四
「…巫山戯ているのか。」
「…。」
「弁明くらいしたらどうだ。」
「うるさい黙れ。」
私の机の上でビショ濡れになった教本、これをやったのは目の前の席に座る如何にも貴族って服を着た男だ。
挨拶の時にあれ程言ったのに隠れることも無く堂々と私の目の前で何処からか持ってきた水差しの中身をぶちまけた。
「平民風情が俺のまわりにいるなど許せるかっ!その口のきき方も何だ。巫山戯ているのは貴様だ!!教本はいらんっ。路上で花売りでもしていろっ!!」
「ほぅ…教本はいらんか…そうだな中身は全て把握している。私に必要なのは実践だ。教本を駄目にしたんだ付き合ってもらうぞ。」
初回だし人体の関節の方向についてにでもしようかな。
「なっ?!離せっ!!平民風情が俺の腕を掴むなんて無礼だ!!!」
「教本を使わず俺を使えだなんて悪いな。」
「一言も言ってないっ!!」
「知ってるかい?関節は曲がる方向が決まっているんだ。」
先ずは右肩の限界値から。
腕を伸ばした状態での背中側へのアプローチは…。
「うがっ…あだだだだだだ!!!」
あまり可動域は広くないな。
肘を曲げたら何処まで変わるんだろ…。
「無理無理無理無理無理それ以上やるなああああああああ!!!!」
そういえば何かの本で背中で手を合わせる事は可能と書いてあったな…。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
「ん~柔軟性が足りていない。運動不足だな。」
背中で手を合わせるには程遠い位置で腕は止まったので仕方ないから諦めて腕を離すとパタリと床に倒れた。情けないやつだ。
「…そういえば名前聞いてなかったな。」
「「今ソレ言っちゃう?!」」
見守っていた他のクラスメイトが顔を青くして倒れた奴を回収して行った。
結局名前…。
その後、変なちょっかいをかけられる事は無くなり実に有意義な学びの時間を得た。また一人での生活となったし
「アンタッチャブル」などとあだ名され遠巻きにヒソヒソと話をされるか慣れているから問題は無い。今日も定位置の図書館に行く。
「その本を手に取るなんてなかなか見どころがあるじゃないか。」
図書館で初めて話しかけられた。
生徒と言うには歳を取りすぎている気がするから講師に来ている人…?
「その毒草全集は珍しい草も載っているからおすすめだよ。」
「…そうなんですか。」
「そうだ!今から時間はあるかい?他にもおすすめがあるんだよ!ああ、自己紹介がまだだった。私はマーガレットだよ。」
初めて差し出された手は取って良いのか分からなくて固まっていたらマーガレットさんは私の手を引いて強引に握手させた。
「あんたの名前はなんて言うんだい?」
「え…あ、ローワン…です。」
「ローワン!うんうん可愛らしい名前じゃないか。じゃあローワン、早く行きましょ。」