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新しい日常。戻らない日常。

「…というわけで、あの城を占拠していたもの全てを討伐してきました」

「そうか…ご苦労だった。後で使いを出す。その者に、今回の報酬を持って行かせる。ひとまずは、家でゆっくりするといい」


ふう…長かったけど、これでようやく全てが終わった。そう実感しながら、私は玉座を後にした。

この後にやることもなかった私は、初めてハイロさんの家に行こうと思い、少しばかりの手土産を持ち、ハイロさんの家を訪れた。

コンコンと強めにドアを叩くと「は〜い。今行きますね〜」と、元通りとなった優しいハイロさんの声が部屋中をこだました。


「はいは〜い…って、ギルド嬢さん?こんなとこに何しに来たんですか?」

「いえ、この後の予定が見つからなくて…よろしければ、ハイロさんの家に上がらせてもらっても…」


そういうと、ハイロさんはニカっと笑い


「あ〜、そんなの気にしなくっていいですよ〜。てか、敬語とかもいいですし。普通にタメ口で話しましょ」


と言ってくれた。

私はそれに微笑み


「…じゃあ、わかった。よろしく、ハイロ」

「うん。よろしく!えっと…」

「アメラです。普通に、アメラで」

「ん。じゃあ、アメラ。よろしく!」


そう笑う彼の顔は、何にも増して輝いていたような気がする。



「広いなぁ…」

「だよな〜。こうも広いと、1人で住んでるのが惜しくなる」


部屋の隅々まで見させてもらいながら私は感嘆していた。


「そこ、座ってて」

「え?あ、はい」


私が促されたそこは、食事をするためのダイニングテーブルだった。


「…まさか…手料理⁉︎」


私は勝手に解釈し、勝手に興奮していた。

そうすること30分後。


「お待たせ〜。俺特製『懐かしいナポリタン』だぞ!」

「な、なぽりたん?なぽりたんとは、どんな…」

「まあまあ。一口食ってみな」


彼がそういう料理は、パスタがピーマンや玉ねぎやベーコンといった数種類の具材とともに、何か真っ赤な液体で絡められたものだった。


「では…いただきます」


料理と共に置かれたフォークで一口分掬い取ってみる。

香りからして、ケチャップか何かかと予想を立てる。ケチャップにパスタ…一体、どんな味がするのかと怖気つきながら、怖いもの見たさに一気に食らいついてみた。


「……。ん!」


美味しい。

ケチャップはケチャップなのだけれど、熱を通してあるからなのか酸味が弱くなっていて、甘味が強くなっている。ネチョっとしていて、普通ならソースと呼ぶには少し気持ちの悪いソースも、パスタによく絡んできて、逆にこうじゃなきゃいけない気もした。

もうひと口。今度は具材も一緒に食べよう。

ピーマンの苦味。玉ねぎの甘み。ベーコンの旨味。それらの味が一体なり、口の中を駆け巡った。


「どうだ?美味いだろ?」

「はい…とっても美味しい…」

「チーズとタバスコもかけてみろ。うんめぇぞ」


と言って、チーズを粉状にしたものと、タバスコを手渡してきた。


「じゃ、じゃあ…」


そのさきの記憶は、殆どない。彼曰く「なんかもう、飢えた獣みたいに胃に放り込んでたぞ、お前」とのこと。美味しいが、2度と人前で彼の料理は食べないようにしようと誓った今日この頃だった。



「お風呂もすっごい…」


ナポリタンを食べた後、少し談笑していただけのはずがかなり熱が入ってしまい、気が付けば時計は8時を指していた。

こんな時間に返すのも気が引けると言い、彼はお風呂を貸してくれた。半露天風呂のようになっていて、綺麗な街並みの夜景を眺めながらその体をゆっくりと温めていった。

疲れとは別に。何か心の問題が洗い流されていくような。なぜかそんな感覚を覚えながら。



「お風呂、ありがとうございました」

「あ〜い。洗濯物、どする?いやじゃなきゃ洗っておくけど…」


その提案に、不覚にも胸がドクッと跳ね上がった。


「だ、大丈夫!あ、ありがとう…」

「そ、そっか。なんかあったら言えよな」


うんとだけ答えて私はさっさと案内されていた部屋で睡眠を試みた。



翌朝。重たい瞼を擦り、体をゆっくりと持ち上げた。

ぼーっとしながらリビングへと向かうと


「お。おはよう。朝飯出来てっぞ〜」


と言ってダイニングテーブルに視線を促した。

テーブルの上には真ん中に一本端から端に切れ込みが入れられたロールパンが積まれたカゴに、その隣には皿いっぱいに乗せられたソーセージとレタス。そしてケチャップとマスタードが置いてあった。


「…これは、どうやって食べるん…食べるの?」

「ふふ。ああ、このパンにソーセージとレタスをこうして挟んで、ケチャップとマスタードをかければ…」


説明しながら流れるような手つきでパンに挟んでいき、その上からウェーブを描くようにケチャップとマスタードをかけた。


「ミニホットドックの完成。ほら、食べてみ」


ミニホットドックを手渡され、恐る恐る齧ってみる。


「…あ、美味しい」


朝にしては一個一個がボリューミーだけれど、これしかない分、充分に満足できる。


「あとこれ。コーンポタージュ」

「ありがと」


あったかいコンポタを飲み。そんなちょっと優雅な朝ごはんを堪能した。


「アメラさ、どっか行く宛てあるの?」

「あるよ。ちゃんと家がある」

「そっか。じゃあ今日は帰る感じ?」

「うん。ごめんね、急に押しかけてきちゃって」


ハイロさんはフルフルと首を振って


「いやいや。気にしないでいいよ。てか、誰かが家に来るなんてそうそう無いしさ。案外楽しかったよ」

「そっか。ありがと」


そう思いながら今は過去になってしまったことを思い浮かべた。


「にしても、60と2分の1って…まさかヴァルさんのレベルだったなんて」

「最初に見た時の経験値を設定したらそうなったんだ」


最初に見た時の当時。彼女のレベルは60。経験値の量は61に上がるまでちょうど半分の20000だった。

あの時。私は60レベルになりたての人物を細かく調整し、その経験値になるように神経をすり減らし、そうして作り上げたのだ。


「でも、アメラのおかげでこうしてまたもどれた。ありがとな」

「は、はい!」


素直にそう感謝され、私は認められた気がして。胸を張って返事できた。


「…んじゃ、そろそろ俺も行かねぇとな」

「え?どこに行くの?」


私の問いに少し考え、彼はニッと笑って


「ま、()()()()()()()()()。かな?」


それだけを残して、彼は家を出て行った。

昔の約束とは何か。私はいまだにわからないままだ。

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