二
「やあ。」
「少年…こんな所で何をしているんだ?」
「少年…まあそんな事もあるかな。込み入った話をしていたから邪魔しないようにしてたんだよ?」
私の容姿を全く怖がっていない珍しい人種。
愛嬌のある表情…黄金の髪に宝石のように輝く青い目…私には無いものだな。
「それは有難い。」
「ところで今の話どうするの?」
「……そんな興味本位の質問には答えない。」
「いやいや、興味本位じゃないよスワンローゼ・グリルレッテ嬢?」
自分の名前なのに久しぶりに聞いた。
家族も周りも呼ばない私の名前…この少年は何だろう。
「いつも医学関連の本を持っている成績優秀な貴女に家庭教師を頼みたいんだ。
報酬は弾むし僕の身分は君の役に立つよ?例えば【アクスレピオス】への入学の手助けも、ね。」
「それは本当か?!」
アクスレピオスは医術を学ぶ者全ての憧れの場で、膨大な医学書が並ぶ図書館に王族付きのエリートによる講義等素晴らしい環境下で優秀な医療従事者を育成する事を目的とした学び舎だ。
入るには年に一回行われる最難関と言われる試験を受けるか地位のある医療従事者から推薦を貰うかの二択になる。
自分には縁遠い場所と入る事は諦めていたけれど目の前の少年が誰かは分からないが、本当にそんな事ができるのであれば断る理由など微塵もない。
更に自分は今を捨て逃亡する三段を付けていたのだから少年の話が嘘だったとしても問題はない。
「僕って結構地位が高い家の子だからね。ちゃんと約束してあげるよ。」
「分かった。引き受ける。」
「…自分で言うのも何だけど、本当に?」
「ただし私からも条件がある。
まず家庭教師は三日後からだ。そしてアクスレピオスには平民として入れるようにしてくれ。あと授業は誰にも知られない場所で行いたい。」
「分かった。じゃあ三日後、ココで同じ時間ね!」
走って行く少年を見送り寮に帰る。
簡単に荷物を纏めて夕食を食堂で取り風呂に入ってベッドに入る頃になって私はやっと少年の名前を聞いていない事を思い出した。
次に会った時に聞こう。
次の日、朝一で担任に飛び級で卒業したいと伝えると万遍の笑みで直ぐに手配すると言われた。
私は教師にまで疎まれていたらしい。
まぁ原因は分かっている。微妙な言い回しを指摘したり当てられた時に一から十まで説明した事や毎回テストで満点な事が気に食わないのであろう。
「今日の授業は全て免除するわ。夕方…いいえ、昼には問題ができるし採点もすぐするから心配しないで。」
手を振り私を追い出した後に「よっしゃー!!!!!」と聞こえた。そんな性格だったのか。
担任は有言実行し、図書室に篭って本を読んでいたら昼頃に呼びに来た。
試験の為に連れてこられた部屋では校長と教頭がニコニコ顔で待っていたが、言葉を交わすことなく座らされ試験は開始された。
試験終了後、その場で採点するからとそのまま待たされ担任が少し離した机で確認していく。
十分程で採点を終えた担任は微妙な顔をしていた。
「満点です…。」
「「ほう。」」
事前に用意していたようで校長からその場で卒業証書を渡される。
寮からは三日以内に出て行くよう言われたので了承する。
「入学時に支払った生活費等は返金があるのでしょうか?」
「もちろん差額は返金する。」
「口座のやり取りがお手間でしたら直接渡してもらって構いませんよ。」
必死な様子で渡せなんて言えば怪しまれる。コレくらいの言い方なら大丈夫だと思うが…。
「教頭、会計担当から書類と差額を。」
「分かりました。」
提案を受けてくれたので当面の生活費ができて取り敢えず安堵した。
口座のやり取りは先に相手に手紙を出したりやる事が多いから改善した方が良いと思う。
お金の入った袋と書類を受取り、受取り書にサインが終わるとこの学園でやる事は無くなった。