十五
「おはよう。マーガレット…さん。」
「おはよう、ローワン。努力は認めるけどまだまだだねぇ。早く"さん"が無くなって欲しいもんだ。」
今日は朝から薬屋に来ている。
辺境伯夫人が来たあの日から一年が経った。あれ以来私の生活を脅かす存在は現れていない。
ガレットも病が良くなり半年前に私の家を出て行った。症状が酷かった時は日雇いの軽作業をしていたが、緩和してきてからはまた体を鍛え定職にもつけた。
「ローワンの家に何時までもいたら別の病気になりそうだ。早く家政婦を雇うか家事のできる伴侶を見つけろ。」
この言葉は余計なお世話だったが患者が元気になるのは喜ばしい。
最近はマーガレットさんから親近感が足りないと言われ呼び方の変更を試みているがまだ無理そうだ。
「あ、そう言えばローワン。叙勲を辞退しようとしているらしいじゃないか。」
「……何処からそれを。」
「医院長が泣きついてきたよ。どうか説得してくれって高級な菓子まで置いていってね。ガーベラとキリンが食べちゃったから一応ひと言だけ言わせてもらうよ。
貰えるものは貰っときな。」
「……また目をつけられそうで面倒。そして柄じゃない。」
「じゃあ仕方がないねぇ。」
「そんな事より早く行こう。」
今日はガーベラとキリンの誕生日プレゼントを取りに行くから朝から来た。
目的地はマーガレットさんの秘密の薬園。個人所有でマーガレットさんと役人以外は知らない場所らしい。
今回私の同行が許されたのは管理がマーガレットさんの負担になってきたからだと言われている。
マーガレットさんの影響で薬作りにハマるガーベラと物の価値に興味を持ちよく薬草の値段を調べているキリンのに冬虫夏草と価格変動があり調べがいのある鉱物を取りに行くのだが行くだけで疲れるらしい。
「さあ、ローワン。張り切っていくよ。」
山道を進む、崖を登る、坂道を登る。
そうして着いた薬園は山の頂きにありとても良い景色だ。
そして珍しい薬草ばかり。
「マーガレット…さん。見た限りここの薬草、育てるのは無理と言われているものばかりじゃないか?」
「だからこんな場所で秘密なんだよ。」
「不思議だった。講師にくる人は皆が地位のある有名人だったけれどマーガレット…さんは違った。それに顔がききすぎる。」
「講師というよりはスカウトに行っていたからねぇ。ローワンを見た瞬間この子だと思ったよ。ガーベラとキリンがココに来れるようになるにはまだまだかかる。この薬草達は国の一大事に使う事を了承しているけれど管理者の許可の元ってなっているから私に何かあった時に困るの。
ローワンにならココを任せられる。
自慢の娘よ。」
抱きしめてくれたマーガレットさんの温もりで溶けそうだ。いや、溶けたから水が顔を伝ったのか。涙なんて幼い頃に枯れ果てたと思っていた。
「…何かあったらなんて言わないで欲しい。想像もしたくない。」
「ふふふ。ローワン、コレはココの管理者の証だから肌身離さず持っていておくれ。人目につかないように服の中に。」
マーガレットさんは首の辺りを探り、首についた赤い石のペンダントを外して私にかけた。
「大切にする。」
「頼んだよ。さあ、そろそろプレゼント探しをしなきゃねぇ。」
その後、目的の物を探して下山した。
三日後に行ったガーベラとキリンの誕生祝いの席でマーガレットさんが冬虫夏草を私が紫石英を渡した。
「「ありがとうっ!!」」
少し変わったプレゼントだったのに万遍の笑みでお礼を言われホッとした。さすがマーガレットさん。
この暖かい家でこの笑顔の中で私は生きていける。なんて幸せだろう。
明日は教会で神にマーガレットさんとガーベラとキリンに会えた事に感謝の言葉を捧げてこよう。
FIN




