぐハロウィンだったねぇ。という事はこれはイタズラ用のクッキーかい?」
「「うん。」」
「イタズラ用のクッキーを持って来たのは反応を見る為か…。」
「おばあちゃんがいつも新しい薬は自分で試してからって言ってた!」
「なら食べたのか?」
「「食べてないよ。苦いのイヤ。」」
つまり私を実験台にしようとしたということか…マーガレットさん孫の教育間違えてるな。ここは私がちゃんと正しく導かなくては将来が心配すぎる。