十
拉致されて四日、治療薬は出来ないが痛みを緩和する薬は出来たとかかりつけ医から辺境伯に報告させると辺境伯夫人が地下室にすっ飛んできた。
「薬を出しなさい。」
「この薬は服用後直ぐに痛みを緩和していきます。しかし効き目は一時間のみ。効き目が切れてくれば脱力感や気鬱になってきますが暫くすれば治まります。一日に服用して良いのは三回までで、飲む間隔は最低四時間空けなければなりません。
そして最も重要な事は今後一切摂取してはいけない食べ物が数種類あります。それ等を破れば死ぬまで激痛が走る身体になるでしょう。」
「ふん。こんな中途半端なものしか作れないなど…早く治療薬をつくりなさいっ!勿論この薬も継続してつくるのです。」
手に持っていた薬瓶と説明書きを奪うと辺境伯夫人はドアも閉めずに去って行った。なん日もつだろう…。まあ、私には関係ない事だ。
開け放たれたドアからかかりつけ医が苦笑いを浮かべながら入ってくる。手に持つ鞄は少し大きめだがパンパンになっている。逃げる準備は万端のようで私は床に置かれた毛布を頭から被る。
「あと十分もしたら皆グッスリです。」
今日の昼過ぎ、かかりつけ医に厨房へ辺境伯に食べさせない食材リストと薬瓶を一つ届けてもらった。
薬瓶は私特製の滋養強壮爆睡ドリンクで、少々独特の苦味と香りはあるが料理に混ぜれば気にならない程度だ。
身体に良いので主達だけではなく使用人のスープにも混ぜるよう料理長に言ってもらったので、屋敷内の全ての人間が食事を終えたであろう今、皆が爆睡し始めるのは時間の問題。
もちろん私とかかりつけ医、もう一人の協力者は食事をしていないので眠くはならない。
置き土産に緩和薬は一月分、レシピと共にテーブルに置いてある。これが最後の優しさだ。
様子をみながら屋敷を出て少し歩くと協力者が馬車を待機させて待っていた。
協力者は私に食事を運んでくれていた男、名前はガレットと言うらしい。辺境伯家に護衛として雇われたが数週間前に右手に違和感を感じそこから段々動かなくなっていって今では右腕に力が入りづらくなってしまったそうだ。
そんな状況なので護衛からは外され、数日間の様子見中でこのままなら解雇さられるという所に暇ならと執事から私に食事を運ぶ係を言い渡されたそう
。
辺境伯の痛風なんかより余っ程ガレットの方が興味深い。私の知らない症例…解明して治す。
夜中馬車で走りやっと戻ってきたアプリコット国に入ると私は真っ先に薬屋に向かった。
「ローワンっ!心配してたんだよっ!!」
「マーガレットさん…ただいま。」
やっと私の居場所に帰ってこれた。




